第298話

旅人達の混乱は一時的な物でした。なぜならば自分達が良い報酬を得るには先ほど魔本に飲み込まれた魔物を討伐しなければいけません。しかもそれが時間制限付きだという話だったからです。


「魔本に閉じ込めた魔物は死んだわけではありません。また装置の関係上この首都から一定以上動かす事も出来ません。そして装置の稼働限界時間は24時間。その間に魔本に封じた魔物を全て討伐しなければ、この街は滅亡します。」


驚きで動かない旅人達にそう説明するシルちゃん。シルちゃんの言葉に今の状態は一時的な物でしかないと知った旅人達は、1人また1人と魔法陣の中に吸い込まれて行きます。だけど用意された魔本は4つ、それぞれがどのような世界なのか、そもそも魔本の中の魔物の数は同じなのか?そんな疑問が渦巻き中々魔本を選べない旅人も大勢いました。私達もどの魔本の中に入るか決めかねていました。


「どの魔本に行きます?」

「ルドさんが出ている本が良いです!!」

「でもどの魔本に出ているのか解りませんわよ?」

「ふんふんふん・・・・これです!!ここからルドさんの匂いがします!!」


私のルドさんセンサーは誤魔化せません!!ルドさんが居る絵本は絶対にこの絵本です!!本が開いているので表紙は解りませんが、見えている絵本の内容的に森の中に1人の女の子が籠を持って歩いている絵が描かれています。


「頭巾は赤く無いね?」

「籠の中には・・・・。駄目ですわ。布が掛かっていて見えませんわね。ここで情報を得て私達に有利に進めたかったのですけど・・・・。」

「そんなのは関係ありません!!早く入ってルドさん達に会いに行きましょう!!」


ルドさん達がどのキャラクターになっているかは分かりませんが、それでも一目見れば私には感じ取れるはず!!待っていて下さいルドさん、今行きます!


・・・・・・・・・・・


そこは深い森の中。お父さんの忘れ物を届けに、1人の少女が籠持って歩いていた。ただ、この森はお婆さんからお化けの出るこわーい森だと聞いていた少女は、森の途中で恐怖に足が竦み先に進むことも家に戻ることも出来ず。途方に暮れていた。


「どうしよう・・・。お父さんこれが無くて困ってるのに・・・。」


そんな少女に襲い掛かろうと、森の獣たちがじりじりと闇に紛れて近づいて来ていた。目の前の美味しそうな少女を食べる事しか考えていない獣達。果たして少女の運命はどうなってしまうのか?


・・・・・・・・・・・


「今のは何ですの?」

「この絵本のプロローグかな?」

「と言う事は、急がないとその少女が食べられちゃいます!!2人共急ぎますよ!!」


絵本の中に入り込んだ私達は見慣れぬ森の中に居ました。そして先ほどまるで物語のプロローグの様な映像を見せられ、絵本に書かれていた少女に危険が迫っている事を知ります。急いで助けに行かないと!!


「待ってくださいリダさん!!罠の可能性もありますわ!!それにこんな広い森の中であの少女をどうやって探すんですの!?」

「罠なら罠で構いません!!それに女の子が本当に居るのなら匂いと音で解ります!!」

「今は女の子を助ける方が先決だよ。僕達も急ごう!!」

「もし何かあったらクリンが前に出るんですわよ!!」


私が先頭を走り、それを追い掛ける形で2人も駆け出しました。この時、バグの補填で貰っていたスキルがとても役に立ちました。私の気配察知に大勢の旅人と住人の反応と、複数の魔物の気配が引っ掛かったからです。


「見つけた!!」

「僕の方でも確認しました!!」

「リダさんは少女の確保!クリンは周りの魔物を牽制して下さいまし!!私は怪我人を治療しますわ!!」


私達は急いで反応の在った場所に走り出します。するとそこでは大量の魔物と旅人達の壮絶な戦闘が繰り広げられていました。


「おらっ!!おれの火炎剣を喰らえ!!」

「唯のマッチ剣だろうがよ!!俺の疾風脚で蹴散らすぜ!!」

「お前のは唯の速い蹴りだろうが!!スキルっぽく言うんじゃねぇ!!」


ぎゃいぎゃい騒ぎながら魔物を倒していく旅人達、そして彼らは全く少女の事を気にかけていませんでした。報酬と言う、このイベントで得られるお宝に目がくらんだ旅人達は、魔物討伐に集中してしまい。後ろで籠を大事そうに抱え込み泣いている少女に声さえ掛けていません。


私はその光景を見てすぐに猫獣人の脚力を生かして木々を蹴って飛び上がり、少女の傍に降り立ちました。


「大丈夫?怪我は無い?」

「うぅえぇぇぇぇぇぇん!怖いよぉぉぉぉぉぉ!!」

「ほら大丈夫。皆でお化けをやっつけてるからね?だから安心して。」

「うぅぅぅぅぅ・・・ぐすん。」

「よしよし、頑張ったね。」


声を掛けた私に抱き着いて泣き始めてしまった少女。この時になって初めて戦っていた旅人達は少女の存在を確認した様子でしたが、報酬に関係が無い少女の事を旅人達は無視して魔物の討伐に戻って行ってしましました。


少女を籠事抱き上げた私は、なかなか泣き止まない彼女をあやしながらクリン君ととルゼダちゃんの到着を待ちます。少女が泣き疲れて腕の中で眠ってしまった頃になってやっと2人が到着しました。


「まったく、魔物の数は多いわ旅人が邪魔をしてくるわ散々でしたわ!!」

「魔物を倒すのは良いけど、周りの人の事も考えて欲しいよね・・・。」


2人は急いで私の元に駆け付けたかったみたいですが、魔物の壁と旅人達の攻撃によって進路を阻まれ、合流するのに手間取った様です。討伐を第1に考えている人達が周りを気にするとは到底思えませんね。


「2人共、女の子は無事です。今泣き疲れて眠っちゃっいました。」

「それは良かったですわ。」

「この子が無事で良かった・・・。」


少女が無事だったことを確認して安堵の息を漏らす2人。その頃には戦闘をしていた旅人達は逃げた魔物を追って森の中に散って行った後でした。私達の周りには魔物が逃げた事で集まって来た、少女の事を心配していた旅人だけが残ったみたいです。


「その子は無事なの?」

「えぇ、泣き疲れて眠ってるだけ。」

「そう、なら良かったわ・・・・。」

「こんな小さい子だけを森に行かせるなんて親は何考えてるんだ?」

「そこは絵本のお約束ってやつじゃないの?」

「なんにせよこの子が無事で良かったよ・・・。まぁおかげで討伐スコアは伸びなかったけど。」

「あら?スコアが欲しいなら今から森の中に行けばいいのに。」

「へん!!報酬と人の命、どっち選ぶかって言えば人の命だろ!」

「まぁこれはゲームだけどね。」


少女の無事を知って周囲にも落ち着いた明るい雰囲気が流れました。その影響なのか、森の深い暗闇も少しだけ薄らいだように感じますね。


「う、うぅぅ~ん・・・。」

「おっ起きるみたいだな。」

「あんまり人が多いと怖がらせちゃうわ。私達は離れましょう。事情を聴いてもらえるかしら?」

「えぇ、任せて下さい。」


少女を抱えている私とそのパーティーであるクリン君とルゼダちゃん以外の旅人は、また魔物が襲ってきてもいい様に少女の周りを警戒してくれるみたいです。その間に私達は目を覚ました少女に事情を聞こうと話しかける事にしました。


「目が覚めた?」

「う~ん、おねえちゃんだれ?」

「私はリダ。こっちの小さいお兄さんがクリンで、こっちのお姉ちゃんはルゼダよ。」

「やぁクリンだよ。」

「ルゼダですわ!!」

「あなたのお名前は?」


私の腕の中で目を覚ました少女は、私達の自己紹介を聞いてから腕から降りたそうに体を捩ったので地面に降ろしてあげました。するとペコリと頭を下げながら自己紹介をしてくれます。


「メアの名前はメアって言います。」

「メアちゃんね。どうしてこんな森の中に居るの?」

「パパがね。お仕事に必要な大事な大事な物を忘れたの。だからメアはそれを届けようと思ったの!!」

「その籠に入ってる物かな?」

「そう!!パパの大事な物!!」


そう言って元気よく返事をするメアちゃん。その元気な様子に周りで心配そうに様子を見ていた旅人達も顔を綻ばせます。私達もその元気の良さに安堵して笑顔になりました。


「お母さんは一緒じゃないの?」

「お母さんは今日は畑仕事なの。御婆ちゃんは足が悪くて行けないし・・。だからメアがお届けに来たの。でもお化けさんが意地悪してくるの・・・。」


メアちゃんが悲しそうに籠を見て、森の奥に視線を向けます。すると私達の目の前にウインドウが表示されました。


イベントシークレットクエスト『少女のおつかい』を発見しました。

深い森の中父親に忘れ物を届けようと少女がおつかいに出ました。ですがその森は魔物が蔓延る危険な森。旅人達はこの少女を無事に父親のお店まで届ける事が使命です。


特殊クリア条件

少女が無傷である事

少女の持っている籠が無事である事


以上をクリアすると報酬のランクが上がります。


「よっしゃ来たーーー!!」

「ひうっ!?」

「こらっ!!あの子が怖がるでしょ!!突然大きな声を出さない!!」

「でもよー。イベントにシークレットクエストが在るなんて大発見じゃないか?」

「じゃああんたはあの子の為じゃなくて報酬の為に動くっていうのね?」

「サイテー。」

「それは酷いと思うぞ?」

「仲間だと思っていましたが、どうやら違ったようです。」

「幼女を泣かす何て紳士同盟違反ですぞ!!」

「その通り!!YESロリータNOタッチ!!幼女を泣かすモノには地獄の制裁を!!」

「ただ報酬が貰えるってテンション上がっただけなんだ!!あの子の為に動くに決まってるだろうが!!」


クエストの発生で周りに居る旅人達もにわかに騒めいています。けれども、ここに残った旅人達は無事に少女がおつかいを済ませる事を第1に考えらえる、心優しい人達みたいですね。


「んにゅ?皆お友達?」

「ん~。そうね。皆メアちゃんのおつかいをお手伝いしたいみたい。手伝っても良い?」

「うん!!メア1人だと寂しかったから、沢山お友達が出来て嬉しい!!」


イベントシークレットクエスト『少女のおつかい』を受注しました。


「よっしゃ!!無事にこの子を父親の元に案内するぞ!!」

「周囲警戒は任せて!!貴方達はその子の事をお願い。」

「一番懐いてるだろうからな。しっかり頼むぞ?」

「うぅぅぅ、私が変わりたい・・・。」

「我々は遠くから見守るのみ!!」

「「「紳士同盟の名に懸けて!!」」」


それぞれがそれぞれに、気合を入れてこのクエストに取り組んでくれるみたいです。私もこの子をしっかりと守り切ってルドさん達を見つけないと!!


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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