「でもカズ割と緊張感ないよな、この間も部屋閉じ込めたん結局気がついてくれなかったし。」

「でもカズ割と緊張感ないよな、この間も部屋閉じ込めたん結局気がついてくれなかったし。」


ここまで来たらもう百物語みたいなもんで順番に語るしかないやろ、と思って僕は口を開いた。


「え何?何の時?」

「先週くらい?にさ、ハイターと榊原出掛けてて二人でいた時あったじゃんか。」

「あったわ。」

「あん時にドアのあの、外から開けられるやつ?コイン差し込んで鍵回せるじゃん。」


各部屋についている内鍵は、コイン一枚で簡単に開くようになっている。あの溝のところね、といえば三人が頷いた。


「カズが昼寝してた時に、あそこにおゆまるをはめて固めて、上からガムテープで固定してみたのよ。驚くかなーと思って。」

「え?カズの部屋の入口を?ッンフ、おゆ、おゆまるで?」

「そうそうそう。あっためて押し付けて、冷めるとストッパーが出来上がるんよ。」


榊原が笑いを堪えながら聞いてくるのに、僕は真顔で頷いた。


「ダッハハハ、やば、タチが悪い、」

「その覇王みたいな笑い方何?てか全然覚えとらん、そんなことされてたの???マジで気がついてないんだが。」


本気でやりそう、とハイターがゲラゲラ笑う。ほんとにやったんだってば、と返せばカズがなんとも言えない顔になった。本気で先週の記憶をひっくり返し始めたらしい。


「待って……昼寝したのは覚えてる……」

「うん、それでまぁ最悪ウォークインクローゼットから出てくるだろと思ってそのままほっといたんだけど。二時間くらいしたらドアがガチャガチャ言い始めて。ガムテープ持つかなーってドアの前で眺めてたらギリドア外に聞こえる声量で『夢か……』つって二度寝しやがって。」

「アハハハ、待って脳内再生出来るんだけど。」

「否定できない自分がいるんだが……嘘だろ……」

「そのまま剥がして何事もないようにここにいたらカズも三十分後くらいにふつーに起きてきた。あれマジでリアクションなくて寂しかったわ。」


おゆまる型取り頑張ったのに、なんて適当なことをいえばハイターはソファのクッションに埋もれて震えている。


「だからカズの部屋のドアのところ剥げてんのか。」


榊原がぽんと手を打った。そういえばそんな剥げあったな、と思いながら僕は適当に頷いた。


「そう、ガムテで剥げたわ。」

「え?鍵横?あれ前からじゃね?待って先週???解像度上げるのやめてくれねーかなマジで。」


ホントかもしれんじゃん、とカズが頭を抱えた。勿論嘘なんだけど。あの剥げ、1年くらいあるけど。意外と壁のへこみとかいつ気がついたか忘れるよね、気付けばそこにある傷っつーの。

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