7.体調不良


頭痛がする。体がだるい。


家に帰宅した俺は体調が気になったので体温計で測る。少し汗ばんだ脇に体温計を通した。


頭がボーッとする。


いつも思うが体温計を刺し込んでいるときの時間程、何も考えていない時間はないと思う。



「ピピッピピッピピッ」



音が鳴ってすぐ体温計を抜き取る。数値を確認すると三十七度八分を示していた。平熱が三十五度台後半の俺からするとそこそこの高熱だろう。


昨日夜風に当たりすぎたかな。


明日もバイトだ。もしかしたら休むことになるかもしれないので早めに店長に連絡しておこう。


体調不良の旨を伝えると、特に休むと決めたわけではなかったが、店長からはそうするように指示された。今日のシフトを急に代わってもらったので少しだけ後ろめたさがあったのだろう。


だが、大学生でも社会人でもないバイトしかしてない俺が熱で休むのも後ろめたさが残る。少しだけ申し訳ない。



「ピロン♪」



池田さんからメッセージだ。少しだけ喜ぶ自分に気づかないふりをする。



『お疲れ様です!今日少しだけ体調が悪そうでしたが大丈夫ですか?』



少しだけ呆気に取られる。バイト中はできる限り元気に振る舞っていたつもりだったが、彼女には気づかれていたようだ。



『そうなんだよね。ついさっき、体温測ったら少しだけ高熱だったから店長に連絡した!明日のバイトは休んでいいことになったんだ〜』



『大丈夫ですか!?もし、よければお見舞いにいきましょうか??』



いや、いやいやいやいや。そうしてほしいのは山々だが、お見舞いに来てもらうと俺が実家暮らしだとバレてしまう。

というか、一人暮らしって言ってるのに簡単に男の家に上がり込もうとするなよ。


そう思いつつも体が弱ってるからか、他人に会いたいと思う気持ちが強くなってる。いや、他人ではない。彼女に会いたいのかもしれない。


そうだ!体調不良で実家に帰ってることにすればいいか?でもそれだと、実家近いのになんで一人暮らし

してるの?って疑問持たれてもおかしくはない。



『体調不良で実家に帰ってる!実家でもいいならきて欲しいかも笑』



結局、疑問を持たれることをかえりみず、ただ会いたい気持ちだけを優先返信した。



『あ、実家に帰ってるんですね!一人暮らしだから心配してたんですよ!実家って近いんですか?』



うぐ。ここで近いことを言ってしまうと先程の疑問を持たれるだろう。

うーむ。まぁでも、正直いくらでも言い訳できるな。



『近いよ!同じ市!一人暮らしはずっと夢だったから実家近いけど親に頼み込んでさせてもらってる!』



彼女に疑問を持たれる前に弁明しておく。我ながら良い嘘だ。



『え、じゃあ本当に行ってもいいですか?』



彼女に再確認されて少しだけ冷静になる。

いや、何してるんだ。普通にだめだろう。女子高生だぞ。断らないと。


ゔ、頭痛が酷くなってきた。



『いいよ!後で住所おくるね!』



ボーッとしながらスマホを開いているといつの間にか承認のメッセージを送っていた。


あぁ、だめだ。頭が回っていない。頭で考えてることより心の気持ちを優先してしまう。


今更断るのもおかしいし、もう、いいよね。

ただのお見舞いだし。提案してきたのはあっちだし。


「俺は悪くない」と、自分に言い聞かせる。


そのあとは時間帯を親のいない昼間にしてもらい、住所を伝えた。まだ話したい気持ちはあったが体調が悪化するのを避けてメッセージでのやりとりは終了。


彼女が家に来るなら参考書だらけの散らかったこの部屋も片付けないと。だが今すぐは無理だな。明日の朝にしよう。


その日の夜は食欲もなく母親が作ってくれたお粥には手をつけることができなかった。

シャワーも浴びることなく死んだように眠りについた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る