4-2
それからふたりは熱く議論を交わし――騒ぐニコライに対してエミルが流すだけだが――、エメはついていけなくなってユリアーネと遊び始めていた。
場の収拾がつかなくなってきた頃、ラースが部屋に入って来た。その表情には呆れが湛えられている。
「なに騒いでるんだ。廊下まで声が聞こえてるぞ」
「先輩! いいところに! エメ坊ちゃんは体力も鍛えたほうがいいっスよね⁉ いくら魔法使いと言っても――」
「うるさい」
「誰も俺の話を聞いてくれない!」
ニコライが床に手をついて項垂れるのを眺めて目を細めていたエミルが、不意にラースの背中を押した。
「とにかく、教育方針は僕とラースさんで立てます」
「俺の意見は⁉」
「体力馬鹿に用はありません」
ニコライの恨み言を背中に受けつつ、廊下に出たエミルはラースにステータスボードを差し出した。
「エメのステータスを鑑定したものです」
ラースが上から下まで目を通したあと、ここを見てください、とエミルはボードの一角を指差した。
「
「捕縛解放?」
「魔道具による束縛を解くスキルです。エメはその気になれば、あの腕輪を破壊できますよ」
「……!」
エメが身に着けている
「おそらく、盗賊団に捕らわれていたという経験値によって得たスキルではないかと」
「…………」
「幸い、エメはこのスキルに気付いていないようです。まあ……おそらくですが、気付いていたとしても使わないのではないかと思いますが」
「……そうだな」
「あと、もうひとつ。
「これは【癒し手】に付随したものだな」
「間違いないかと」
「あとは……
「どちらも汎用性は高くないですね。魔力値が高ければ自然と身に付くスキルですが、使いどころはほぼありません」
ふむ、とひとつ呟く。一通り目を通し終わったステータスボードを差し出しながら、ラースは言った。
「教育方針はお前に任せる」
エミルはきょとんとしたあと、怪訝に顔をしかめる。
「僕ひとりで決めていいんですか?」
「お前に任せておけば間違いないだろう」
そう言って、ラースは部屋に戻って行った。
投げ出したり押し付けられたりしているわかではないことは、エミルにもわかっている。ラースはエミルの実力を信じ任せたのだ。ラースと仕事をともにしたことは数えるほどしかない。その上、エミルは若い。それだけでエミルのことを認めない者は多い。だと言うのに……。
「……知りませんからね」
そう呟いたのは、無性に悔しくなったからだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます