第47話 作戦会議

一通り食べ終えたアヤ達は椅子に座ってイベントの話し合いに移る。


「それじゃあ、イベントに向けて作戦を立てる。異議あるやついるか?」


リンゴが手を挙げて「どうぞ」とカヤックは発言を譲る。


「侍は別クランの所属。だから参加資格ない」


視線がスミレに集まり、彼女は頷いて俯く。


「確かに魔女まじょの言う通りだ。部外者がここにいるべきではない」


カヤックはリンゴとスミレのやり取りに目を見開いて「ほう」と笑みをこぼす。

そのあとカヤックから発言がなかったので、私は手を挙げて提案を述べる。


「クランボイチャすればわざわざ退出しなくてもいいと思う」


カヤックが腕を組み、納得したように頷く。


「確かにそうだな。ただそうなると俺達が無言で話し合いをスミレは見ることになるし、作戦会議が終わるまで待つことになる」


「問題ない。実はドラネコ殿からチャットがきていて、この場からボイチャする予定だ」


「そうか。一人だけ別のことさせてるみたいですまんな」


「いいや、元々敵の私がここにいるのがおかしいんだ。本来なら私が謝るべきだ」


「そんなの気にしなくていいわよ。所属クラン違うけど、私達フレンド同士じゃない」


「イノン殿……」


「侍、タダで剣璽の三貴子の作戦教えて」


「それはしない」


リンゴは「ケチ」と口を尖らせて怪訝な顔つきになる。情報をタダで教えたらそれはもうスパイだ。

でも何でスミレは剣璽の三貴子に所属してるんだろう?


「じゃ、ぼちぼち始めるか」


カヤックがクランボイチャを開いて、考え事が止まる。いま考えてもしょうがないか。

あとでスミレにフレチャとかで聞いてみよう。

ちなみにあの洞窟の一件のあとでフレ登録した。

イノンはケーキ屋で食べてた時にいつの間にかしてたみたい。


「まずは……クラマスからの意見を聞こうか」


カヤックの言葉に感化されて皆んな「異議なし」と答える。

都合の悪い時にクラマスに押し付けるのひどい。


「こういう時にだけ頼るのひどくない?」


「「「「そんなことない(わ)(ぞ)」」」」


真顔で首を横に振るリンゴ達にアヤ小さくため息をついて口を開いた。


「ど素人だからあまり参考にしないでね。えーと、とりあえず料理を作る組とそれを守る組と攻める組に分かれた方がいいと思う」


するとノワールが手を挙げて、発言権をノワールに譲る。


「割り当てはどうする?」


「料理一人、料理番を守る二人、攻める二人かな」


今度はカヤックが手を挙げる。


「料理一人でポイント稼ぐのキツいと思うな。ただでさえ他クランは何十人もの人手がいるのにたった一人でポイントを賄うのは無理がある」


カヤックの言う通りだった。人数差を埋めるにはその分の量だけ頑張る必要がある。


「ならメンバーを増やすのはどうかしら?」


イノンの一言にノワールが告げる。


「いま募集したら確実に間者を送り込まれるぞ。ここだけの話だが個人でフレチャが可能だからな」


「む、それ知らなかった」


フレンドチャット、略してフレチャは頭で浮かべた文字をチャットに打ち込むことが出来る。

つまるところ一切動くことなく、送ることが可能だ。


「で、でも、新規で入りたい人だっているかもしれないじゃない」


「いるかもしれないがそんなカカシを増やしたところでポイントを減らす格好の獲物になる。他にも、上位プレイヤーを誘ってもほとんどクランに所属してるからな」


「ノワールはフレンドが少ない。だから誘う人が少ないだけ」


「否定できねぇのが余計に腹立つ」


リンゴをぎろり睨みつけるノワール。

しかし、当の本人は気にせず口を開いた。


「私はこの五人で戦うべき」


「発想が蛮族すぎるし、料理作らなきゃポイント入らないぞ」


リンゴの血の気に辛辣な顔でノワールは見る。


「仮に五人攻めになったところでアイテムの消耗が激しくなるだけだ。他にも三人が店番、攻めが二人だとして、もし敵に三人だけってのがバレたら全勢力で攻められてゲームオーバーだ」


ノワールのキレッキレの論破に言い返すことが出来なかった。悩んだ末にアヤは口にする。


「ノワールは何か策ないの?」


「ない。作戦立てるの面倒だからな」


「清々しくそれ言えるの凄いと思うよ」


「照れるぜ」


「あとで4対1のPvPやろうね」


「……分かったよ。考えるからちょっと待てろ」


ノワールは腕を組んで上を見上げる。少ししてノワールの口が開いた。


「まず勝つのは不可能だ」


「それは知ってるからもっといい作戦考えて」


「いいや、これがいい」


「勝てるビジョン浮かばなくて現実逃避しちゃってる?」


「ちげよ。相手に勝つのは不可能だと思わせればいいんだよ」


「どういうこと?」


ノワールは私とリンゴに目線を交互に向ける。


「偽魔女と殲滅姫、この二つ名は大いに活躍できるってわけ」


「もっと分かりやすく説明して」


「んとな。お前ら二人はプレイヤーに恐れられてるの。つまるところ二人が棒立ちしてるだけでも警戒して攻めるの躊躇うんだ。いうなれば化け……プレイヤーの抑止力みたいなもんだ」


「化け物って言おうとしてた?」


「気のせいだ」


ノワールはそっぽを向いて話を続けた。


「そういうわけだからお前らが守っていたら基本的に攻められることはない。あるとすれば無謀な奴らか、ランキングトップ10くらいの強者だけだ」


「じゃあ私とリンゴが守る感じ?」


「違う。お前ら二人は攻める側だ。どんなに守っていても最終的に攻められる。だからこっちから攻めて場を荒らす方が優勢に働きやすくなるはずだ」


「ノワールの作戦、矛盾してない?」


「してないが?」


「いや、私とリンゴが守らないと攻められるんでしょ? なのに攻める側になるのおかしくない?」


「そこは今から説明するから安心しろ。だが、その前に」


ノワールは視線をリンゴに移す。


「偽魔女、〈水月鏡花〉はMP消費の汎用コモンスキルだよな?」


「ん? うん。それがどうした?」


「ならOKだ。それを殲滅姫に三日内に会得させてくれ」


「…………あ、なるほど。ノワールの作戦ほとんど分かった」


「さすが相手の思考を読むことに長けた偽魔女だ」


「褒め言葉として受け取っておく」


ノワールは事件を解いた探偵のように手を合わせてアヤ達を見つめる。


「さて、俺の考えた作戦は​───────」


息をつかせぬままノワールは説明をし続ける。

それはあまりにも無茶で、無謀で、バレた瞬間即破綻する諸刃の剣だった。


「以上が俺の作戦内容だ。異論ある奴は?」


アヤ達は口をつぐむ。

はっきりいって勝算は低い。けれどそれが一番勝率の高い作戦でもあった。


「異論はなさそうだな。最後はクラマスの殲滅姫が決めてくれ」


「私はこれが一番いいと思う……いや、ノワールの案を採用する、これは決定事項です」


「「「「了解!」」」」


リンゴ達は小さく笑みを浮かべて頷く。


「決まりだな。それじゃあ、これから準備で忙しくなるから解散だ」


私達は立ち上がり、各々準備に取り掛かる。


「そちらも終わったみたいだな」


スミレが軽く会釈してこちらを向く。


「次会った時は敵同士だ。それと妖精の箱庭のことは一切話してないから安心してほしい」


「そんなの気にしてないよ。でも敵同士ならこれ言わなきゃね」


私はすぅと一息吸ってスミレを鋭く睨みつけた。


「私達が必ず勝つ」


「無論こちらが勝たせてもらう」


私とスミレは手を交わしニヤリと笑う。


「それと魔女。そなたとの約束は果たすつもりだ」


「そう。なら手加減しない」


リンゴはまるで成長した我が子を見るように小さく微笑む。

スミレは心なしか名残惜しいそうに手を振って光に包まれて消えた。


「ん、アヤ。スキル会得いこう」


「そうだね」


次は四日後。それまでに私達は強くならなきゃいけない。それがどれほど険しくても。

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