第85話 ジョニー達と魔境と
中に入った俺は、思わずその作りに気圧されてしまう。
俺の知っている様なダンジョンではなく、鍾乳洞の洞窟かのように薄暗く見通しが悪い内部。魔力は充満しているが、中に入っても異物を拒絶するかのように息苦しさを感じさせる。ダンジョンの中に存在する全てが侵入してきた外敵を排除しようという意図を感じさせる。
「……ここから先は、手探りだな」
「ええ、そうですわね。間違いなく一歩間違えるだけでも致命傷になるような事が起きるかも知れませんわ。だからこそ、慎重すぎるくらいで丁度良いと思いますわ」
ラトゥの言葉に気を引き締めながら、準備をする。
まずは持ってきていたランタンを付けて周囲を照らし、収納していた戦闘杖を用意して構える……こうして、自分のために作られた武器を持っていると勇気づけられるような気持ちになる。
そして、重要なのは今回のダンジョン探索で召喚するメンバーだ。いざというときに、やられてしばらく召喚出来なくなる様な事態も考えないといけない。
(……まず、呼ぶべきは……よし)
そして召喚。魔力が形を結んで現れる。
俺が選んだのは――
「わっ、最初からですか? なんだか久しぶりですね」
「ム、出番ダナ」
「――」
バンシー、グレムリン、シェイプシフターを呼び出す。
懐かしい最初のメンバー……まあ、既に完全に進化して別人になっているが。そこで、バンシーが気付いて声を上げる。
「あれ? ルイさんになってる?」
「――」
「ああ、シェイプシフターにはルイに変身して貰うように頼んだんだ」
バンシーの言葉に頷いてドヤ顔をしているルイ……ではなく、シェイプシフター。
ダンジョンを潜る上で、必要になり俺達に足りない物……それは斥候技術だ。ダンジョンの地形を把握して、そして先を進む計画を立てるという部分がどうしても欠落していた。
だが、シェイプシフターの能力によってコピーをすればその問題を解決できる。
「まあ、シェイプシフターの模倣能力は完全に模倣できるわけじゃないから、本物のルイの技術や能力よりも劣ってる状態だけどな。それでも全くないよりはマシだ」
「そうなんですか? 私やラトゥさんを模倣した時は完璧に成りきってたって聞きましたけど……」
「ちゃんと観察したモンスターや、俺と契約した相手ならほぼ再現出来るみたいだが……俺の魔力量以上には成りきれないし、意思を持つ生物だと本来よりも劣化するみたいだ。それに、ラトゥを模倣したときは本当に特殊な例だったからな」
本来はスライムという生物がベースなのもあるせいか、本来のシェイプシフターとはかなり違う生態となっているようだ。しかし、それはデメリットではない。
完全な模倣になる場合、思考やら弱点まで引き継ぐ。シェイプシフターは、シェイプシフターとしての意識を保った状態で成りきれるのだ。仲間として戦うなら本来の性能よりも劣化をしてでも、そのメリットの方がありがたい。
「それじゃあ、頼んだぞ」
「!」
……ちなみに、どうやら模倣をしても声は出せないらしい。
元々がスライムだった事もあり、発声などの生物らしい動作が苦手なようだ。とはいえ、軟体生物だったのに普通に模倣して戦闘などが出来るレベルで動けるだけでも十分ではある。
そして、先行して進んでいくシェイプシフター。声によるコミュニケーションは取れないがジェスチャーによって、罠や敵の存在を教えてくれる。
完全な斥候の仕事をして、徐々にダンジョンを進んでいく。その、安全かつ安定した道中に、バンシーが声をかける
「シェイプシフターって凄いんですね……! 本当にルイさんそのものみたいです! 今までなら、もっと危ない時とか迂闊に踏み込むような事が多かったのに!」
「全くだな。斥候役がいるってこんなに楽だとは思わなかった。とはいえ、再現率自体は多く見積もっても七割程度だけどな」
「……それ、十分凄くないですか?」
十分に凄い。七割の模倣というだけでも十分だというのに、別に模倣する行為に対する制限などはない……いや、俺の魔力という縛りはある。だが、その範疇で再現出来る物は知っていれば幾らでも再現出来るのだ。
自分よりも強い者になるという事は出来なくても、自分と同じ程度かそれ以下の実力にして自分の手札に出来る。シェイプシフターの存在で無限に可能性が広がる事を考えるとワクワクしてしまう。
「十分凄い……とはいえ、欠点もあるんだけどな」
「欠点ですか?」
「スライムの時と違って、シェイプシフターは脆いんだよ」
シェイプシフターという種族というよりも、スライムから進化した弊害なようだが……肉体を維持する能力が低いのだ。
壁役のヒルデを模倣したとしても、自身にダメージが及ぶと模倣は解けてしまう。そして、これが最大の問題なのだが……
「一定のダメージを受けると模倣が解除される。そして、解除されたシェイプシフターは消滅するんだよ」
「消滅? ……その、模倣が消えたらシェイプシフター本体になるんじゃなくてですか?」
「私も気になりますわ。シェイプシフターという存在は謎が多いですもの。情報を知っておけばいずれ出会ったときの対処にも役立ちますわ」
ラトゥも気になったのか話に混ざる。
あくまでも俺の考察であり、シェイプシフターを見て観察し意思疎通をした上で出した結論だと前提で話を続ける。
「シェイプシフターには、どうも本体がないらしい……普通にダンジョンに存在するシェイプシフターっていうのも、実体化するまでは存在していないらしい」
「……どういうことですの?」
「私もあんまり理屈で分からないんですけど……」
「俺もシェイプシフターに身振り手振りで聞いて判断してるから間違ってるかも知れないが……思考能力を持った魔力の塊らしいんだよ。核も、模倣するまで存在していない」
「えっ、それ、どうやって生きてるんですか?」
「発生して、自分の体を構築する魔力が霧散するまでに模倣できないと死ぬみたいだ。だから、シェイプシフターの出るダンジョンでは常に模倣できなかったシェイプシフターが死に続けているんだと思う。ただ、冒険者に倒されたわけじゃない自然消滅なら魔力が残るから、その場に新しいシェイプシフターが発生する。そして、その場に模倣先が通るとシェイプシフターが成りすます……らしいな」
その言葉にラトゥもバンシーも変な顔をする。
まあ、確かに妙な生態だ。
「……それ、生きてるって言えるんですか?」
「難しい話だな……まず、生きてるって何かって話になるだろ」
「難しい話は置いて……つまり、シェイプシフターは模倣するまで実質的には存在していないと同じ……というわけですのよね?」
「まあ、その認識であってる。だから、シェイプシフターが出るダンジョンなら魔力の濃い場所に注意すれば良い。もしも通る必要があるなら、模倣されても対処が出来るメンバーを先に突っ込ませるといい。模倣をする対象は一番最初に視認した相手になるからな」
実際、どこかのダンジョンで実物のシェイプシフターが居るなら出会ってみたい。
これは俺とシェイプシフターで想定した生態だ。そこまで大きく間違っていないだろうが、実際にはもっと不思議なメカニズムになっている可能性はある……と、シェイプシフターがじっとこっちを見ていた。
「ん? どうしたんだ?」
「シェイプシフターの生態を解説されて恥ずかしいんじゃないですか?」
「もしかしたら、怒っているのかも知れませんわ。勝手に弱点を教えないで欲しいと思っているのかも」
喋れず、意思疎通も独特なシェイプシフターに対して勝手な感想を言うバンシーとラトゥをスルーしながら、こちらを見ている意図を探る。
……なるほど。
「敵らしいが、どうにもシェイプシフターだと判断が出来ないみたいだ」
「えっ?」
「……分かりますの?」
「ああ。見てたらなんとなく分かるだろ? それよりも、警戒するぞ」
何故か首を捻る二人に、戦闘が近い事を伝える。
……さあ、このダンジョンで初めてのモンスターとの戦いであり……新しい俺達での戦いだ。
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