第16話 また伝説が1ページ



「こ、これお返ししますね」


ちょっと頬を赤くしながら、ちらちらとマスクの隙間から見えるカノユキの目を見ながら、勇者は借りていたナイフを返却する。


カノユキは無言で受け取った。


何も言わずきびすを返そうとする。


「あ、あの漆黒の旅団さん!」


勇者が声をかける。


「なんだ?」


なぜか堂々とカノユキは返事をした。


「あの、どうしていつも助けてくれるんですか?」


ふむ、さてどうしてだったろうか。


カノユキはそんなことをつぶやいてから、


「ふ、さてな」


そう言ってバサリとマントをひるがえす。


「お、教えてはくれないのですか?」


「そうだな……」


カノユキは立ち止まり考えてから、


「まあお前がもう少し成長すれば、教えてやるときが来るかもしれんな」


と言った。


そうなの? とアルテノは小声で聞いた。


いや、そういう設定で行こうかなと。


そうカノユキは答えた。


「ではな!」


「あ!」


たーんと、自分の船にとびうつると、カノユキたちはすぐにその場を離れていった。


「行っちゃった……」


「いやあ、今回もうさんくさい野郎だったぜえ」


勇者の肩のうえで、リスは言った。


「ですがまた助けられましたな」


「ほんと、なんなんだろうねえ」


勇者以外のメンバーはめいめい困惑したり、罵倒したり、ちょっと感謝したりと色々言った。


「成長したら……」


「ん? 勇者なんか言ったか?」


その言葉に勇者は顔を見えないように向こうへ向けて、


「う、ううん。なんでもないよ!」


と言ったのであった。


(カノユッキー様。わたし成長して、あなたに追いつきます!)


そんな決意をしているのだった。


おんやー、勇者様ったら、まさかかなー?


ちょ、イブキ、ちがうよー!


わたしなーんにも言ってないんだけどなー。


あっ、……も~。


と、そんな女子会話が繰り広げられたという話もあるが、それはまた別のお話。



「漆黒の旅団……か」


灼熱の旅団バネッサは言った。


「姉さん、これからどうするんで?」


取り巻きが言う。


「はっ、決まってるさね!」


そう言って舳先に足をのせる。


「永遠のライバルが現れたんだ! どっちが上がきっちり白黒つけるまで、この街に滞在だよ!」


「あいあいさー!」


にぎやかな声が響いた。




王国歴240年


後に魔王を倒す勇者一行はアレサンドラ港にて、貿易の要であるこの地域をおびやかしていた死霊ならびにそのボスモンスターを見事討伐する。

一説には、神話の時代に失われたという神々の武具をたずさえてことにあたったとも言われているが定かではない。

だが、いずれにしても、この海域の安寧がこの時点で確保されたことは人類にとって大きな意味があったことについては、学者たちの間でも見解は大きく相違しない。

なぜなら、これによって交易ルートが確保され、困難とされてきた大反撃へと打って出るための布石となってからである。

また、傭兵団として後に勇者たちと共闘する灼熱の旅団とも、この時知り合ったと伝わっている。

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