第65話 探索依頼。その2
― 10:00、『怪盗団』ハーベスタ造船所 ――
タカシに呼び出された、サラたち怪盗団の面々は、ボブが運転する『クルーチーフ 715』でハーベスタ造船所を訪れていた。
「ようこそ」
先に来ていたタカシが怪盗団を出迎えた。
「ハイ、タカシ。……あたし達をこんな油臭い場所に呼び出してどういう了見?」
挨拶もソコソコに、サラがタカシに食ってかかった。
「……船の用意が出来たから、呼び出したんだが?」
タカシはサラに呼び出した理由を説明した。
「だから、なんで造船所?……いつものボイジャーズワーフじゃないの?」
なおも食って掛かるサラに、モニカとマイラがヤレヤレと顔を見合わせた。
「――サラの悪い癖が出たね」
「あぁ、時々面倒くさくなるよな」
――サラは親しい人間には甘えて我儘になる時がある。……しかし聞き分けは良いのでビシッと言えば大人しくなり、後に引くことがない。
あとで、タカシに教えようと二人は決めた。
「大体、タカシは……」
「サラ。……その辺にしないと、話しが進みませんよ」
見かねたニアがサラを諭した。
「あっ……うん」
サラはニアの言葉で静かになる。
「……いいかな?ココに呼んだのは、裕福なサメ2世のお披露目と処女航海のためだ」
「裕福なサメ2世?」
怪盗団の面々はタカシに聞き返した。
「――元はマラガの持ち船だったのを奪って、サルベージ用に改造したんだ」
「……ねぇタカシ?……新居の豪邸といい、マラガからどれだけ奪ったの?」
サラの疑問にタカシはコッソリ教えてくれた。
「……動産、不動産を含めて280億ドルぐらいだな」
「……」
サラと聞き耳を立てていた怪盗団は、その金額の大きさに呆気に取られた。
「立ち話も何だから、取りあえず乗船しないか?」
タカシのもっともな言葉に、怪盗団は素直に従った。
「……あたし達のお陰で儲けたんだから、もう少し手加減してくれても良いんじゃない」
「全くだ」
サラはタカシにも聞こえるように不満を漏らし、怪盗団の面々もサラに同意した。
― 10:30、『タカシ一味&怪盗団』裕福なサメ2世 ――
「ねぇタカシ。――これ本当に船なの?」
サラはドックに鎮座している『裕福なサメ2世』を見て率直な疑問をむけた。
「正確には半潜水艦だな」
タカシは『裕福なサメ2世』について簡単に説明した。
―― 裕福なサメ2世 ――
排水量6000トン、全長100メートルで、大きく張り出したバルバスバウに船首に行くほど細くなっていくタンブルホーム船型のメガクルーザーで、上部構造物が低くノッペリとした形状は潜水艦を思わせる。――実際、水深50メートルまでの潜航能力を有している。
元々はマラガの趣味と
そのため、船内には宿泊施設やラウンジ、ミニシアターのほか、船底と艦尾の格納庫には深海探査艇や各種ドローン、ヘリコプターを搭載し、最大30ノットで9000海里の航続距離を誇る。
サラはタカシの案内で船内を歩きながら『裕福なサメ2世』を観察した。
……一部の調度品は撤去された様だが、内装は余り弄っていないという事だ。
『ふーん。――ホドホドな豪華さと実用性のバランスの良さが、あたしの好み』
サラは早くも『裕福なサメ2世』を気に入り始めていた。
「さあ、ラウンジに着いたぞ」
タカシはそう言って観音扉を開くと、そこにはタカシ一味が勢ぞろいしていた。
「ハイ、アイリス」
「こんにちは、アイリスさん」
「よぉアイリス邪魔するよ」
「おはよう、アイリス」
怪盗団の面々がアイリスに挨拶する。
「――ウチのメンバーを紹介するよ」
タカシは怪盗団にタカシ一味の紹介をはじめた。
「まずは、この船の船長のセリョーガ」
「嬢ちゃん方、ようこそ我が船へ。――快適な航海を約束するよ」
潮焼けした顔に無精ひげを生やした、素行の悪い水兵といった風情のセリョーガ―が海軍式の挨拶をする。
『……見たところ、連邦の水兵だったようね』
サラはセリョーガの敬礼から連邦海軍出身だと見当をつけた。
「次はアンジー。――バックアップ担当でハッキングアプリの開発者だ」
「ハイ、みんなヨロシク。……アタシのハッキングアプリ気に入ったって?」
灰色のショートヘアーで、タックトップ姿のアンジーが、少しぶっきらぼうな口調で挨拶した。
「ねぇ、アンジー。……あのアプリ、あたし達にも使わせてくれないかな?」
サラは、先日のハッキングアプリをアンジーにねだる。
「……考えておくよ」
「――紹介を続けてもいいか?」
タカシは咳払いをしてサラに『後にしてくれ』と念を押す。
「ごめんなさい、タカシさん。――サラ、紹介の途中に……失礼ですよ。」
ニアはサラを咎める。
「最後は、ドローンオペレーターのクレイトだ」
「デュフ……」
典型的なギークであるクレイトは、それだけ言って黒縁メガネをクイッと上げてお辞儀をした。
「……」
怪盗団は何とも言えず、皆黙ってしまった。
「あー、アイリス。……怪盗団の皆さんを客室まで案内してくれるか?」
タカシは場の空気を変えようと、アイリスに客室までの案内をお願いした。
「――分かりましたタカシさま。……皆さまどうぞこちらへ」
アイリスはタカシのお願いに粛々と従い、怪盗団を客室へ案内する。
「……へぇ、仲々いい部屋ね」
サラは案内された客室――中央ラウンジを囲む様に客室が6つある。――を観て素直な感想を伝えた。
「あぁ、空気がキレイだし、調度品も落ち着いてて過ごしやすそうだ」
「本当、アロマのチョイスも悪くないわ」
「フカフカのベッドで寝れるんだ」
マイラ、モニカ、ニアの三人が、それぞれの感想を述べた。
「……お褒め頂きありがとうございます」
ベッドメイクを暫定的に担当しているアイリスが、微笑みを浮かべながら深々と頭を下げた。
「ご用が御座いましたら内線をお使いください。――では出港までお寛ぎ下さい」
アイリスはそう言い残して退出した。
「アイリスって、あんなに表情豊かだったっけ?」
「初めに会った時はなに気取ってんだと思ってた」
「慇懃無礼な感じがしたわ」
「――そうなんですか?」
サラ、マイラ、モニカはそれぞれアイリスの第一印象を語るが、囚われの姫だったニアは、いまのアイリスしか知らないのでピンとしなかった。
「よし。それじゃ、自分の部屋を決めたら道具を運び込もう」
サラはそう言って内線を使い、タカシにその旨を告げると、待機しているボブを呼び出した。
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