第25話 冒険者ギルド入会の試験官

 カインは緊張していた。


 なぜなら今日は月に一度の冒険者ギルドに所属するための試験日。ついにカインは試験官をすることになった。本来であればメンゼフさんも見てくれるのたが、今日も帝国議会に呼ばれている。


 つまり一人で合否の判断をしなければならないのだ。


 人の人生を左右するんだ。しっかりとしないといけないな。


 マニュアルに沿って試験を進めよう。


 地下の訓練所に30人は集まっている。ガラが悪そうなやつもいるが誰しも試験を受ける権利はある。


 時間だ。始めよう。


 「今日はお集まりいただきありがとうございます。さっそく一人ずつこの水晶に手を当てて下さい。能力とレベルを図ります。」


 希望者たちはぞろぞろと一列に並ぶ。


 聞いたところによると、帝都のギルド入会条件が一番きついらしい。他の街では誰でも冒険者になれるところもあるらしいが、帝都では平均Dランク以上の数値。もしくは一つでもCランク以上の評価がないと不合格だ。


 この人はすべての能力がオールF。残念だが不合格だ。


 「あなたは残念ですが、まだ基準値に達していません。また次回受けに来て下さい。全体的にレベルアップする必要があります。」


 心情としては皆、冒険者になって欲しいが、冒険者にも向き不向きがある。全員合格させて、全員死にましたでは話にならない。


 次っ。と言いどんどん進めていく。


 ………


 ここまで順調に進んだ。今のところは合格者3人か。想定通りの合格者数と言える。


 後、残り2人だ。


 次の方ッというと少女がカインの目の前に来る。


 「お兄様。よろしくお願いします。」


 驚いた。目の前に妹のサナが立っていた。


 魔法使いのローブと魔女帽子を深く被っていたから、気がつかなかった。


 兄としては心配だが、受けに来た人を断る権利はない。父アルベルトが知ったら大目玉を食らうだろうが受けさせるしかないだろう。


 「はい。ではサナさん。水晶に手を当てて下さい。」


 水晶がまばゆい光を発した。


 今までの冒険者とは段違いだ。格が違う。


 慌てて能力値を確認する。


 魔力がSランク。他はすべてEクラスだ。


 魔力がSランクなんて、神童と持ち上げられていたイグニスの槍のルキナより上だ。まさに魔術の天才、賢者になれる素質は15歳にしてサナは備えている。オレよりも魔力があるのは少しだけ寂しい。


 「サナさん。合格です。二次試験まで後ろでお待ち下さい。」


 やった~とサナがぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。


 我が妹ながらかわいい。


 次で一次試験は最後だ。


 最後の希望者は甲冑を着ていて顔は見えない。


 書類に書かれている名前を確認する。


 「リンスカム様。水晶に手を当てて下さい。」


 「はいっ! 」


 元気よく声を発して手を水晶に当てる。どこかで聞いたことがある高い声だ。甲冑で顔は見えないがどうも女性みたいだ。


 サナと同じくらい。いやそれ以上に水晶が光っている。


 水晶を確認すると、魔力はFだが。他の能力がAクラス。まさに怪物だ。


 これは大物が現れたな。


 「リンスカム様合格です。」


 ありがとう。と言い後ろに下がる。


 さて、全体で一次試験を突破したのは5人だ。


 最初の3人は仲良さそうに話をしているし、サナと甲冑の女は一人で暇そうにしている。不合格を言い渡したガラの悪い男二人もまだ残っている。


 「合格者以外はお帰り下さい。毎月試験を行いますので、来月挑戦して下さいね。」


 「待てよ。納得できねえな。少なくともおまえよりは強いぜ。」


 男二人が怒りながらカインに詰め寄る。


 「規則は規則なので。私の一存では決められません。」


 「試験官のおまえを倒せば、合格でいいだろっ。」


 押し問答を繰り返したが、どうも男たちは納得しない。


 「わかりました。では僕と勝負して勝ったらメンゼフさんに掛け合います。それでいいですか。」

 

 勿論だ。と言い、男が剣を抜く。


 「2人同時に相手しても力は測れないので、一人ずつやりましょう。二次試験でやる通り、僕は素手で戦います。魔法は使いません。一発でも入れることができたら合格です。」


 男の一人が剣を抜きカインに斬りかかる。


 この男は筋力の能力値がFクラスだった。速度もFクラス。目を瞑っていても避けられる。


 男の剣撃をその場で、上半身だけ動かしてかわす。


 男は4、5回剣を振ると肩で息をして膝をついた。


 「もう分かったんじゃないですか。鍛え直してまた来てください。」


 カインは手を差し伸べると、強く男が握り返してきた。


 その時、観戦していたもう一人の男が後ろから詠唱し、ファイヤーボールをカインに向けて放つ。

 

 手を握られていて逃げられない。一応鎧を上半身だけ装備しているから当たってもいいか。


 そう思い、無理に躱そうとはしない。


 刹那、鎧の騎士が駆け出し、ファイヤーボールを斬った。


 「ありがとうございます。助かりました。」


 お礼を言うために、振り返ると、駆け出した反動で、兜が落ちていたらしい。顔が露になる。


 女性はサーレムさんだ。驚き言葉を失う。


 サーレムさんは魔法を放った男を羽交い締めにしている。


 「サーレムさん。そこらへんで大丈夫です。後はこちらで引き受けますから。」


 「カイン。あなた甘すぎるのよ。こういう卑怯なやつは体に分からせないと。どこかで同じようなことをするのよっ! 」


 そう言って、サーレムは男を剣の柄でこめかみを殴り気絶させた。


 やりすぎだとも思うが、言っていることも一理ある。


 もう一人の男は恐怖のあまり、腰を抜かしている。


 試験を再開する前に、二人とも牢屋に入れておくしなかないだろう。


 倒れている男を引きずり、もう一人の男は大人しくついてきた。後でメンゼフさんに報告しないと。


 


 「待たせてすまなかった。3人組は前に出てきてくれ。3人はパーティを組むつもりなんだろ。三対一でいい。かかってきてくれ。」


 リーダーと思われる男リカルドがカインに話しかける。


 「さすがに三対一では勝負にならいと思いますよ。それに先程の二人には一人ずつと言ってましたよね。」


 「勝負じゃなくて試験だから大丈夫。辞めと言うまで続けてくれ。一分後に開始する。作戦会議をしてくれ。」


 あまり納得していないが、渋々相談している。


 その間に3人の申込書に目を通すと皆同じ村の出身みたいだ。年齢も15歳と一緒だし幼馴染だろう。


 リーダーとして振る舞っている男の名はリカルド。肌は色黒く。幼いながらも筋力はCランク。剣が得意のようだし、前衛として活躍しそうだ。


 意見を出している女性はチカ。得意な魔法は火と土と書いている。髪色が茶色でクリクリとした目が特徴だ。勝ち気な性格はイグニスの槍のルキナと似ている。魔力もCと年齢にしてはかなり高い。


 大人しく二人の会話を聞いているのはサキだ。驚くべきことに光魔法と書いている。光魔法は魔法使いの中でも特別視されている魔法だ。回復魔法もそうだし、アンデッド系の魔獣には有効で、教会がスカウトしているのをよく見る。能力値は平均Eだが、才能は間違いないだろう。


 「よしっ。1分経った。かかってきていいぞ。」


 開始を宣言すると、リカルドが一気に詰め寄る。


 剣で連続で斬るが、それなりに速い。


 すべてを避けながら、後衛の魔法をケアするのは無理だ。


 剣をかわし、思いっきりお腹を蹴って無理やり距離を作る。


 そのタイミングでチカのファイアウォールとサキの光魔法ライトアローが飛んでくる。


 前衛のリカルドと距離を保ちながら、転がってかわす。


 三人はカインの動きに驚き、動きが止まる。


 「どうしたまだ終わっていないぞ。ダンジョンには自分たちより強い魔獣もいるんだ。その時諦めたら死ぬぞっ。」


 やる気と能力は十分だが、無理矢理にでも勝利を手繰り寄せる気合と経験が足りないな。


 リカルドが意を決して、剣を大きく振りかぶりカインに斬りかかる。


 破れかぶれの攻撃を当たってあげるほど優しくはない。


 懐に入り、足をひっかけて転ばせる。これで終わりだ。


 「そこまで。」


 カインは手を差し伸べリカルドを起こす。


 悔しそうな顔をしている。その気持ちをずっと持ち続ければ、大きく成長するだろう。


 「三人とも能力は高いが経験が足りない。作戦が通用しなかったことまで考えるべきだったな。前衛がまず斬りかかるのは王道の攻め方だが、数的有利をいかして魔法でオレの体勢を崩してからリカルドが攻撃したほうがよかったな。」


 「そうですね。その通りだと思います。また修行して受けに来ます。」リカルドは素直だ。


 「いや合格だ。勝つだけが合格じゃない。十分素質を見せてもらった。」


 三人は嬉しそうにハイタッチしている。


 「油断しないように。魔獣はスキを逃してくれないからね。合格証書は後ほど渡す。」


 次はサナだ。どうしよう。手を抜いてもしょうがない。全力で審査しよう。


 「次はサナの番だ。魔法使い単体だからオレと魔法で勝負してもらう。」


 「わかりました。」


 サナが覚悟を決めた顔で頷く。


 「それでは始めっ。」


 サナがファイヤーボールを詠唱する。


 すごい魔力を感じるが、魔法は出せないと意味がない。


 オレはファイヤアローをサナに放つ。


 サナが魔法を発動する前にファイヤアローが顔をかすめる。


 その後、サナが特大級のファイヤボールを放つ。


 オレはウォーターウォールでサナの魔法を打ち消した。


 「そこまでっ。サナも合格だ。」


 魔法の威力も十分だし。素質も問題ないだろう。


 「お兄様ともっとやりたかったのに残念ですわっ。」


 口では文句を言っているがどうも合格したことが嬉しそうだ。


 「魔力がどれだけ高くても発動できなかったら何も意味がない。前衛とパーティを組むか、もしくは無詠唱で発動ができるようにこれからも訓練してくれ。」


 「はいっ! 」


 サナは嬉しそうに返事をした。


 最後は問題のサーレムさんなのだが…


 「サーレムさんは合格です。」


 「ちょっと待って。私もカインとやらせてよ。」


 「いいんですか。冒険者ギルドの試験を受けに来たことを騎士団に報告しますよ。」


 「あらそんなこと。問題ないわ。許可はとってるもの。」


 当然でしょとサ―レムが言う。


 「はあ……実績も十分だし、僕とやる必要あります? 」


 「私がやりたいの。ほら剣使っていいから。行くわよ。 」


 サーレムが走りカインにフェイントを交えながら斬りかかる。今まで手合わせしたときとは攻撃の型が違うみたいだ。


 高速で剣を振りながら、何度も角度を変えて急所を狙って攻撃してくる。


 それを見ていたリカルドたちは目が輝いている。


 オレも試験官の立場を忘れて、サーレムを戦うことが楽しくなってきた。


 型が違ったので戸惑ったが、反撃だっ!


 カインはサーレムの足を狙う。狙いは甲冑の継ぎ目だ。


 サーレムは鎧で受けずに、剣で受けようとする。


 今だっ

 

 上半身が開いたところを思いっきり左足で蹴る。


 甲冑を着ていなければあばら骨を折っていただろう。


 威力は十分だが、蹴ったほうもすごく痛い。


 サーレムが膝をつく。


 「負けたわ。カイン。降参するわ。」


 「サーレムさん。ありがとうございました。さすがに甲冑を着ているサ―レムさんには苦戦しましたよ。先程も言いましたが、合格です。」


 手でサ―レムを起こす。


 これで終わりだ。5人も合格者が出た。今月は当たり月だ。


 合格した5人に対して弱点の指摘とアドバイスを行い、合格証書を渡す。これを一階のミントさんに渡せばクエストを受けることができる。晴れて冒険者だ。アシスト制度の説明もしておいた。一人でも多く優秀な冒険者に成長してほしい。


 カインは試験終了を宣言した。


 リカルドたち三人がお礼に来る。

 

 「カインさん。ありがとうございました。オレたち頑張ります。またアシスト制度でお願いします。」


 冒険証を持った手を大きく振り訓練室を出ていった。


 次に来たのはサーレムさんだ。

 

 「アシスト制度を使えば、私もカインと二人で冒険できるのね。」


 「サーレムさんには必要ないですよ。でも制度上は申込み可能です。ただ、騎士と冒険者ギルドが引き抜きだと揉める可能性があるので、メンゼフさんに報告しますよ。」


 「大丈夫よ。本当に許可は取っているから。」


 また城でやりましょうと言ってサ―レムは去っていった。


 最後にサナが来る。


 「お兄様。サナもこれから冒険者です。ダンジョンに一緒にいけますよっ。」


 カインは頭を抱えた。サナの合格を父アルベルトが知ったらオレが冒険者に勧誘したと感じるだろう。


 「サナ、絶対に父上には言っちゃダメだ。」


 「勿論ですわ。あの分らず屋の父に言う訳ありません。お祝いにアイス食べに行きましょう。」


 サナが本当にわかっているとは思えない。いずれバレるだろうが…今は考えないようにしよう。


 営業時間が終わったらなと言うと、待っていますね。と言い部屋を出ていった。


 無事に試験を終了することはできた。サナとのアイスを行くために試験の報告書を急いで作らないと。


 カインのアドバイスが効いたのか、その後、リカルドたちはA級冒険者まで一年で駆け上がる。帝都を代表するパーティになるのだが…カインはそこまで急成長をするとは思っていなかった。

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