第115話

ダンジョンの100階層は案の定ボス戦用のフィールドだった。しかしいつもと様子が違う。なぜならばこの部屋にいるボスがすでに何者かと戦闘状態だったからだ。


「戦ってますわね。」

「逆側に扉がありますね。つまりあの先は海底都市と言う事じゃないですか?」

「えー、このダンジョンすでに攻略された後なんですかぁ~。」

「うーん、でも戦ってる奴、あんまり強くないな?」


シャコガイから8本の太い触手が飛び出した様な魔物が執拗に戦っている旅人を狙っている。旅人の方と言えば回避はうまいが攻撃が出来ていない。あのままだとそのうち詰むぞ。


「って言ってる傍から!!」

「ちょっルドさん!?」

「援護してくれ!!あいつ助けるぞ!!」


足元がもつれたのか戦っていた旅人が膝を着いて俯いている。このままじゃ攻撃を避ける所か一方的に殺される!!幸い大きな空洞の様なフィールドで、10mくらいなら大きくなれる!!


「巨人化!!『顔を上げろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』」ガキンッ!!


おそらく泣いていたんだろう。真っ赤な目をしてこちらを見上げる旅人。その髪と瞳は青くそして手には簡素な槍を持っている。多分海底都市で流行っている白魚病の特効薬を探すか、助けを呼びに外に出ようとしていたって所か?


デスペナを喰らい続けたのか装備は初期装備しかなく、体もボロボロだ。そんな姿を見て俺は安心させるように笑顔になりながら、こんなにボロボロになるまで頑張った旅人を褒めた。


『よく頑張ったな!!助けに来たぞ!!』

「あっ・・・助け・・・・。」

『おう!!薬も持って来たぞ!!その前にこいつを倒さないとなっとぉ!!』ガガガガギンッ!!


突然現れた俺達に動きを止めていたボスが攻撃を再開した。触手による攻撃でHPは削られるが、自動回復の方が上だ!!触手による殴打を盾で受け止めながら俺は叫ぶ!!


『どんどん打ち込んで来いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

「その隙に」「僕達が」「削らせて頂きますわ!!」「ますわ!!」


俺の方にヘイトが向いた事を確認した仲間達が攻撃を始める。


「『心現』『心打』!!」


リダが相手の弱点を露呈させ、そこに一番火力の高い技を叩き込む。


「『鬼人化』『断頭光波』!!」


クリンは鬼人化して貝の部分から飛び出している触手を切り払う。


「『慈悲の光』『亀甲陣』『回復結界』『獅子王の激励』『破魔矢』『チェンジフォーム』『罠設置』!!」


ルゼダは俺の傍でへたり込んでいる旅人を回復した後、俺に防御バフと回復結界を使った。そして前線に出ながらクリンとリダに攻撃力アップのバフを掛け、破魔矢で相手のバフを消し去り足止め用の罠を設置した。


「しあもいくよー!!『聳え立つ樹木』『根源の槍』!!」


シアは相手の攻撃を防ぐための壁を樹で生み出し、そして生み出した木の根を槍にして攻撃を始めた。


「凄い・・・。トリダコナオロチのHPがどんどん減っていく・・・。」

『回復したなら攻撃に参加してくれ!大丈夫だ、俺が守ってやるから!!』

「はいっ!!」


とはいえ初心者装備でそこまでダメージを入れられるとは思わない。これは経験値分配の為の建前だったりする。そんな俺の予想を超えて、青髪の旅人はボスにダメージを入れた。


「『海流槍』!!」

『流派スキルか!?』

「防御無視の技スキルです!!」

『喰らったら痛そうだ。その調子でどんどん攻撃しろ!!』

「行きます!!」


ボスは触手を振り回したり、触手の先に目玉を作り出して光を発し、その光をこちらに向けたりと多彩な攻撃を繰り出して来た。


恐らくダンジョンに出た魔物を考えると、状態異常のどれかになる光みたいだ。だが残念だったな!!このダンジョンで喰らった状態異常は無効化してるぞ!!


『ボスの体力半分を切ったぞ!!このまま押し込め!!』

「行きますよ!!」

「僕も負けません!!」

「回復は任せて下さいまし!!」

「しあもいっぱいこうげきするぅー!!」

「皆を助ける為にも早く倒れろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


その時順調に減る体力を見て油断していたんだと思う。こういうボスはたいていHPが半分を切ると行動パターンが変わる事があるのをすっかり忘れていた。


トリダコナオロチと呼ばれたボスが突然、振り回していた触手を地面に叩きつけたかと思うと、その触手の力を使って飛び上がったのだ。そして俺めがけて突っ込んで来た。


『ぬおっ!?』ガキンッ!!ガチンッ!!

「ルドさん!?」


何とかボスの体当たりを盾で受け流したが態勢を崩した!!そして浮き上がった足をボスの本体である貝がガッチリと加え込んだのだ。


「GIIIIIIIIIIIIIIII!!」


俺の足を加えたまま、ボスは出鱈目に触手を振り回し始めた。ボスにガッチリと脚を加え込まれている事が条件なのか今は、技が封印状態でヘイト技が使えない!!


『皆離れろ!!』

「きゃっ!!」

「うわっ!!」

「や~ら~れ~たぁ~。」

「ぐぅっ!!」

「回復しますわ!!『女神の抱擁』!!『範囲回復結界』!!」


クリン達が触手攻撃を喰らってダメージが入った。即座にルゼダが回復したがこのままだとまずい!!


だが事態はさらに悪い方向に進む。なんと暴れていた触手が壁を突き破り、そこから海水が入って来たのだ。


『ステージギミック付きのボスかよ!!』

「ルドさん!!巨人化を解除して逃げられませんか!?」

『無理だ!!巨人化は解除しても一瞬で戻るんじゃなくて徐々に戻るのを知ってるだろ。だから貝の口が閉じ続けている現状不可能だ!!』


どんどん水の中に沈んでいくフィールド、ボスに足をガッチリ噛みつかれている俺を見て青髪の旅人が顔を蒼褪めさせているのが気になる。けどこの状況を打破するには彼の手助けが必要だ!!


『青髪の旅人!!ちょっと手伝ってくれ!!』

「うっうぅぅぅ。」


顔は真っ青で胸に手を当てて苦しそうにしている。何かトラウマでも抱えてるのか?まずいな、このまま異常検知でログアウトされると非常にまずい。


『君の武器じゃないと届かないんだ!!だから頼む!!』

「うぅぅぅぅ・・・・・・。うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


~・~・~・~・~・~・~


目の前で巨人になった人がトリダコナオロチに足を噛まれて沈んでいく。その姿を見て僕は事故が起こった時の自分を重ねてしまった。


恐怖で足が動かず、手に持った槍も震えている。せっかくここまで来たのに・・・。皆を助けられると思ったのに・・・・・・。


『まだ何とかなるんだ!!君の力を貸してくれ!!』


巨人の人が必死で何かを訴えているけれど、僕の耳には半分も聞こえていない・・・・。絶望感と恐怖と無力感が僕を支配していく・・・・。


パンッ!!


その時、僕の頬に痛みが走った。


「しゃんとなさいまし!!貴方が力を貸せばこの状況は打開できますのよ!!震えている暇があったら走れ!!」


巨人の人の仲間が僕の頬を叩いたらしい。僕は痛みでやっと巨人の人の言葉をちゃんと聞くことが出来た。


『君の槍でこいつを無力化出来るんだ!!だから力を貸してくれ!!』


僕の槍で無力化できる?あの何度戦っても勝てなかったトリダコナオロチを?半信半疑な僕の目に、こちらを真っ直ぐと、そして諦めないという決意の籠った視線が刺さる。


もしここで死んでしまったらもう皆を助ける時間は無い!!走れ!!


巨人の人の強い瞳に影響を受けたのか、僕の中でそんな言葉が響いた。そして気が付いたら僕は、しっかりと槍を握り走り始めていた。


~・~・~・~・~・~

「叩くのはやり過ぎだと思うよ?」

「いつまでもウジウジしているのが悪いんですわ。それに、本当に助けたいのはリダさんでしょうし。」

「私の力じゃ無理ですから。せめて籠手に爪でも付けていれば別でしたかね?」

「距離が足りなくて無理だと思いますよ?僕の剣も届かないでしょうしね、あの大きさなら。」

「さて後はどうするつもりなんでしょうね?」

「「さぁ?」」


何やらあの青髪の人にも事情がありそうです。ルドさんには何か考えがあるみたいですが一体どうするのでしょうね?


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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