9.お見舞い
これ以上悪化しても困る。彼女が来るまでベッドで横になっておこう。
寝転がってから10分経ったくらいだろうか。
「ピンポーン」
インターホンの音が響き渡る。池田さんだ。
約束の時間より少し早いな。心臓の鼓動がいつもより大きく動いてるのを感じる。
プライベートで他人と会うなんていつぶりだろう。お見舞いをプライベートと言っていいのかはわからないが。
俺は鏡で前髪を整えてからドアを開けた。
「ガチャッ」
「お疲れ様です! お邪魔します!」
「お疲れ様です!……ってバイトじゃないんだから」
かるく笑いながら彼女に指摘した。
「じゃあなんて言えばいいんですか?」
「んー、こんにちは! とか?」
「なるほどです」
彼女は納得すると靴を脱ぎ玄関に上がる。
「えっと、お昼まだたべてないですよね? 何か作りましょうか?」
彼女はスーパーのレジ袋を片手に言った。
あぁ、そういえば水分補給はしたが、昨日の夜から何も食べていない。空腹ではあったが自分で作る元気はなかったのでかなり助かる。
「作ってくれるなら頼んでもいい?」
「もちろんです! そのために来ました! 調理器具の場所だけ教えてもらえますか?」
彼女に調理器具の場所を教えると彼女は「藤井さんはベッドで横になっててください」と、言ったが俺は彼女の料理してる姿を見たかったので椅子に座って待つ。
彼女は寝てて欲しかったみたいだが「元気になっだから大丈夫」と嘘をついて意見を押し通す。
「トントントントン」
キャベツを切るときにまな板に当たる音。嫌いじゃない。だが、それ以上に池田さんの後ろ姿はとても綺麗だ。ずっと見てられる。
って俺本当に気持ち悪いな。
彼女はスマホを見ながら料理をしている。レシピを見ているんだろう。
「何を作ってくれるの?」
「さー? 何でしょう? 当ててみてください」
彼女は少し自慢げな口調で言う。
「普段、料理はするの?」
「あー、えっと。し、しますよ?」
……してないな。
わかりやすい彼女の嘘に笑ってしまう。
むしろ普段してなくて、特に料理が得意ってわけじゃないのに作ってくれるのは嬉しい。
「ほら! 当ててください!」
「うーん。風邪だしやっぱお粥とか?」
「まぁ、お粥は作りますね〜。でも作るのでそれを当ててください!」
料理なんて全くしない俺がわかるわけない。
いいことを思いついた。
「喉渇いたなぁ。水飲もっと」
俺は冷蔵庫に水を取りに行くふりをして彼女に近寄り、スマホを遠目で見た。
さて、何を作ってるのかな〜。
彼女はハッと気づきすぐにスマホを隠す。
「……見ました?」
「見ようとしたけど見れなかった」
「見たらだめです! ずるですよ!」
彼女は少しふてくされたように言う。
見れなかったのは嘘だ。本当は見た。いや、まぁ、料理名はみえなかったからある意味本当だ。
彼女が何を検索していたのかが見えたのだ。
[風邪に効く料理]
それを見た俺はこそばゆい気持ちになる。
わざわざ調べてくれてその材料を買ってきてくれたんだな。
その後俺はいくつか予想するがことごとく外れるので予想するのをやめて眺めることにした。
良い香りが立っている。
「はい! できましたよ〜。正解はお粥とスタミナクッパ、そして生姜入りオニオンスープでした!」
「お。美味しそう...だけどこれ作りすぎじゃない?」
「私も食べるんです! 私も朝から何も食べてないんですよ!」
「あ、そういうことね」
食べるってことはマスクを取るのか。俺はまだ彼女がマスクを外してるところを見たことがない。
彼女はマスクを外して綺麗に伸ばして机に置いた。
僕は失礼ながらも気になっていたのでどうしても顔に
目が行く。
マスク美人なんて言葉があるが、彼女はマスクなど関係のない美人だった。小顔で綺麗な鼻筋が通っている。全体的に美人な印象だが、少しアヒル口のせいか幼さも見える。
「人の顔をそんなにジロジロと見ないでください。恥ずかしいです。」
俺は慌てる。
「あ、ごめんごめん! 食べよう!」
俺たちは出来立ての温かい料理を食べながら軽く雑談をする。
「藤井さんって大学生って聞いたけど何処の大学なんですか?」
うぐ。
たまたまだろうが一番最初に聞かれたくないことを言うなぁ。まぁ適当に言うか。
「〇〇大学の建築学科だよ」
見栄を張り偏差値の高い大学を口にする。
「えー! 〇〇大学なんですか! めっちゃ頭いいですね!」
嘘をついてるくせに少し鼻が高くなる。
「そうでもないよ。そういえば池田さんは前に俺と会ったことあるって言ってたけどいつの話なの?」
墓穴を掘るまえに話題を変える。
「前回も言ったじゃないですか! 忘れてるなら思い出さなくていいです!」
この前はマスクしてて曖昧だったけど彼女は忘れている事を特に怒っている様子ではない。
まぁそれなら無理に聞く必要はないか。
「それより藤井さんって今彼女とかっているんですか?」
俺は食べているものが吹き出しそうになるのを必死に抑える。俺は水を飲み一呼吸置く。
「彼女いたら池田さんに看病してもらわないよ」
ん? この言い方だと池田さんを女性としてみてますよって、感じの言い方になっちゃうな。まぁ見てるんだけどね。
「そ、そうですよね! よかったです!」
この子......。自覚ないのか? 天然? その反応はわかりやすすぎるだろ。
そんなあからさまな反応だと……俺も照れる。
「顔すごい赤いですけど大丈夫ですか?」
え?俺は照れても顔が赤くなるタイプじゃないぞ。
「カラン! カラン!」
箸を落とした。頭がぼーっとする。すごく寒い。
そうか...これは熱か。
さっきから動悸が激しいのはこの子がいるからだと思っていたが体温がすごく上がっていたのだ。
頭がクラクラする。
「だ、大丈夫ですか!?」
彼女が俺の肩を担ぐ。
「藤井さんのベッドどこですか? 連れて行きます。」
俺は彼女の肩を借りながらベッドまで口で誘導する。
すごくいい匂いがする。あ、彼女の匂いか......。
ハハッ...。こんな状態なのに彼女の匂いが心地良い。
彼女はベッドに俺をゆっくりと置いて布団をかけてくれた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。私のせいで……。無理させちゃって…………。」
彼女の震える声が聞こえる。
「気にしないで。俺は池田さんが来てくれて本当に嬉しいんだ。君のこと好きだから」
慰めようと、彼女を肯定する言葉をかける。体調不良のピークを迎えていて言葉を選ぶことができなかった。
しかし…これは紛れもなく本心だ。
「私も……好きです。こんな状況なのにすいません。昔から好きでした。」
彼女を見ようと目線を斜め上に向ける。視界に時計が入った。時計は親が帰ってくる時間を示していた。
ぐ……。早く帰らせないと。親と彼女がはちあってしまうとややこしいことになる。
「ありがとう。嬉しい。でも、この話はまた後日でもいい?親がそろそろ帰ってくるんだ。女子高生を家に呼んだなんてバレるとややこしいことになるからさ。」
彼女はすごく心配していて、俺を1人にすることに抵抗があったみたいだが「大丈夫だから!」と、半ば強引に帰らせた。
明日はちゃんと病院に行こう。
母が帰ってくると、つきっきりで看病してくれてその夜はぐっすりと眠りにつくことができた。
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