ジョニーは召喚術士になった ~ロマンゲーマーが異世界で楽しく成り上がるお話~
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冒険者立志編
第1話 ジョニーは冒険者になる
「それで、どうされます?」
「……」
昼下がり。仕事を貰った冒険者たちは出払っていて、仕事に
そんな冒険者ギルドの受付嬢から、かわいそうな人を見る目で見られていた。実際にかわいそうな人なのだが。
「前衛職としての適性はないですね。魔法を使うには……魔力量の問題で相当難しいですねー。補助職などでしたら向いているかと思いますよー?」
「事情があって、ソロ希望です」
「なら無理ですねー」
あっさりと笑顔で宣告される。その言葉に、思わず天井を仰いだ。
この世界は理不尽だ。記憶を
「……ええっと、没落ですか? 借金が数千万を超える?」
「ええ。借金の返済が不履行になったことで貴族としての地位は
ウキウキと糸目の
この世界で生きてきた十数年間。それを超えるような長い長い記憶。
それは、この世界で生きていた人間とは違う一人の男の記憶。まるでとても長い一冊の本の内容を脳に詰め込まれたような感覚に目眩がする。そして、今の俺に起きた事実を理解した。
これは、前世の記憶だ。俺は……この世界に転生してきた人間なのだ。
(いや、このタイミングで!?)
そこそこの貴族に生まれて、わりかし恵まれた人生を送ってきたとは思う。おそらく、そのせいで前世の記憶なんてものを思い出すほど追い込まれなかったのが原因かもしれないが……今なのか!?
学生時代、なんどもピンチはあったがそれは進級だとか、そういった方面ばかり。なんなら、記憶が
「――ということで、私のオススメとしてはこちらの研究施設への身売りですね! 貴族の血を引いている検体は市場に出ないので非常に高値で……」
「……あの、すいません」
「はい、なんでしょう?」
そこで
ああ、せめて学院に行く前……この家に居るときに記憶が戻っていればと考える。
今考えると、確かに両親だった奴らの金遣いが荒かった心当たりはある。しかし、世間を知らないガキだった自分にそんな判断が出来るわけがない……せめて、家を出て学院に通ったことで多少はこの世界の一般的な感覚を身につけられた事を喜ぶべきか。
「俺の両親はどこに?」
「生憎、気づいたら消えてましたよ。いやー、残念でしたね」
「……そうですか」
居なくなったという事実に対して、色々と複雑な気持ちになりながらも今までの家族として過ごしていた記憶が……うーん、思い返したが大して良い親でもなかったな。
一応、貴族でありそこそこの血筋を引いている親だったが散財家だった記憶と、乳母らしい人間に育てて貰った事を考えても家族というよりも同じ家に住む他人程度の感覚だ。もう仕方ない。元から親なんて居なかったと考えよう。とはいえ、残した負債をどうするかだが……。
「……借金の返済期限っていつですか?」
「おっと? 正気ですか? 膨大な金額になるんですが……返済出来るつもりですかね?」
面白そうに聞いてくる借金取りそんなつもりは全くない。しかし、このまま座して死を待つくらいならなんとか返済をするしかないだろう。逃げだそうにも、この状況で話をしている以上は逃げ出せるわけがない。
ならば、せめてもの抵抗だ。
「……冒険者になろうかと」
「ほう、冒険者ですか……それはまた、覚悟を決めましたねぇ」
面白そうな顔をする金貸し。そりゃそうだろう。
この世界で言う冒険者というのは、命をかけてモンスターのねぐらに潜り込む命知らずの職業だ。魔力と呼ばれるエネルギーによって進化した生物たちがはびこる
そんな
当たりが大きく、故に危険な場所だ。歴戦の勇者ですら、明日には物言わぬ姿になって帰ってくる事だって珍しくはない。だからこそ、返済の可能性はあるのだ。
「その目は信じられそうですね……とはいえ、担保がなければそれは認められませんね。死体は価値がありますが、生体に比べると価格も下がります」
「……そりゃそうですよね」
死ぬ事は前提であれば、そりゃ認める訳にはいかないだろう。
……うーわー、嫌な予感がする。金貸しの笑顔というのは、ここまで不安にさせるものなのか。
「しかし、貴方はとても運が良いですねぇ……妹様がいて」
「……えっ?」
えっ? 何それ? 妹?
「妹? 誰の?」
「いやいや、貴方の妹ですよ」
「えっ?」
「えっ?」
金貸しと顔を見合わせる……そして、詳しい話を聞いてから俺は思わず頭を抱えた。
「……知らなかった」
「いやー、まさか知らないとは思いませんでしたよ。あっはっは」
笑い事じゃないよ。
どうやら、学院に通っている中で俺の妹が生まれていたらしい。しかし、実家に帰ることがなく連絡も無かった俺にそれは伝わってなかった。
最悪なことに、どうやらその妹も置いて消えてしまったようだ。つまり、その妹が頼る事が出来るのは俺だけということ。
(責任が重すぎる……)
どの程度、幼いのかは分からないが……少なくとも、誰かの庇護がなければ生きていけないのは間違いないだろう。
……それを考えれば、俺がなんとかするしかない。
「しかし、幸運でしたねぇ。女の子ですから、担保には十分ですよ。なんなら、貴方よりも高額になるでしょうし!」
「……あー。万が一ですが、俺が逃げたり死んだら――」
「はい。妹君を借金の返済に宛てましょう。いやー、良かったですねぇ。チャンスが生まれましたよ。こちらとしても、まだ幼い子供を親族の同意なしに売るのは良心が咎めてしまいますからね」
どの口が言ってんだよ。しかし、借金取りの余裕に関しては納得がいった。借金取りからすれば、俺が逃げ出したとしてもその際には初めて存在を知った妹を売れば全て解決というわけだ。
……だが、それでもチャンスは生まれたのだ。まだ顔すら見てない妹と一蓮托生なのは申し訳ないが。
「それで、返済の期限は……」
「そうですね……まず一ヶ月以内に10万ゴルドを返済していただければ認めましょう。冒険者として、この金額が用意できないなら投資する価値はなし……というわけですね」
ここまで甘い言い方は、恐らくだが……どう転んでも損をしないからだ。俺が逃げれば妹を売ってから探し出して俺も売る事になるのだろう。
タイミングは最悪だったが、前世の記憶のおかげで冷静になる事が出来た。この世界でない知識と経験は、異常事態に対して落ち着きをくれる。
「……問題ありません。よろしくお願いします」
「はい。それでは、返済をお待ちしておりますよ」
ニコニコと胡散臭い金貸しから差し出された手を握って握手をする。
俺は望んでいない悪魔との契約を完了したのだろう。思うことはただ一つ。
(……もし両親を見つけたら、叩き売ってやる)
この苦労に熨斗(のし)を付けて返してやろうと思うのだった。
……さて、こんな経緯から俺は冒険者となるべく、冒険者の集まるギルドに登録を済ませにやってきた。
さて、前世の知識なのだが……うろ覚えだが、相当なゲーマーでありこういう異世界転生の知識もあると記憶は語っている。上手くいけば、それを活用することで異世界で成り上がれるんじゃないかと思っていたが……
(現実は甘くない……というか、もっと世界が俺に甘くて良くないか?)
前世の知識は今のところ、大して役に立ってはくれていない。
技術革新? 覚えている知識は全て実現されている。と言うか借金地獄の現状で形になるようなものはない。
前世の知識を活かして鍛えるにはもう遅い。そろそろ成人する年だ。というわけで、前世のアドバンテージなど無いに等しい。
最後に期待するべくは冒険者としての実力だが……最初の評価が全てだった。悲しいほどに適性がない。
(学院でもっとちゃんと体術とか学んでおけば良かったのか……? いや、無理だなぁ……)
貴族である以上、学院で教わる事は主に領地経営や経済関連の勉強だ。武器の扱いやら体術などの勉強は学んではいた。
とはいえ、適性を聞いてこの結果である。現実は甘くない。
「噂に聞いたんですが、ダンジョンに潜って居る内に魔力を吸収して、肉体が強くなればチャンスがあったり……」
「しないですねー。チャンスなしです」
「ないですか……」
――ここで、問題があった。それは、俺が冒険者として単独で潜らなければならないと言うことだ。
仲間を探して、協力し合いお宝を見つける。それは確かに素晴らしいだろう。なんなら、俺だってそうやりたい。
しかし、駆け出し冒険者を見つけたとしよう。その仲間になって、一ヶ月以内に危険なダンジョンへ潜って、借金返済に充てられる価値のあるお宝を見つけて取り分を多めに貰う。
(うーん、無理!)
冒険者の目的は様々だが……基本的には生きるためであり金のためだ。
特殊な例では貴重な素材を求めて、自分の力の上達を求めてみたいなのもある。だが、そんな特例はどうでも良い。
金の問題とか、仲良くてもトラブルが起きるんだぞ。無理だろ。今の俺の存在そのものが金のトラブルそのものなのだ。
(どうするかなぁ……)
魔法職一人旅とか、才能のある奴がやることだ。まず、最初に無理だって言われた。
補助職? そんなもんは他のメンバーありきだ。
(内臓を半分売り払われるくらいなら……いやいやいや)
変な妥協をしそうになる気持ちを奮い立たせながら、何かヒントがないかと周囲を見渡す。ふと視線の先に目に入ったのは冒険者グループの一つだった。
珍しいスタイルの冒険者たちだ。だから目について……そこで、俺の脳裏に電流が走る。
これだ。これしかない。完璧だ。
「受付嬢さん」
「はい、諦めがつきましたか?」
「俺、召喚術士になります!」
そう、人間の仲間を作るのが難しいのならば……モンスターを仲間にすれば良いのだ! この世界に、召喚術というものは存在する。だから、不可能ではない!
俺の発言に受付嬢さんは笑顔で答える――
「……難しいと思いますよ」
「そんなぁ!?」
もっとスムーズに行かせてくれよ!
内心で、そんな風に俺は叫ぶのだった。
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