第77話 次は誰?
俺と南雲さんがリビングに戻ると、愛花さんが気づいて労いの言葉をくれた。
「あ、お二人とも、お疲れ様でした。お手伝い出来ずにすみません。」
「うちのシンク、そんなに大きい訳じゃないから三人はね。お気持ちだけいただいておくよ。」
愛花さんは俺の返事を聞いてニコリと微笑むと、南雲さんと鷹宮さんに次の一言を向ける。
「南雲さん、鷹宮さん、私、これからプレゼントを渡そうと思うんですけど、お二人はどうします?」
「あ、わたしとまりちゃんも渡したいから、一緒に良い?」
「え、皆さんからも、もらえるんですか? わー、嬉しいです。」
お祝いに来てくれた三人は涼菜への贈り物を用意してくれていた。
涼菜は2つの包みを受け取って、とても嬉しそうにしている。
「これ、今、開けて良いですか?」
「はい、南雲さんも鷹宮さんも、良いですよね?」
「うん、もちろん。」
「早く開けてみてよ。」
涼菜が一つ目の包みを開けると、小さな木箱が出てきた。
「それ、私が選んだものですね、箱を開けてみてください。」
「わ、銀色の可愛いにゃんこ!」
「それ、ブックマークなんです。トップが猫ちゃんなので涼菜さんに合うかなと思って。」
「嬉しいです。大切にしますね♪」
涼菜はブックマークを一眼で気に入ったようで、目を輝かせて手元を見つめている。
「うう、そんなセンス良いの見ちゃうと、わたしたちのはちょっと…」
「やっぱ、返してもらおうかなー」
「えー、ダメですよー、直ぐに開けちゃいますね。」
はたして、包の中に入っていたのは、ネイルコートとクリアリップだった。
「わたしたち二人で選んだんだけど、趣味とか分からなかったから、でもなんかおしゃれが出来たらなって。」
「中学校でも使えたらと思って透明なのにしてみたんよ。どお?」
南雲さんと鷹宮さんが不安げに問いかけた時には、涼菜は既に満面の笑みを浮かべていた。
「すっごく嬉しい! これ、使ってみたかったんです! ありがとうございます♪」
涼菜の表情を見てお愛想ではないことが分かったのだろう、二人は胸を撫で下ろしている。
「喜んでもらえて良かった。」
「うん、ほっとしたよ。」
「愛花さん、南雲さん、鷹宮さん、ありがとうございます! 大切に使いますね♪」
涼菜の言葉にその場にいた全員の顔が綻ぶ。
皆に感謝を伝えた本人の笑顔が最も輝いていたのは言うまでもない。
「良かったな、すず。今までで一番良い誕生日なんじゃないか?」
「うん、ホントにそう思う、あたしって幸せ者だね♪」
去年までの誕生日も毎回とても嬉しそうにしていたのを覚えている。
ただ、今年は俺たちにとって転機となる出来事があり、少なからずそれに関わりのある人が祝福してくれているのだから、喜びも一入といったところだろう。
「次のお誕生日って誰なんだろう、愛花ちゃんは12月だけど、二人は?」
「わたしは1月で、まりちゃんは2月です。わたしたち早生まれなんですよ。」
彩菜が尋ねると、南雲さんが二人の生まれ月を教えてくれた。
次に誕生日が回ってくるのは愛花さんのようだ。
「そっか、じゃあ、次は愛花ちゃんのお誕生会だね。」
「わー、12月から2月まで、3か月続けてお誕生会ができますね♪」
「あの、わたしたちも良いんですか?」
「もちろんだよ、これからこのメンバーでお祝いし合うってどお?」
「アタシは賛成、なんか、楽しそうだよねー」
「そうすると、彩菜さんと悠樹くんでひと回りってことですね。」
「そうだね、俺たちは1日違いだから1回で済ませられるよ。」
「うん、いつもそうだし、それが良いよね。」
俺と彩菜はお宮参りやお食い初めに始まり、人生の節目となる行事を常に一緒に祝われてきた。
誕生祝いも例外ではなく、幼い頃は両家がどちらかの家に集まってパーティーを開いてくれた。
あの懐かしい日々はもう戻ってこないけれど、これから気の置けない友人たちと祝い合うことができるのであれば、新たな楽しみの数が過去を上回るのに然程年数は要らないだろう。
「でもさー、今はこのメンバーだけど、まだ増えるかも知れないよねー。」
「え、まりちゃん、どうして…って、ああ、その可能性は十分考えられるよねぇ。」
「なるほど、確かにそうですね、うっかりしてました。」
クラスメイト三人がこの状況が変わる可能性を考えているようだが、はたして何があると言うのだろうか。
彼女たちの言っていることを俺が疑問に感じていると、彩菜が問うて…、いや、詰問してきた。
「ゆう、最近、別の女の子と知り合いになったりしてない?」
「え? いや、そういった覚えはないけど…」
俺が首を傾げていると、涼菜がぽつりと呟いた。
「先週、詩乃たちが、ゆうくんのことカッコ良いって言ってた…」
「すず、詩乃たちって?」
「ほら、夏祭りで会った、あたしの友達三人。先週、うちにお祝いに来てくれた時に言ってたの。三人ともゆうくんとばかり話してたし。」
先週、あの子たちは俺の作った食事を美味しいと言ってくれていたし、懐かれていたように思える。
けれど、だからと言って…
「俺があの子たちにカッコ良いとか言われる訳はないと思うけどなぁ。」
俺がそう言うと、皆、目を丸くしたり、ため息をついたりしている。
一体なんだと言うのだろう。
「ゆうだよねー」「ゆうくんだよねー」
「ねえ、神崎さん、この人、本気で言ってるの?」
「ええ、多分…」
「こりゃー、姫君も
「鷹宮さん、私、これからは『側室1号』でお願いします。」
「そーなん? だってさ、『側室2号』」
「やっぱり、わたしも、それなんだ…」
「あの、皆さん、どうされました?」
皆の様子から俺が何かやってしまったのは間違いないようなのだが、それが何なのかさっぱりわからない。
この後、女性陣は額を寄せ合って、季節は秋になろうとしているにも関わらず、なぜか虫除けの相談をしているようだった。
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