#21「宣戦布告されたようです」
「――……なんでここに?」
翌日の朝、通学路にて。
普段杠葉ちゃんと合流しているあの地点で、今日は杠葉ちゃんだけでなく……桃花もそこにいた。
桃花は俺の姿を認めると、ペコリとお辞儀する。
「お早う御座います、朱鳥様。……突然ですが、今日から私も一緒に登校することに致しました」
いや、突然にも程があるだろ。
昨日はそんな話題なんて一言も出なかったのに。
っていうかさ。
「……そもそも桃花、貴女って……家はこっちの方にあるの?」
「まぁ、少しだけ方向は違いますが……来れない距離ではないですので、ご心配なく」
ご心配なくって……それ、一緒に登校する意味ある?
俺が渋い顔をしていると、桃花は表情を曇らせた。
「もしかして……私はお邪魔ですか……?」
いや、別に邪魔っていう訳じゃないけどさ……。
俺は、視線を杠葉ちゃんへと移した。
「杠葉ちゃんは一緒でも大丈夫?」
俺がそう尋ねると、杠葉ちゃんは張り切るように答えた。
「全然大丈夫です! むしろ人数は多い方が賑やかで楽しいですし……!」
杠葉ちゃん……相変わらずええ子や……。
杠葉ちゃんが良いと言うのなら、俺がわざわざ拒否する必要もないだろう。
「……分かったよ。桃花がしたいなら、そうすればいい」
「ありがとうございます、朱鳥様」
桃花は深々とお辞儀した。
久しぶりにこんな扱い受けるから、なんか調子が狂う。
「……前々から思ってたんだけど、その敬語で話すのやめない?」
「……なぜですか?」
「いや、だって私たち、同い年だし……」
「ですが……私は、朱鳥様にお仕えする立場なので」
「ああ、そう……」
いやまぁ……本人がいいなら、別に良いんだけどさ……。
それから、学校までの道のりを4人で歩く。
中等部2人に、高等部2人。側から見たら、なかなかにいびつな集団だった。
もっとも、ロリっ子2人を俺1人で侍らせているような構図だった昨日までよりは、幾分かマシなのかも知れないが。
「へー、じゃあ桃花さんって2人と幼馴染なんですね」
「はい」
いつの間にかすっかり仲良くなって、おしゃべりに花を咲かせている杠葉ちゃんと桃花。
杠葉ちゃんって、何気に順応力高いよな。
「ちっちゃい頃の朱鳥お姉様って、どんな方だったんですか?」
「今と同じで頼りになる方でしたよ。……まぁ、偶にイジワルでしたが」
おい。余計なことを言うんじゃない。
「そうなんですか?」
「はい。とってもイジワルです。もっともその性格は、今も変わってはないようですが」
こんにゃろ……まだ避けようとしたことを根に持ってやがんな。
それを聞いて杠葉ちゃんはうーん、と唸る。
「私にはいつも優しいですけど……」
「それは猫をかぶってるだけです。本性を出したらそれはもうイジワルなんですから。ねえ、華恋様」
桃花に振られた華恋は、ウキウキで話し始める。
「桃花ちゃんの言う通りだよ! この前なんてね、私が大事にとってた冷蔵庫のプリン、ねぇねが勝手に食べちゃってね!? その時、ねぇねなんて言ったと思う? 『誰の腹の中に収まろうと、プリンはプリンだろ』だって!」
いや、言った。確かに言ったけども。
すると、杠葉ちゃんは笑いを堪えながら俺に言った。
「朱鳥お姉様って……やっぱり面白い方ですよね……」
……お褒めに預かり光栄だね。
それ以降、学校に到着するまで、杠葉ちゃんの笑いのツボは収まらなかった。
せっかく杠葉ちゃんの中で形成されていた俺の高貴なイメージが、コイツらのせいで崩れ去ってゆく。
くそ……。
俺がお嬢様モードに入っていて、自由に反論できないのを良いことに……。
覚えてろよ、2人とも……。
◇◇◇
中等部の校舎に入っていった2人と別れ、高等部側の玄関で上履きに履き替えていたところで、桃花がこんなことを言い出す。
「そういえば……そろそろ中間テストですね」
「そうだっけ?」
全くと言っていいほど頭の中に無かった。
まぁ、途中編入でバタバタしてたこともあるし、そこまで考えが及ばなくても仕方ないんじゃないかとは思うが。
「朱鳥様は、テストの自信はありますか?」
「うーん、どうだろ……」
前の学校では、成績はそこまで下位という訳でもなかったが、環境が全く違うからな……。
「……ぼちぼち頑張る、くらいかな?」
それを聞いた桃花は苦笑した。
「まぁ……そんなことを言いつつ、きっと平然とこなしてしまうのが朱鳥様なんでしょうけど」
なんというか、随分と買い被られたものだ。
「取り敢えず、あまり過度な期待はしないでおいてくれ。期待され過ぎるのは荷が重いからな」
「はい」
階段を上がったところで桃花と別れ、それぞれ自分の教室へと入ってゆく。
教室に入った俺は雨宮さんと挨拶を交わして、自分の席に腰掛けた。
――と。
その時、俺の到着を待っていたかのようにこちらに向かって歩いてくる人物がいた。
――……周防世莉歌だ。
最近すっかり大人しくなったから懲りたのかと思っていたのだが、俺を睨みつけるこの鋭い目つきを見る限り、どうやらそうではないらしかった。
周防さんは俺の席の前まで来ると、座っている俺を見下しながら言った。
「ご機嫌よう、天王寺さん」
正直面倒ごとに巻き込まれるくらいなら関わりたく無かったのだが、こんなふうに目の前に立たれて声をかけられちゃ、無視するわけにもいかない。
俺は彼女の挨拶に応えた。
「……ご機嫌よう、周防さん。今日はどうかされましたか?」
俺がそう言うと、周防さんは沸騰したヤカンのようにブルブルと震えながら、俺に向かって呟いた。
「……貴女が編入してきてから、私の日常はメチャクチャですわ……これまでは、ずっと上手くやれていたのに……」
一瞬、知るかよ、と言いそうになったが……俺は直ぐに口を噤む。
今の周防さんには、有無を言わせぬ迫力があった。
「天王寺さん……再来週から中間テストがあるのはご存知かしら?」
「え、ええ……」
ついさっきまで桃花と話していたから、もちろん知ってはいるが……。
すると、周防さんは――俺を指差しながら叫んだ。
「……天王寺朱鳥!! 次の中間テストで、私は貴女に勝負を申し込みますわ――!!」
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