第5話 ドラゴンを倒さずんば国が滅ぶ
ううむ、周りがクレーターだらけになったが。
「いやあ、大漁大漁ね! これで今日の宿代も安心だわ」
「何をしに異世界にやってきたのやら」
やれやれ。
「まあいいか。さっさと帰って寝よう」
「そうね。あ、それはそうとかーくん」
ん?
「はい、プレゼント」
えーと、これは……。
「ナイフ、か?」
いつの間にこんなものを?
「戦闘ばかりで買う暇などなかったはずだが」
モンスターが落としたのよ。
時どきそういうことがあるのだそうだ
「ふーん」
変わったナイフだな。よく見るとくぼみが3つある。なにかをはめるのだろうか?
カノユキが眺めていると、アルテノが説明した。
「それはスロットね」
スロット? なんだそれは?
「そこに特殊な魔石をはめると効果が出るのよ」
ほう。
「ではさっきの魔石をはめてみればいいのか?」
早速やってみると、
「……なんにもおこらんが?」
「そりゃそうよ。言ったでしょ、特殊な魔石じゃないと効果がないの」
なんだ、つまらん。
「でもスロットのある武器は貴重品なの。とりあえず今後のお楽しみってことで」
ふーん。
「あと、これとこれ」
「けっこう落とすんだな……」
って、なんだこれは。
「これはフェイスガード、かしらね。目元を守る装備。あとはマントね」
「マントはともかく、フェイスガードはいるか?」
仮面舞踏会みたいだな。
いらなきゃ売ればいいわ。
「さ、それより宿屋に行きましょう」
「だな、もうクタクタだ」
ゆっくりするとしよう。
と、その時であった。
ブオン!
未来視のスキルが発動する。
そこには一つのビジョンが現れていた。
映し出された光景は……。
「おい、アルテノ。どうやら宿屋はお預けのようだ。行くぞ」
「い、行くってどこへ」
「決まっているだろう?」
ビジョンは山中を映し出していた。時刻は夕方。
今は昼だ。急げば間に合うかもしれない。
「ど、どうしたのかーくんそんなに慌てて」
「勇者どもがこのままだと……死ぬ」
ビジョンに映し出されていた光景。
それはドラゴンに無残に捕食される勇者たち一行の姿であった。
「ちょ、ちょっと待ってよ、かーくん! かーくんってばぁ! 晩ごはんがこぼれちゃう、こぼれちゃう。っていうか、こっちでホントにあってるの?」
後ろをおどおどと見返しながらついてくるアルテノ。
手にはモンスターを倒すついでに仕留めたうさぎを持っていたりする。今日の晩ごはんとのこと。
足は止めず首だけ振り返るカノユキ。
「早くしろ。こっちのはずだ」
「どーしてわかるのよ! なんでわかるのよ!」
ずるいずるい! と女神は叫ぶ。
なんだずるいって……。
「なんとなくだが、分かるんだ。スキルが関係してるのかもしれん」
「ああ、なるほど」
女神はポンと手を打つ。
「そうかもしれないね。未来のビジョンを見たおかげで、いくつもある未来のうちから、カーくんの見た未来に収束しようとしている。より強い収束を求める未来の種がかーくんを呼んでいるのかも」
「お前いきなりなんだ。キャラ崩壊はやめてくれないか?」
「誰がキャラ崩壊よ!」
私は女神よ! つまるところ神様なんだからね!
神らしいことをやってから言え、と言いたい。
「ま、卵が先か鶏が先かみたいな話だな」
「全然違います」
どうでもいい。
「それよりあれを見てみろ」
「へ? えーとどれどれ、って」
女神が俺の指差す方に視線を移し、
「どっひゃあああああああああああああああああああああ!?」
面白いほど垂直に飛び上がった。
「かかかかかっかかかかかかかかっかかーくん! あれって!?」
「ん。ドラゴンだろう?」
「ん。ドラゴンだろう? じゃないよ!」
のりつっこみをする女神。
「き、聞いてないんだけど。あれってあれって只のドラゴンじゃないよ。レッドマスタードラゴンだよう‼」
「……ちょっと強そうだな?」
何か思いっきり言おうとしていた女神だが、言いかけてはやめてを何度もしなおしてから、
「強いってもんじゃないよ」
とため息をつきながら言った。
アーパー女神いわく。
レッドマスタードラゴンは普段ドラゴンのみが住むという山嶺に住むという。
今回なぜこんな外界におりてきたのかはわからない。
だが、レッドマスタードラゴンがひとたび人界に姿を現したとき、その周囲の地形は変貌し、街は倒壊し、国家は滅亡する。
そんな伝承があるほどの凶悪なドラゴンなどという。
「地域によっては神様だったあがめられてるんだから」
「そんな情報はいい」
ドラゴンへ視線を戻す。
「それより、あいつを倒すにはどうしたらいい?」
「は、はぁ!? かーくん、アレを倒そうって言うの!?」
「ああ、そうだが?」
ぷ。
「ぷ?」
ぷぷぷ。
「ぷぷぷ?」
「ぷぎゃーはっははははっはは!」
失笑というか哄笑というか。そんな大笑いがこだました。
「無理無理、無理だって! げーらげらげら。ムリムリのぶりぶりだよう!」
ケラケラケラケラ。
こいつ……先に殺すか。
「ひぃひぃ……。いやだって、笑うしかないじゃん。笑い死ぬしかないじゃん! だってレッドマスタードラゴンだよ。街ひとつ簡単に滅ぼしちゃうくらいのバケモノだよ!?」
ふむ。
「そんなバケモノ相手にレベル1のへっぽこかーくんが太刀打ちできるわけないじゃない」
かーくんなんて歯牙にもかけられないよ。っていうか、多分無視されると思うよ。攻撃でもしないかぎりは!
なるほど、ありみたいなもんか。
そうそう。
そこまで聞くとカノユキは一歩を踏み出した。
「だが、俺はやる」
「へ?」
何を言われたのかわからない。いや信じたくないといった顔の女神の前をスイと通りすぎる。
(やらないといけないんだ、俺は)
脳裏に一度死ぬ前に出会ったあいつの面影がよぎる。
「短い付き合いだったな」
別れを告げる。
「ってえええええええええ、なんでシリアスモードなのよ!」
それはお姉ちゃんの役目でしょ!
いや、お前がシリアスモードだったことなどなかったが……。
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