第2話 その街の名は『カナシア』
季節はすでに秋が深まり、冬が淡い笑顔を浮かべてこちらに歩み寄ってきているのが見えるようでもあった。
道路に植えられた街路樹も色素が抜けきって灰色になった葉をわずかに留めているだけで、大半は落葉となって人々が踏む石畳の彩りとなっている。
街中を流れる空気は冬の気配を濃く孕んでいて、ときおり吹く風は思わず人々の首を竦ませる。そのため街行く人達の服装も厚く、外套や襟巻をしている者も多い。
クルシェが歩くこの大通りは、道路の両側に雑貨屋や飲食店が軒を連ねている。それを目当てにする若い男女や子供連れの親などが人波を構成している。
街並みを作るのは石畳や合成石材の建造物であり、街路樹や街灯など設備も充実している。それはこの都市の発展を示すものであった。
この都市、カナシアは
女王が居住する首都の『メレオリア』、茶葉生産地帯の『フィオーリア』、第三の新興都市『カナシア』と、この三都市を合わせて『王国の三姉妹』とも称される。
カナシアは八十年ほど前までは山に囲まれた盆地であり、深い森だった地域である。あるとき、少数の人間が小さな街道を開拓し、旅人のための宿屋を建設した。
宿には飯屋と酒場も併設しており、そこの看板娘となった女性も話題となって、やがて宿屋の周りに建物が増えていった。
宿場となったその場所には居住する人々も増えていき、その宿場は次第に発展していった。人口が増えるにつれて森は開拓され、山は一部を掘り起こされ列車のための線路が開通された。
そのような経緯で成立したこの都市は、初めて作られた宿屋の看板娘の名をとってカナシアと呼ばれるようになる。
そういうわけで、そこそこ由緒ある都市の一角をクルシェは歩いていた。
クルシェの目指す〈
そこはいわゆる繁華街であり、酒場や健全な振りをして一夜の春を売る店などが多い。今は昼間ということもあって、人影もまばらで街は森閑としている。
クルシェはある建物の地下に続く階段を下りる。階段は一度下ると右手に折れてさらに続いた。突き当りには扉があり、黒地に白い鴉の輪郭を描かれた電飾が掲げられて『白鴉屋』と記されている。
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