1軒目、2軒目
「うわー、キッチン広いですね!」
「そうですね。かなりこだわって設計されたと聞きました」
「なるほど。ここなら2人で作業しても広そうだな」
「そだね! ワクワクする!」
マンションの3階。俺たちは1件目の部屋に入っていた。
中は1LDKで標準と言った感じ。
グレーの壁紙にフローリングでとても新しく綺麗だ。
「これって壁紙とか変えていいんですか?」
「壁に傷を付けないようにしていただければ大丈夫ですよ」
店員さん――――島原さんが色んな質問に丁寧に応対してくれるので、とても物件が見やすい。
「ただ、なぁ……」
「なに? ヨータ」
「寝室だよ寝室!」
「ん? もうちょっと分かりやすく教えて?」
「わかっておるだろう。……1LDKじゃ小さくないか? お互いの住空間いるだろ」
カナが選んだのだから、当然そういうことも考えてあると思ったのだが。
これじゃあ各自の個室が無いし、寝室が一緒だ。
「そうですね。確かに2人はご夫婦。しかし旦那様がそのようお望みなら叶えるのがこの島原の役目ですが」
「そう、ですね…… 一通り回ってからお話させて下さい」
「了解です」
正直この家はとてつもなく好みだ。
壁の色、キッチンの広さ、間取りお風呂の形。
どこにもケチがない。
カナが俺と一緒に住む家として考えてくれたなら、この上なく嬉しい物件。別のことなら『カナさんわかってるー!』とでも言っただろう。
しかし、しかしだ……
「さすがに、早すぎるべや……」
アイラブカナ!!!!
これはだいぶ自覚した事実。
だがしかしだ。
俺は慎重に事を運びたいのだ。
変えようとは思っているが変えすぎたくはないという……
何かが変わって、何かに失望されて。
そして終わるのが怖い。
急速に、急速に。変わってく現状が嬉しくも怖いのだ。
「冷蔵庫はうちのが丁度いいサイズだな」
「そだんねぇ…… こないだ買い替えてたし、良さげ? ウチのはバイバイかなぁ」
隣で笑うカナに心臓が止まらない。
だからこそ、だからこそ。
攻めるときは攻めて、引く時は引きたい。
「んじゃあ次の家行くか?」
「んー、おっけ!!」
「了解いたしました」
マンションを出て、同じ駅近郊。
再び案内されたのは……
一軒家だった。
「2軒目です!」
再び手を広げるカナに、微笑みつつ外観を見る。
築年数は分からないが、外観はキレイめ。
中は……
「おっ、畳だ」
和風建築だった。
「はい、ここは元々和風住宅だったんですが年数が経過してしまい…… 和室1部屋を除いてリノベーションした物件になります」
「どうして和室1部屋が?」
「持ち主様のご意向で。何やら思い出の部屋だったとか」
「なるほど」
周りは確かに比較的新しめの洋風な部屋。
しかし狭くも確かに畳のい草が香る和室……
「そそられるな……」
「ふふっ、これぞカナちゃんセレクションの力よ」
「すげぇよお前」
「もっと褒めてっ!」
「カナさん天才っす! 俺の事分かってるっす!」
「ふふん、ふふっ……」
一軒目と同じように俺に刺さるものを選んできおる。
ここも広さ外装内装申し分なく、和室付き。
しかもここなら寝室が2つ作れる!
「これ決まりじゃね?」
「おっ、おっ??」
「島原さん!」
「はい。なんでしょう?」
「お家賃はいくらですか?」
もう6割くらい心が決まった。あとは値段を聞くだけで……
「月35万円です」
「―――――ゑ?」
確かに立派な一軒家だ。
うん。リノベーション代とかも掛かってるし。
うん、カナと割り勘だし。
うん、うん。
「……ごめんなさい」
気づいた頃には、俺らは3軒目の前に立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます