第30話

親父とカマーンさん達が帰って来た。捕まっていた村民は全部で60人、ほとんどが女性と子供で男性は殺されてしまった様だ・・・。


街で受け入れて貰えない人達ばかりなのでこの村で保護する事になった。村の施設が全部無事だった事と、食料も何とかなる範囲だったのが大きい。


保護された村民たちもこの村で過ごしたいと言ってくれている。俺はそんな人達の為に、建築用の木材採取に森に来ていた。


「しっかし本当にモンスが居ないな。」


集団暴走の影響がまだ残っている様でここまでモンスに出会う事が無かった。いつもは何かしらの声で騒がしい森も静まり返っている。作業がはかどって助かるけどね。


巨人化して木を引っこ抜きそのままインベントリに入れる。あまり一か所から取り過ぎないように様子を見ながら採取していくとあっという間に200本近い木が集まった。


「さて、そろそろ戻るか。」


乾燥は木工所の親方が魔法でやってくれる。枝を払い、根を取って乾燥させれば十分だろう。後はちょちょっと加工して俺が巨人化したまま組み上げるだけで、すぐにログハウスなら作る事が出来る。


“0”


つらつらとそんな事を考えながら歩き出そうとしたところで俺のログにダメージ表記が出た。


「なんだ?」


よく見ると地面に矢が落ちている。自分の体に当たって落ちたという事は・・・森か。


森に目を向けると再度矢が飛んで来た。その矢は俺の頭部に直撃するコース。眼を狙っているのか?


残念ながら少しずらすだけで矢は額に当たり落ちた。もちろんダメージは0、俺のDEFはモロモロ合わせて440ある。盾職の友達が近くに居ないから比較できないけど、フレンドからは堅すぎると言われる位には固い。


だから木の矢くらいじゃ俺にダメージは入れられない。安価な木の矢を使って奇襲をかけて来たって事は赤落ちが襲って来たんだろうなぁ。


このゲーム、原則PvPはお互いの了承が無いと出来ない仕様になっている。でも赤落ちは関係なくプレイヤーを襲える状態になるから了承は必要無くなる。その分他のプレイヤーや騎士団、憲兵なんかに常に狙われる事になるけど。


赤落ちする方法は複数あるみたい。


まずはMPK、モンスのヘイトを集め他のプレイヤーにそのヘイトを押し付けて倒す。治安組織に報告されれば一発で赤落ちする。この世界に泣き寝入りは無い。報告が在ればすぐに特定されるのだ。


相手に毒を飲ませる。食べ物なんかに毒を混ぜるのが主流らしい。仲良くなり隙を見てって奴ね。その毒で死ねば晴れて赤落ち。助かったら憲兵に連れてかれてお仕置き。


住民を手に掛ける。これは文字通り住民を脅し、果ては命を奪うと赤落ちする。脅迫だけならまだ更生の機会は与えられるけど殺人を犯すと完全に赤落ちする。


知っているのはこれくらいだけど裏組織に参加するとか赤プレイヤーから誘われるとか他にももっとあるらしい。


まぁそんな悪役プレイをしたい人が赤落ちするんだよね。で今俺はそんな人から襲撃を受けているって状態。


“0”


うん、諦めようよ?ダメージ入って無いんだからさ・・・。矢に毒でも塗ってるのかな?残念でした。いくら待っても耐性あるから効きませーん。何回攻撃しても無駄だから。


問題は俺が攻撃できないから排除も出来ないって事なんだけど・・・・。まぁ多分それもどうにかなる。あっ来た。


「おーいルドやーい。順調かー。」

「親方―!!200くらい集まったよー。」


遠くからのっしのっしと歩いて来る白熊。何を隠そうこの白熊こそが木工所親方のベアンさんです。


村クエストで木材の採取と加工の依頼、あったでしょ?その時に知り合いました。周りの人達から親方と呼ばれていて親しまれてます。角材で俺のケツしばいたのもこの人ね。


採取の進捗状況を見るついで森の様子を見に来るってんで、村出る前に声かけて貰ってたのよ。そんなベアンさんに向かっても矢が飛んでいく。あーあー、辞めときゃ良いのに。


「あん?なんだぁ?」


べしっと片手で矢の棒部分を叩き落したベアンさん。うん、この人も暴走戦に参加してレベルが上がってる人。そしてルド村は他の村と違って元々戦う人が多く配置された村だから・・・後は分かるね?


「うっとおしいなぁ。やっちゃっていいか?」

「ベアンさんに任せるよ。俺攻撃力無いし。」

「はははっちげぇねぇ。」


ベアンさん木工所の代表みたいな人なんだけど、やってる仕事は多岐に渡る。道の整備とか土木作業とか治水工事とか。なんでかっていうとなんとベアンさんその見た目に反して魔法使いなんです。しかも4属性持ち!!


このゲームの魔法って種族や才能に左右されるみたいで、たとえば普通のプレイヤーが良く選ぶ人種は全属性を扱えるけど努力しないと強力な魔法は使えないし特化させてもそこまで威力が上がらない。樹人族は木と風の魔法を最初から中級まで使えて特化させると街を亡ぼせるとかね?


で大体才能がある人で得意魔法が2つあればいい方なんだけれど、ベアンさんは4種類もあるという天才さん。魔法が盛んな所であればそれこそ引く手数多らしいんだよ。


でも残念な事にそう言う場所では差別意識が強くて、獣人で4種も魔法の才能があるベアンさんは迫害されたらしい。それで開拓村に来たんだって。


でもその腕前は本物!!壊された道だろうが決壊した川だろうが魔法でどうにかしちゃう!!そんなベアンさんの得意属性は土と火と風と水。


あっほらもう襲撃してきた赤落ちが空飛んでるよ。あー、プレイヤーか。粒子化して消えてっちゃった。


「ルバード達が言ってたのはこいつ等か。」

「そうみたい。戻って報告かな?」

「そうするか。木材もそれだけあれば十分だろ。戻るぞルド。」

「あいよ親方。」


一応警戒しながら村まで戻った。村の前では自警の人が赤落ちプレイヤーを鈴なりにつないで連行している所だった。


「ありゃま、こっちも?」

「ルドさん!ご無事でしたか!」


声を掛けてきたのは自警団の1人でガードンさん。


「これはどうしたんだ?」

「ベアンさんもご無事で良かった。先ほど赤連中が村に押し入ろうとして来ましてね?それを撃退したばかりなんです。」


捕まっているのは全員赤落ちしたプレイヤーみたい。あっ奥で集められてカマーンさんの指示で住民にリンチにされてるっ!?グロッ!!


その様子を見ていた俺にガードンさんは事情を説明してくれた。


「何分小さな村ですし牢屋も足りません。旅人ですから捕まえ続ける事も出来ませんし、処分して持ち物を没収している所です。」

「なるほど、赤落ちすれば持ち物を全て落とすというのは本当だったか。」

「ルドさんの情報様様です。」


うん、赤達の仕様をちょっと教えただけですよ?モンスのドロップを住民が取得できるなら赤の装備も同じじゃないかなぁと思っただけでね?まぁ実際に出来たんなら良かった。


「落とした品物はどうするんですか?」

「自警の方で持ち主確認をしています。ですが何分この前の集団暴走で亡くなった人の物も多く・・・。持ち主が確認出来ないモノは村の防衛に使わせて貰おうかと。」


うん、良いと思うよ?赤落ちするような人が使っていたのならそれなりに実用性はあるだろうし。気持ち的には処分したいんだろうけど、こんな田舎の村じゃ敵の武器も貴重な物だ。


「怪我人は?これだけ人数が居たんならそれなりに出たんだろ?」

「いえそれが村人は全員無傷です。」

「あー、やっぱり。」

「ん?ルドは心当たりあるのか?」


前にも話したけどまだプレイヤーってレベルキャップが在って100からレベル上がらないのよ。で赤落ちした人達って倒されればレベルが1からやり直し。毎回毎回襲撃がうまくいくはずなくて全体的にレベルが低い傾向にある。


人数に任せて襲撃したんだろうけどルド村に元々居た人達のレベルって実は100を超えてる。親父曰く王都の騎士団にも負けてないそうだ。


そんなところ襲えば結果は見えてるよねぇ。


「というわけですわ。」

「なるほどなぁ、相手は人数頼りの有象無象ってか。」

「まぁ絡め手なんかを使われたら弱いでしょうからそこは警戒しないとですが。」

「そこら辺は自警が団長の命令で注意していますので大丈夫です!!」


でも多分こいつらは先発隊なんだろうな。本命はいつ来るんだろうか?


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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