撤退

「どうしようかなぁ……」


 結局午後もあまり理想に沿う物件は見つけられなかった。


「もうもう。LDKで決めちゃいなyo?」


「お主……」


 カナはLDKでいいらしい。

 個人的に1番最初の物件が好みであるから、カナがいいならいいんだけど……


「保留で、いいですか……?」


 期間が無いのは理解してるつもりだ。

 でも1歩が踏み出せなくて。


 戻ってきた不動産屋の中。


「もうっ、私はいいって言ってるのに」


「……ごめんな。ちょっとだけ待ってくれ」


「うぃ」


「了解しました。じっくりと良いご判断をお待ちしております」


 島原さんにも断って、俺は会釈する。


「……今日決めないのに長々といるのも申し訳ないし、出よっか!」


「りょーかい。ごめんなカナ」


「いや、元はと言えば私が原因ですし」


 そういって2人で店を出る。


「夕飯どうする?」


「Shusi食べたいスシー!」


「小学生か。……まぁおっけ。回る方でいい?」


「もち。〆のケーキまでが寿司ですからね」


 時間はもう6時前。

 夕飯の相談をしながら道を歩いていく。


 そうしてる内にいつの間にやら距離が近付いてて。

 どちらからともなく手が結ばれた。


「願い事まだ?」


「まだかねぇ…… 気長に待つんじゃよ」


「うぃうぃ」


 いつものように雑談して。

 いつものように笑いあって。

 ただ手だけが違う。


 そんな時だった。


「あれっ、陽太先輩!?」


「あっ、雅……?」


 曲がり角。

 左に曲がれば寿司屋。


 そんなところで出会ってしまった。

 7年ぶりに出会ってしまった。


 出会った頃から変わらない可愛さと、別れた頃と変わらない綺麗さ。


 大きなポニーテールを引っさげた赤いパーカーの女性の名前は雅。


「ちっ、まだその害虫と一緒にいるのかよ…… 先輩、夜ご飯です?」


「あぁ」


「じゃあ一緒に食べません? つもる話もありますし……ね?」


「い、いや…… 今はほら、コイツといるし」


「……いいよ。雅ちゃん、一緒に食べよっか?」


「あっ、カナ先輩いらっしゃったんですか!? ごめんなさい気付かなかった。先輩お久しぶりです! ぜひぜひ一緒に頂きましょう!!!」


 彼女の名は雅。

 大学で知り合ったカナの部活の後輩。


 そして俺の…… 元カノだ。

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