第20話 二振りの大剣

 "暴勇"師弟は、斬っても斬っても一向に死なないキマイラゾンビに苦戦を強いられていた。

 何度斬り掛かろうとも決定打にならず、太い腕や鞭のような尻尾で薙ぎ払われ距離を取らされてしまう。

 距離が開けばたちまち与えた傷は癒えてしまい、このままでは勇者たちの方が徐々に不利に陥ってしまう。

 既に何度も地面や木に叩き付けられ、満身創痍の"暴勇"師弟。最早万事休すか……そう誰もが諦めかけていた。



 ──その時、"鬼謀"がキマイラに向けて何かを投擲した。



 投擲物はキマイラの頭に着弾すると、ガラスでできた容器が割れ液体が振り掛かる。それと同時に、容器の栓を兼ねていた燃え立つ布から引火しキマイラの身体が炎に包まれた!

 これはそう、火炎瓶である!


「"暴勇"の! 獣人殿! 貴方たちは全力でキマイラを相手してください! 出来る限り、全力で! !」


 "鬼謀"が声を張り上げ作戦を発令する。

 生半可な傷ではたちまち回復されてしまう……ならば回復が追い付かないくらい斬り刻んでやればよいのだ!


「はぁ!? 全力でかかれだぁ!? それが策か!? ……ははっ、わかりやすくて最ッ高だ! いいぜ、やってやらァ!!」

「お任せを! 行きますよ師匠ッ!!」


 "暴勇"師匠は大剣を蜻蛉に構え、同時にキマイラの懐へ飛び込んだ!


「「チェエエェェェストォォォォォォォォッッ!!!」」


 辺境の獣人に伝わる咆哮を上げながら、"暴勇"師弟は渾身の一撃をキマイラに叩き込む!

 2人分の一撃の重さに、さしもの動屍体もバランスを崩しよろめいた!


 だが、それだけでは止まらない!

 2人は交互に絶え間なく一撃離脱の波状攻撃を仕掛ける!

 途中"暴勇"がキマイラの攻撃を受け吹き飛ばされると、その隙を補うかのように獣人の勇者が強烈な連撃を叩き込んだ!

 獣人勇者に気を取られたキマイラは、今度は復活した"暴勇"に腕を叩き斬られた!

 2人の怒涛の連携と追加の火炎瓶により、既に回復が追い付いていないのである!


「……小癪な……ぬぉっ!?」

「……惜しい、もう少し余所見してくれたら良かったのですが……!」

「おのれ貴様ぁ……!」


 "鬼謀"の放った矢が死霊術師を掠める。

 "鬼謀"は"暴勇"らを支援する傍ら、何度も死霊術師を狙った。これで少しはキマイラの回復を遅らせることが出来るはずだ。


「ア゛キ゛ャ゛ア゛ア゛ーーーー!!!」


 苛立ったキマイラは二本脚で立ち上がり隻腕を振り回すと、斬りかかって来た獣人勇者の大剣を弾き飛ばした!

 しかし、獣人勇者は意に介さずそのまま懐に突っ込み、両手に持った手斧で脚に乱打を叩き込んだ!

 たちまち腱を叩き斬られバランスを崩すキマイラ!


「 受 け 取 れ ぇ !!」


 "暴勇"が獣人勇者の大剣を投げ渡すと、そのまま倒れ込むキマイラの首目掛けて斬り上げる!

 獣人勇者はキマイラを足蹴にして飛び上がり、空中で大剣を受け取り自重を乗せて振り下ろす!


「キエエェェアアアァァァアァァッ!!!」

「オオォォラアアァァァアアァァッ!!!」


 "暴勇"と獣人勇者、二振りの大剣がキマイラの太い頚を挟み込むように捉える!




 キマイラの首が宙を舞った!





 ……が、しかし! 突如首を失った身体が踠くように暴れだした!


「うおっ!? こいつ、まだ動くぞ!? ……ぐあっ!?」

「師匠っ!? ……ぎっ、あ゛あ゛ぁぁっ!?」


 "暴勇"を豪腕で弾き飛ばすと、大蛇の尻尾で獣人勇者を捉え締め上げる。全身の骨が悲鳴をあげた。


「……忘れたか? これは動屍体。術者である我が健在な限り、首を落とした程度では倒れんわ……!」


 死霊術師は斬り落とされた動屍体の腕を操り"鬼謀"を捉え締め上げながら"暴勇"らへと向き直る。


「……だがよくも……よくも我が手を煩わせてくれたものよ……ただ殺しただけでは気が納まらぬ。そうさな、あの剣士2人は屍体を獣と繋ぎ混ぜ合わせ、我が新たな手駒として使ってくれよう。そして貴様……"鬼謀"などと呼ばれておったな? 何が"鬼謀"か……あの逃げた未熟な死霊術師の方が、数倍賢いようだがな……ククク、貴様は脳と目を生かしたまま瓶詰めにして、かつての仲間が辱しめられる様を特等席で見せてくれよう……クク……クカカ……クククカカカカキキキキキケケケケ……!!」




「ぐぅっ……やれやれ、間に合いましたか……」




「な、に……?」



 ──その時である!


 突如地面が揺れ、沼を囲っていた巨大な竜の亡骸が独りでに組み上がり動き始めたではないか!



「……ば、馬鹿なーーーーっ!?」



 呆気に取られる死霊術師を、骨の竜が巨大な腕の大質量をもって叩き潰した。


 闇の死霊術師の最期であった。

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