第2話 勇者たちの帰還

「ふぃーっ……漸く帰って来れたぜ。護衛の仕事も、なかなかどうして遣り甲斐あるじゃねぇの」


 大剣を担いだ赤髪の屈強な冒険者が、一仕事を終えたことに安堵し大きく伸びをする。

 彼こそは"暴勇"の勇者。この辺境の街に居を構える冒険者の1人だ。


「まさか道中でキマイラに遭遇するとは思いませんでした。しかも"暴勇"さん独りで倒しちゃうし……」


 革鎧を纏った白髪の小柄な少女──"白骸"の勇者は、肩の上で骨鼠を遊ばせながら、ため息まじりに独りごちた。


「いやぁ、助かりました! 皆様のお陰で無事に街までたどり着けました! 本当にありがとうございます!」


 依頼人である中年の商人が護衛の冒険者たちに頭を下げる。実際、彼らの活躍が無ければ、今頃キマイラの夕食になっていたと言っても過言では無いのだ。


「いえいえ、報酬分の仕事を全うしたまでですよ。ご満足いただけましたら、今後とも我々【追放勇者同盟】を何卒よしなに……それと、追加報酬の件ですが……」


 胡散臭い笑みを湛えた黒髪糸目の青年が、依頼人を相手に報酬の上乗せを交渉する。

 "鬼謀"の勇者、それが彼の異名であった。


 "暴勇"に"白骸"そして"鬼謀"の3人の勇者たち。

 彼らは皆、かつて勇者失格の烙印を押され己の一党パーティーを失った、冒険者界隈の問題児異端児鼻つまみ者たちであったが、ひょんなことから掟破りの勇者同士による一党ならぬ同盟──【追放勇者同盟】を組むに至ったという。

 

 この奇妙な一党──もとい、【追放勇者同盟】は今、数週間に及ぶ護衛依頼を完遂し、漸く慣れ親しんだ辺境の街へと帰還したところであった。



 3人の勇者が冒険者ギルドの扉をくぐる。

 見慣れたギルドの中は、大勢の冒険者たちで相も変わらず雑然としていた。

 壁に貼られた無数の依頼の紙を眺め吟味している者や、カウンターで依頼達成の報告をする者、テーブルを囲んで報酬を山分けする一党など、老若男女多様な冒険者で賑わっていた。


 "鬼謀"が代表して職員とやり取りを行っている間、"白骸"が暇潰しに貼り出された依頼を眺めていると、背後から手が伸びてきて目の前の依頼が剥ぎ取られる。


 振り返ると手の主……女冒険者と目が合った。

 高貴さを感じさせる美しい金髪に整った顔立ち。だが、纏ったボロ布のようなマントと、どこかやつれた表情が彼女の美しさを些か損ねているように見えた。


 女冒険者は小さく「ごめん遊ばせ」と会釈すると、そそくさと依頼をカウンターへ持って行ってしまった。


「今の人、何処かで……?」


 "白骸"は女冒険者に既視感を覚えたものの、思い出せずにいた。



「……ですから、先程も申した通りこちらの依頼は一党向けでして……申し訳ありませんが単独ソロの方には受注をお断りしております」

「そう、ですの……」


 既に何度か断られているのであろう、女冒険者は力無く肩を落とした。


「ヘヘヘ、困ってるみてぇだな姉ちゃん。どうだ、俺たちと組まねぇか?」


 下卑た笑みを浮かべた若い男が女冒険者に声をかける。


「……結構ですわ。生憎とわたくし、組む相手は拘ってますの」

「そう釣れないこと言うなよ、悪いようにはしねぇからよ……」

「……ッ! わたくしに触れるな、下郎……!」


 マントを掴まれた女冒険者は、咄嗟に身を翻し直剣を男の喉元に突き付けた。

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