第2話 令嬢から提案された選択肢



 ――まず前提として、私はアクアマリン公爵家の血を継ぐ娘です。ですが我が国では女が当主を正式に継ぐ事は法的に認めておりませんので、現アクアマリン侯爵家当主であるお父様の一人娘である次期アクアマリン侯爵当主となります。婿入りされるギャビン様には公爵家の当主権限は一切与えられません。従って、当主ではないギャビン様に愛人の存在は認められませんの。そもそも貴族の愛人制度は当主、もしくは夫を亡くされ代理当主となった婦人の特権ですものね。ギャビン様には当てはまりませんわ。そのことは婚約当時から我が家の婿入り条件としてお伝えしておりましたでしょう?



 …まぁ、どうしてもあの令嬢を愛人としたいのでしたら、条件次第では認めて差し上げてもよろしいですが…。その条件ですか? そうですわね、最低でもその愛人の受け入れ時期は私が後継ぎの子を産んだ後となりますわね。子は二人ぐらい欲しいですので数年はかかるでしょうし、こればかりは運しだいですので時期をはっきりと指定出来ませんわ。そして、当然ですがその愛人にかかる費用はギャビン様ご自身の資産から出して頂く事になります。アクアマリン侯爵家とは関わりのない方ですもの。後は、愛人との間に子が出来た場合は時期を問わず、即座に婚約を破棄、または離縁して頂くことになりますわね。何故って…ご存じないのですか? セプソン伯爵家の愛人裁判事件を。



 確か歴史の授業にも出て来た話のはずですが、簡単に話しますと…当主の愛人が男子を産み、その後事故で当主が亡くなった際にセプソン伯爵家には娘しか居なかった為、伯爵家の後継者問題に本来権限のない愛人が乗り込み口を出して周囲の者を巻き込んでの大騒動となり、結果、多くの怪我人が出たばかりか、本来婿を迎えて後継者を産むはずの娘が殺されました。セプソン伯爵夫人は大騒動のきっかけとなった愛人を訴え、判決の結果愛人とそのまだ幼かった子供は共に死罪になり、セプソン伯爵家は正式に継ぐ者がいないことと、伯爵家内の問題を諫められなかった罰として爵位返上が決定致しました。身内の問題を世間に大きく晒すことは貴族としての恥さらしも同然…爵位剥奪でなかったことがせめてもの温情ですわね。どうでしょう、この話に聞き覚えはありませんか? 



 覚えがありましたか、それは良かったですわ。…実は当時のセプソン伯爵家の貴族としての寄り親は我がアクアマリン侯爵家だったそうで、このような事件の二の舞には決してならないようにと、こと愛人関係に関しまして我がアクアマリン侯爵家とその系列は厳しく取り決められておりますの。今回の場合、ギャビン様は入り婿ですので婚約破棄または離縁してしまえば、ギャビン様とその愛人の子とは我が家の繋がりすらもなくなります。愛人となったあの令嬢が我がアクアマリン侯爵家に口出ししてくるようなことはないと思いたいですが、万が一の憂いは絶っておくべきでしょう?


 

 …私からの最低限の条件はこれぐらいでしょうか。詳細は両家に関わる事柄ですので、まだまだ条件が付くと思います。それで、ギャビン様はどうされますか? 現時点であれば私との婚約を破棄ではなく、解消とすることも可能です。破棄と解消の違いなど、今更説明はいりませんでしょう? それともこちらの条件を受け入れて、愛人を持つ事が出来る時まで大人しく待ちますか? 私としてはどちらでも構いません。



 さぁ、今この場で、貴方の意思をお聞かせくださいな。


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