第2話 僕だけ使える古代魔法


 ーーロントモアーズの森ーー



 僕はアリアス・ユーリィ。


 20歳。男。黒髪で痩せ型。


 メガネは寝る時以外、ずっと掛けている。


 職業は魔法の設計士だ。


 いや、だったと言うべきかな。


 ついさっきクビになった。


 今は無職なのかもしれない。


 しかし、この仕事には誇りを持っているからな。


 フリーの設計士ということにしておこうか。


 少し、この職について説明が必要かもしれないな。


 いまだ大陸でも、知名度が低いからな。


 なにせ、この職業が制定されたのはつい5年ほど前のことだ。

 その歴史は浅い。


 だから、通っていたオムライス屋の婆さんなんて、いまだに僕のことを学生だと思っているくらいだ。


 魔法の設計士とは、その名のごとく魔法を設計する人のことをいう。

 

 魔法とは自然の魔力と体内の魔力を融合させたモノだ。


 それがまぁ、色々と複雑でね。


 自然には常時、流動的な魔力が発生しているのだけれど。

 それに合わせて、魔法の威力が数100倍も変わってしまうんだ。


 設計を間違えれば不発、爆発、なんてこともありえる。


 だから、魔法を使う時は慎重にやらなければならない。


 魔力量を計って、詠唱時間を変えたり、姿勢を変化させたりという風にね。


 その設計をするのが僕たちの仕事ってわけだ。


 まぁ、説明するより実演の方がわかりやすい。


 僕は指を地面に突き刺した。


「ふむ。湿度魔力量は3.2程度かな。そうなると手のひらの角度は水平から23度まで上げて。詠唱時間は1秒で5文字だな」


 本当は魔力計器があると正確に自然魔力を測れるのだがな。


 高価な魔道具は全て研究所に置いてきた。


 今は感覚だけが頼りだ。



「体内の魔力量は21程度でいいだろう」



 僕は脳内で詠唱を済ませると叫んだ。



「ファイヤーボール!」



 同時に5つの火の玉が出現。


 森の中へと飛んでいった。



ギュゥウウウウウウン!!

チュドーーーーーーン!!



 手応えあり。


 ファイヤーボールの追尾弾だ。


 このように、普通のファイヤーボールでも少ない魔力量で応用を効かすことができる。


 1匹のコッコルーを仕留めることができた。


 こいつは鳥型の小型モンスター。


 鳥なのに羽が退化して飛べないんだ。


 味は抜群に美味い。


ぐぅう〜〜〜〜。


 おっと。

 腹の虫がおさまらん。



「昼飯を作ろうか……」


 

 僕は魔法暦書の解読に尽力していたから、食事なんていつも外食だった。


 だから、料理なんてやったことがない。


 しかし、そのおかげでたくさん勉強したからな。


 キノコや山菜の知識は豊富なんだ。


 食べられる植物を採って、焼いた肉と合わせればいいだろう。

 

 いわゆる香草焼きだな。


「クンクン……」ふむ、これは食べられるキノコだ。


 言い忘れたが僕は食にはうるさい方なんだ。


 人生を魔法暦書の解読に捧げるのと同時に、美味い料理を食べることは欠かさなかった。


 研究所近くにあるオムライス屋には入り浸っていたな。


 婆さんの作ったオムライスがトロトロで美味かったっけ。


 さて、そうこうしているうちにできあがった。


 3種類のキノコを香草で包んで焼いてみたぞ。


 ナイフとフォークは木の枝を削って作ってみたが、なかなかのできだ。


 テーブルは倒れた大木。


 ワインは無いが山葡萄が取れたからな。


 それを絞って木のコップに入れた。


 ふむ、初めての料理にしては上出来じゃないか。



「いただきます」



パクパク。ムシャムシャ。



 うむ、美味い。


 やはりキノコと肉は合うな。


 このエリンギエルとマッシュルムンのキノコがコッコルーの肉と絶妙に合うんだ。


 料理とは非常に面白いものだな。


 ごちそうさま。


「さて、腹も膨れたし、次は住む場所だな」


 このロントモアーズの森は危険が多すぎる。


 モンスターに遭遇したら厄介だ。


 特に群れに遭うのは絶対に避けたい。


 1人の場合、背後からの攻撃には弱いんだ。


 それに、僕は設計士だしな。


 戦いが専門というわけではない。


「やはり、どこか大きな街に行って職を探すのが妥当だろう」


 隣国のジルベスタルは徒歩で3日はかかるだろうか。


 僕は国外追放の身だからな。


 ロントモアーズ領で夜を明かしたのが発覚すれば衛兵に捕まってしまうよ。

 

 と、なれば移動の呪文か。

 

 しかし、歩行速度を速くするホライゾンの魔法は身体の負担が大きいんだ。


 僕はデスクワークの人だからな。


 楽に移動するのがいい。


 僕は地面に魔法陣を描いた。


 丁度その時、ガルルゥという唸り声が周囲から聞こえてきた。


 やれやれ。

 噂をするとだな。


 顔を出したのは1匹のクローウルフ。


 狼型のモンスターで体毛が緑色。


 小型だが群れで行動する。


 こいつが見えたってことはつまり、もう囲まれていると言っていい。


 さしずめ、さっきの香草焼きの匂いを嗅ぎつけたのだろう。


「魔力湿度は2.5くらいかな」


 陣の中から淡い光が発せられる。




「ビルド!」



 

 僕の言葉と同時。


 森の木が魔法陣の中に集まったかと思うと、瞬く間に馬車を形成した。


 狼たちは驚いてキャインキャインと騒ぎ立てる。


 この魔法は創造魔法の応用だ。


 魔法歴書に書かれた知識を応用した。


 いわゆる、古代魔法。


 僕だけが使える魔法だ。


 本来ならば、ここまで綿密な構造物は作れない。


 魔法暦書を解読している僕ならではと言っていいだろう。


「ふむ。設計どおりの馬車ができたぞ」


 馬がいないので、その部分には大きな車輪が付いていた。


「動力は魔力なんだ」

 

 この車輪に僕の魔力を注ぎ込んで動かす。


 だから、馬車と言うより、



「魔車か」



ドン!



 それは凄まじい速度で発進した。


 クローウルフの群れが僕に飛びかかるより数段早い。


 群れを蹴散らし、颯爽と森を抜けた。



「おお! 速い!!」



ギュルギュルギュルゥウウウウウウウウ!!



 回転する車輪が屋形を引く。


 方向転換ができるようにハンドルを付けたのは正解だったな。


 このままだと大岩に衝突してしまう。


 急旋回だ。



ギュィイイイン!!



「ふむ。僕の操縦はなかなかじゃないか」



 これならば、すぐにでも……。


 見えた。



キキィイイイーーーー!!



 ブレーキは魔力を切ることで可能なんだ。



「ふむ。日暮れ前には到着したな」



 王都ジルベスタル。

  

 そこは強固な外壁に囲われた巨大な街だった。


 人口は100万人以上と聞いたことがある。


 魔車を収納魔法で亜空間に仕舞って街の入り口へと歩く。


 そこでは数名の門番がいて検問をしていた。


 門番は僕を見て顔を顰める。


「難民だぁ? 貴様の格好。とてもそうは見えんぞ。妙に小綺麗じゃないか」


 国外追放にあったとは言えないな。


 検問ならば犯罪者の入国なんて論外だろう。


 だから、小国が消滅して難民になったと言い訳をする。


 しかも付加価値を付けて、



「僕は魔法の設計士だ」



 役に立つ人間は国で囲いたいものなんだ。


 行き場の無くなった設計士だぞ。

 儲けもんだろう。


 しかし、



「ぶひゃひゃ! せっけいしぃい? 何その職業ぉおお!?」



 おいおい。

 門番が設計士を知らないのかよ。



「悪いが怪しい人間を王都に入れる訳にはいかんぞ。それに、難民は断ることにしているからな。帰れ!」



 やれやれ。

 もうすぐ夕暮れだ。


 1人で野営なんてしてみろ。

 狼の群れに食べられてしまうよ。


 なんとしてもこの街には入らせてもらうぞ。


 僕はメガネをクイっと上げた。

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