アルフ歴元年~終わり

ここまでいくつもの文明が生まれては滅んでいったことで、惑星エヴリネートスには、無数の遺跡が残されることとなった。特に、ククル文明期はまさに<失われた古代の超文明>そのものであり、しかもそこで生み出された様々な物品の中には数十万年の時を経ても腐食したり変質したりしないものもあった。ゆえにそれを発掘し利用することで生じたのが、<アルフハンディアンス文明>だった。


アルフハンディアンス文明は、レイオスティーリア大陸の東部に生じた文明である。レイオスティーリア大陸にも当然のこととして無数の遺跡が存在し、文明を失い原人同然の暮らしをしていたエヴリネートス人は、その意味も使い方も知らないままで役立てていたりもした。


特に刃物類は、狩りをする際の武器として大変重宝し、また、とても硬くて丈夫な諸々の物品は身を守るための鎧として活用できた。こうしてエヴリネートス人は再び数を増やし、集落を大きくし、そしてそこに人々をまとめる立場の者をいただくようになった。首領<ルドハセオン>の誕生である。


そしてルドハセオンは、不思議な記号が延々と刻まれ続ける<石>を読み解ける唯一の者でもあった。それは<時計>だった。実は稼働している物理書き換え現象を顕現する機関<アクネトゥルアカ>が地中深くに存在し、それがその時計を動かし続けていたのである。もっともルドハセオンはその時計が意味するものを読み解いているのではなく、ただ一定の規則に則って動いていることに気付いただけでしかなかったが。


しかしこれによって新たな暦である<アルフ歴>が誕生することになった。


アルフ歴000045年。首領ルドハセオンは時計が示すそれによって<季節>が大まかな規則性を持って変異することも理解し、それに合わせて植物の種を蒔けば上手く作物が採れることも理解していた。これにより狩猟から農耕へと移って確実な食料確保が行えるようになり、生活に余裕が出てきたことで人口は一気に増えた。


アルフ歴000048年。首領ルドハセオン死去。しかし時計を読み解く技術は息子のルドカイレンに受け継がれ、それに従って農耕を発展させていった。同時に、遺跡の探索を専門に行い、様々な物品を発掘する<発掘屋>も増え、使い方は分からないが不思議な遺物が多く掘り起こされると、それ自体が価値を持って取引されるようになった。その取引のために通貨<ルド>が生まれる。この時点ではまだ貨幣そのものが財産という概念がなかったため、労働の対価としては使われなかった。基本的には遺物を取引するための道具でしかなかったわけである。生活はあくまで農耕と狩猟によって成り立っており、多くの作物を作れる者、大きな獲物を獲ってくる者、そして遺物を発掘してくる者が、<優れている者>とされていた。そのなかで<首領>の役目は時計を読み解くことであって、<権力>という形ではなかった。


アルフ歴000086年。首領ルドカイレン死去。時計は息子のルドハイハスに引き継がれ、作付けや収穫の時期を指示した。そんな中で発掘屋が遺跡から持ち帰った<土>が作物の生育を非常に良くすることが分かり、その土を求めて発掘屋がさらに増えた。その土は、埋没した肥料工場の倉庫に残されていた大量の<窒素肥料>であった。


アルフ歴000133年。首領ルドハイハス死去。時計は娘婿のラドハイクフに引き継がれ、作付けや収穫の時期を指示する役目も受け継がれた。このように、非常に牧歌的でのんびりとした文明だった。発掘品の中には武器も多かったもののそれを人間同士の争いに利用するという発想がなく、あくまで狩猟のため獣から身を守るために用いられているだけだった。


アルフ歴032659年。<パンディクス文明>に続いて化石燃料や鉱物資源が確保できないことで技術はなかなか進歩しなかったが、その一方で発掘品を利用しそれなりに安定した暮らしは続けられていたようだ。しかしこの年、発掘屋<ポルティコス>が地下深くで発見した遺物により、状況が一変する。またしてもカルッセウスの一騎が発見されてしまったのだ。起動したカルッセウスは、全高四ルトス(約四メートル)の小型のものではあったが、時計を動かしている地下の物理書き換え機関アクネトゥルアカから動力供給を受け動作するものであり、しかも制御系に使われていた<人間の脳>になぜか意識があり、この時点での地上に存在するどんなものよりも強力で、かつ高い知能と知識を持っていたそのカルッセウス(当人は<ガルドフ・デュリュハ>と名乗る)は人々を指導し始めた。


アルフ歴032660年。人間の意識を持つカルッセウス<ガルドフ・デュリュハ>は自らを<神帝>と称し、発掘屋が遺跡から持ち帰った数々の物品の使い方を明かし、生活を一変させた。だが同時にそれは、ずっと平穏に暮らしてきた人々に、『他者よりも上に立ちたい。恵まれたい』という欲求も生じさせ、力によってそれを為すという発想を植え付ける結果となった。ガルドフ・デュリュハ自身にとってはそれが当たり前の感覚だったことで当人は自然なことだと思っていたようだが。


アルフ歴032672年。人間世界を事実上支配した神帝ガルドフ・デュリュハは、アハティアイリス大陸、フォルゴル大陸、ルブネア大陸にも進出を試みる。ただしガルドフ・デュリュハ自身は、自身の城を築いた地から離れることができなかったので、人間の軍を派遣した。地下の物理書き換え機関アクネトゥルアカから動力の供給が受けられる範囲からは出られなかったためである。


アルフ歴032753年。アハティアイリス大陸、フォルゴル大陸、ルブネア大陸に軍を派遣し支配を着々と広げていったガルドフ・デュリュハではあったものの、力に頼った治世に対しては反発する者も多く、首領ルドハセオンの子孫であり、当代の首領とされていた<ラドカハティス>が地下のアクネトゥルアカを破壊、動力の伝達を途絶させたことでガルドフ・デュリュハはすべての機能を失い、脳も死んだ。それと同時に<時計>も停止し、アルフ歴が終わる。


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