真夜中にこれを食べるのは罪とされています

 その夜。深夜。


 閉店後の店の扉を小さくノックする音がする。

 月のない真っ暗な夜である。


 店の扉を開けたのは、シュンであった。


 店の外には、黒装束の男が立っている。

 事情を知らぬ者が見ると、怪しいとしか思えない風貌。


「シュンさま。お迎えに上がりました」

「はい、今準備します」


 そうして、大きな荷物を抱えたシュンは、来訪した男の後をついていくのであった。


 彼らが向かったのは城の裏口。

 警備の兵が彼らを見ると、すんなりと中に招き入れる。


 そうして、シュンが案内されたのは・・・



「おお、シュンよ。待っていたぞ」

「お待たせいたしました、国王陛下」


 膝をついて首を垂れた先に、玉座に座る国王がいた。


「早速、夜食を作ってもらおうか。今夜は何かの?楽しみでしたがないわ」



 国王の食事は、宮廷料理人が作ることになっている。

 だが・・シュンの作る料理をたまたま知ってしまった国王。

 週に一度、真夜中にシュンを呼び出しては夜食を作るよう命じていたのだ。


「陛下・・・実は、今日・・私の店にアリシア王女様が参りました」

「なんと!?勝手に外出したのか!?アリシアは無事なのか?」

「はい、騎士団長のシルビアさんが連れ帰っているはずです」

「おお・・シルビアなら安心じゃな。よかった」

「差し出がましいのですが・・陛下」

「なんじゃ?」


 シュンは国王に向かって顔を上げ、言った。


「このことが王女様に知れたら、物凄く怒られると思いますよ」


 国王は、苦笑するしかなかった。


「わかっておる、内緒にしておいてくれ」





「それで、今夜の料理は何なのじゃ?」


 待ちきれない様子で国王が聞いてくる。


「今日は特別な料理です」

「おお・・・特別とな・・それは楽しみじゃ」


 すると、シュンはニヤッと笑って言った。


「私の生まれた国では、この料理を夜中に食べことは罪と言われております」

「なんと!罪じゃと?」

「もちろん、本当の犯罪ではありません」


 シュンが告げた料理。それは・・・


「今夜の夜食のメニューは・・・豚骨醤油ラーメンです」








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