第2話 2合目
・・・で、今に至るわけだ。
「何でだよ! 死んだんじゃなかったのかよ!」
いや、慌てても仕方ない。まずは状況確認だ。
格好は・・・うん見下ろしたら確認できた。これは下校時の制服姿のままだな。特に破れたりもしていない、か。スマフォとか所持物は・・・一切ない。
あと・・・うん、手足はちゃんと動く。体は大丈夫そうか。どこにも傷はなく、健康そのものって感じかな?
頭にも傷は・・・ない。血もついてないな。けど何だかいつもより髪がサラサラなような気もするが、まあそれはどうでもいいか。
それにしても、うーん、なぜか視界がいつもよりも開けている様な気がするな。普段なら何か重い物が頭の上に乗ってるような、倦怠感みたいな感覚があったんだが、今はそれがない。
あと、何だか体がむずむずする。何だろうか、思わず走り出したくなるような・・・。初めての感覚だ。やっぱりどこかおかしくなってるのかな?
「いやいや、そんなことよりもこの状況だ。俺、確かにトラックに轢(ひ)かれて死んだはずだよな。それに、ここどこだよ・・・」
茫然とするのもしょうがない。何せ死んだはずが、こうして見たこともない場所・・・木や草が生える草原にいたのだから。
えーと、瞬間移動か? でも、さっき死んだのは間違いないよな?
「死んでるなら・・・だったら転生ってやつか? まさかなあ・・・」
「いや、そうじゃよ」
「うわあっ!?」
俺が驚いて声のした方を向くと、一人の幼女が佇んでいた。ワンピースに麦わら帽子という何ともかわいらしい格好である。
目深にかぶった帽子のせいで表情は読めないが、垂れる髪の色は美しい銀髪だ。
「えっと、どちら様で?」
女性に対して免疫のない俺はオドオドとしながら声を掛ける。すると幼女はいかにも不機嫌といった様子で答えた。
「どちら様、はなかろう。先ほど会ったばかりではないか」
そう言って帽子を取る。美しいルビーのような瞳と、八重歯をのぞかせる形の良い唇がそこにあった。
そうだ、死に掛けていた時に妄想の中で出会った少女だ。だが、それが今、現実として目の前にいるのである。余りにも不思議だ。
・・・うん、確かに不思議なのだが、俺としてはそんな不思議さよりも、この少女があまりに美しいので、思わずボーっと見とれてしまうのであった。まったくもってダメ男である。
「なんじゃ、まだ思い出せぬのか? むっ、まさか転生の後遺症・・・」
「あ、ああ、違う違う。ちゃんと覚えてる」
正気を取り戻して慌てて首を振ると、彼女はホッとしたようだ。
「おお、よかったのじゃ。初めての仕事じゃったからな。ふむ、それにしては思い出すまでに少し時間がかかったようじゃが?」
「すまなかった。君があんまり綺麗だったものだから、つい・・・」
俺がそう言うと幼女は、「なっ!?」と驚いてから、「フンッ」と言ってそっぽを向いてしまう。
しまった! いきなり俺みたいな奴から、そんなこと言われたら気持ち悪いに決まってる!
俺は反省し慌てて弁解しようとするが、それよりも先に少女が口を開いた。
なぜか再び麦わら帽子を目深にかぶりなおし、表情を隠すようにしている。恐らく俺と目を合わせたくないというだろう。
「あー、こほん、むう。今のは不意打ちじゃった。いや、そんなことよりもじゃ! お主、名前は何という?」
その質問に俺は素直に法島高一郎(ほうしまこういちろう)と答える。
「そうか。では、これからはコーイチローと呼ぶこととしよう。わしの事はモルテと呼ぶが良いぞ?」
「モルテちゃん?」
「ばか! 神に対して“ちゃん”づけ、する奴があるか!」
かみ? カミ? 神!?
この子、自分のことを神様だって言ったのか!?
ありえないだろ。神様って言ったらもっと仰々しい感じじゃないのか? どう見ても10歳程度に見える・・・。
・・・いや、でも逆にありうるのか? この状況をイッパツで丸ごと説明するには一番分かりやすい理由だ。くそ、もう何が何だか分からん。状況に流されておこう!
「じゃあ、モルテ・・・様?」
「ばっ、なんじゃそれは・・・。このような世界にまでわしを連れ込んでおいて、やけによそよそしいではないか」
と、今度はいじけた様に言って来る。
難しいな、オイ!!
「じゃあ、モルテ・・・えーっと」
うーん、どう呼ぶべきかな。やっぱり、さん付け、あたりかな。他に適当なのもないし・・・。
俺は若干悩んでから、さん、を付けようと続きを言いかけるが、
「うん。そうじゃ。モルテ、と。ただそう呼んでくれ。他の者には許さぬがの。特別なのじゃぞ?」
そう言うと俺の隣に並び、制服の裾を掴んで来る。
「さあ、コーイチロー。いつまでもこんな場所にいても始まらん。さっさと移動しようではないか。話は歩きながらでもできようぞ」
「あ、ああ」
俺が言われるがまま歩き出すと、彼女は服の裾をつかんだままついて来る。
とはいえ、前世|(ということになるのだろう)では全く女性に縁のなかった俺である。
訳が分からない状況ながら、こうして自分の後を普通についてきてくれる少女がいるというのはかなり嬉しいものだ。
「裾をつかみ続けるのはしんどいの。おい、コーイチロー、手をつなげ」
・・・そして当然ながら手をつないだこともない。ダンスパーティーの時だって、女子にあからさまに拒否られてきた男だ。
モルテがそういって差し出して来た手を、俺はうやうやしく握る。
「何だかくすぐったいのお」
目深にかぶった帽子の奥で、赤い瞳が嬉しそうに細められた。
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