第8話 復讐は遠回りの後に
「……と、以上が概ねの経緯ですわ。その後は『あの男』の手掛かりを探し各地を転々と放浪してましたの。……その途中でゴブリン退治に再び失敗したこともありますけど……お聞きになります?」
「……いえ、結構です。ありがとうございます。……さぞ辛かったことでしょう」
令嬢の話を聞いた3人は悲痛な面持ちになる。
悪評のため帰る家も失い、誰とも一党が組めず、
──にも関わらず、彼女は今まで折れず曲がらず堕落せず冒険者を続けていたのだ。なんたる気高き精神であろうか。それだけでも相当な偉業であると言えるだろう。
「皆様、恥を承知でお願いがございます。どうか、『あの男』への復讐に皆様の手をお貸しくださいませ……!」
「お断りします」
頭を下げる令嬢に対し、"鬼謀"は無慈悲に言い放った。
「おいコラ"鬼謀"の、そこは受ける流れだろうが」
「そうですよ、どうしてそんなこと言うんですか」
抗議の声を上げる2人に対し、"鬼謀"は渋い顔を向ける。
「良いですか? 我々とて慈善事業でやってる訳ではないのです。復讐に加担するのは良いとして、我々にメリットは? 仮にそれが我々への依頼であるならば、報酬ないし対価が必要な筈です。何らかのメリット、あるいはそうせざるを得ない理由が無ければお互いの関係は長続きしません。それに、どこまで手伝うのかが明言されてません。手掛かりを探すだけか、はたまた『あの男』とやらを殺すまでなのか。現時点で目標への道筋が明確で無い状態で漕ぎ出せば、たちまち道に迷い瓦解することでしょう。そして何より、彼女が我々の背中を預けるに足りる存在であるかどうかです。既に彼女は二度も敗北している。このまま共に戦うには、些か不安が払拭しきれません。……貴女の境遇には同情しますし、その志しは立派だと思います。しかし、安易な考えで貴女の生涯を掛けた復讐に我々を巻き込まないでいただきたい」
"鬼謀"は正論を捲し立てた。これには令嬢勇者に同情的だった2人も反論出来ず閉口する。"鬼謀"の言う通り、危うく一時の感情に駆られて破滅の道に片足を突っ込むところであったのだから。とはいえ、このままでは令嬢があまりにも浮かばれない。
「わ……わたくしから出せる対価と言ったら……この身体くらいしか……っ! ……わたくしの身体がお望みでしたら、どうぞお好きになさってくださいまし……っ!」
意を決した令嬢は立ち上がると、身に付けていた下着鎧や具足の全てを消し去り一糸纏わぬ姿を晒した。
「ほう、身体ですか! その覚悟や良しっ!」
「"鬼謀"さん!?」
「テメェ、何言って……!?」
焦る2人を差し置き、"鬼謀"は着ていた己のマントを令嬢に羽織らせる。
「──貴女は少々焦り過ぎだ。言葉巧みに追い詰めたことは謝ります。ですが、多少追い詰められた程度でこんな短絡的な考えに至るようでは、いつか必ず身を滅ぼします。……貴女はまだお若い。焦らずとも、多少の寄り道や回り道する余裕くらいはある筈です」
赤面し涙を浮かべる少女に目線を合わせて諭す"鬼謀"。
「ぇ、あ……で、でも……わたくしから出せるものと言ったら、ほんとにこれくらいしか……」
「何も身体の使い方は1つではありませんよ。日々の家事や雑務、それに戦闘。やれることは多岐に渡ります。提案なのですが、暫く復讐の旅はお休みにして我々と共にここで暮らしませんか?」
"鬼謀"の提案に令嬢勇者は目を丸くした。
「……どういうことですの?」
「何、手掛かりを求めて当ての無い旅を続けるよりも、拠点を構えて暫く情報を集めた方が良いかと思いましてね。冒険者として鍛え直し、実力を付けるのも良いでしょう。それに……貴女のことが気にならないと言えば嘘になります」
「えっ?」
「えっ!?」
令嬢の手を握る"鬼謀"。これには"白骸"も驚きの声を上げる。
「あ、あの……そ、それは、どういう意味ですの……!?」
「貴女のその鎧、実に興味深い! 由来も然ることながら、どういう仕組みで他にどんなことが出来るのか。上手く使いこなせば戦略の幅が広がること確実! いやはや、興味が尽きませんよ!」
「……へ?」
呆気にとられ再び目を丸くする令嬢勇者。
「ああ……こういう人でしたね、"鬼謀"さんは……」
「……ったく、呆れた奴だぜ、この
"鬼謀"をよく知る2人は呆れて頭を抱えた。
「とにかく、貴女にとって損は無い提案だと思いますが、いかがですかな?」
「……こんな、敗牝令嬢などと蔑まれるわたくしですけれど、本当にここに居てもよろしいのですか……?」
勇者たちは顔を見合せ頷いた。
反対する者は最早1人も居なかった。
「ようこそ【追放勇者同盟】へ!」
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