第9話



 そして俺にとって夢のようで楽しい時間はあっという間に過ぎてしまった。


 山小屋をあとにして亮太のおばさんの家に戻った。


「ゆっくりして行けばいいのに」


「そうしたいけど夏休みの宿題もやんなきゃだしさ、またくるよ」


「そう? 片瀬くんも本当にありがとうね。またいつでも遊びに来てちょうだい」


「はい、また来ます」


「あ、そうだった。片瀬くんちょっと来てちょうだい」


「あ、はい」


 俺は亮太のおばさんに言われるがままついていった。


 荷物になるけど、と言って俺の両親のためにとお土産を渡された。


「すみません、わざわざ。ありがとうございます」


「いいのよ。これくらい。あ、そうだ。片瀬くんこれからも亮ちゃんのことよろしくね」


「え? あ、はい」


「亮ちゃんのお父様ね、転勤が多いから引っ越してばっかりで。やっと落ち着いたと思ったらまたお引っ越しでしょ? だから昔から亮ちゃんもあんまり友達を作ろうとしなかったのよ。夏休みや冬休みは毎年ここに遊びに来てくれるんだけどね、お友達を連れて来たのは片瀬くんが初めてよ?」


「へえ。そうなんですね」


「亮ちゃんの楽しそうな顔を見れて私も安心したわ」


「……はあ」


「やだ、ごめんなさいね、こんな話し。とにかくまたいつでも遊びに来てちょうだい」


「はい。お世話になりました」



 おばさんの言ったことがなんだか俺をそわそわさせた。


 初めて連れてきてくれたという些細なことで俺の心はくすぐったかった。





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