小野小町の墓
私はウキウキしながら家に帰り、家族に今日の事を話した。
「巻物の鑑定額は150万円だって。小野小町の日記だって言われたよ。」
父は私の顔を見てポツリと呟いた。
「そうだったか・・・ 唯、小野小町のお墓にお参りして来なさい。そして日記を大切に受け継いで行く事を報告して来なさい。」
父の言葉に私は頷き小野小町の墓に向かった。
小野小町の墓は大曲りから本家の裏手を通って田んぼのあぜ道を50mくらい下った所にある。
そこには小さなお宮があり、石碑には小野小町の墓である事が刻まれている。
秋のお彼岸の頃は通りから外れた田んぼのあぜ道は赤い彼岸花で埋め尽くされる。
小さい頃の私は彼岸花の赤い花がまるで地面から生えている赤い手の様に見えて、なんだか怖かった。
通りから田んぼのあぜ道に入ると一直線の赤い手の道が私をおいでおいでしている様に思えて秋のお彼岸の時期は其処に立ち寄る事が出来なかった。
そんなあぜ道を今の私は小野小町の生きた時代に想いを寄せて歩いている。
一体どんな人でどんな生き方をしたのだろうか?
私はお墓の前で手を合わせながら色々な事を考えた。
小野小町は長生きしていたという話しだが・・
本当におばあちゃんになるまで生きていたのだろうか?
ここに眠っている小野小町は『老いていく自身の事を嘆いてロッククライミングする様な岩山の上から飛び降りた。』と伝えられている。
「唯が小さい頃はここまで来れなくて入口の所で泣いていたよな?」
不意に父が私の後ろに来ていて話しかけて来た。
「なんだ、父さんか? 急に来たからびっくりしたじゃない!」
「なぁ唯、彼岸花がなんでお墓に咲いている事が多いか知ってるか?」
私は父からの突然の質問に少し戸惑いながらも理由を自分なりに考えてみたが・・・
「わかんない! なんで?」
父は遠い昔を想い浮かべる様な目で話しだした。
「彼岸花は曼珠沙華ともいうのだけど、原産地は中国なんだ。日本へは薬草として持ち込まれたそうだ。そして毒もある。昔は土葬だったから『墓を動物に荒らされない様にする為のオマジナイとして植えられた』と言われているんだ。」
「ヘェー、そうなんだ・・・ 毒がある薬草?」
父からの話しに私は少し驚いた。
「そうなんだ、『中国からの留学生が持ち込んだ』と言われているんだ。アカギレやムクミの薬として当時は使われていたらしい。」
「そんな薬がココに植えられているのってなんでなんだろうね?」
私は不思議に思った事をそのまま父にぶつけてみた。
「何でなんだろうね? でも、すぐソコの大善寺は最後の遣唐使、円仁のゆかりの寺だよね?」
父は神社の鳥居のすぐ左手にあるお寺を指差しながら言った。
私はウンウンと頷きながら父に質問してみた。
「そうなんだね~ ところで父さん、円仁って誰?」
「何だよ・・・ そこから説明しなくちゃならないのかよ?」
父はそんな私の事を呆れた様な目で見つめた。
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