第3話
聖域に逃げ込んで数か月後。ルネは今日も神水晶の実を齧り、手についてしまった果汁を勿体なさそうに舐めとっていた。こればかりは汚いと思っていても無意識にやってしまう。それぐらい本当に美味しいのだ。俺は悪くない。
「さて、設定ではルネの誕生日は下弦の三月の二十三日だったはずだ」
それは今日。
この世界は一年を三百六十五日とし、そこから上弦と下弦、そして神月に分かれる。上弦と下弦は一月から六月まであり、一か月三十日。神月は残りの五日と考えてよい。大体神月は日本で言う正月みたいなものだ。丁度五日あるし、その日は神に感謝して仕事もせずに家に籠る日なんだと。まあ商売人とか仕事を外せない人、そして家を持ってなかったりするやつは違ったりするけど。
発現するのは五歳の誕生日……この世界ではもう一度生まれ変わるとされて第二の日と言われているがそれの正午だ。
「あー緊張してきた……」
太陽は真上に来る。それはもうすぐ発現するということ。例え小説でわかっているとしても落ち着かないものは落ち着かない。
「来たっ!」
服の下から光が漏れる。ルネはいそいそと胸の前を
左胸に光が浮かび紋章が線を引く。
中心に下に剣先を向けた黒い剣が浮かび、その左右を一対の黒い翼が包み込む。細やかなところまで装飾がされた美しい紋章だった。
「……紋章が、違う?」
あんれぇ?と首を傾げる。たしか、設定ではルネの紋章は上を向いた剣とそれに巻き付く
ピコン
「ん?」
突如目の前に現れた
「ん?画面ッ!?」
思わず二度見する。この世界でそんなものは無かったからだ。
じっとそれを見ているとチカチカと点滅する。早く読めと、仕方がないので恐る恐る画面に触れてみた。
『メッセージ:条件を達成いたしました』
『メッセージ:条件1・転生
条件2・レベル1』
『メッセージ:それにより、転生者特典をお付けいたします』
『メッセージ:それでは、良い異世界ライフを』
「…………は?」
一度湖の水を掬って顔に浴びせる。腕でそれを拭ってもう一度見てみる。
「は?……はぁぁぁあああああっ!?」
ルネの叫びに驚いた小鳥たちが空へ飛び立った。
・・・
「う~ん、転生、転生ねぇ」
何故か疲れてしまったルネは一度
「どう思うよ」
座り込んだ隣にある発光する小花に話しかける。勿論返事は帰ってこないのだがここ数ヶ月独りでいるからか独り言が多くなった。
目の前のチカチカと光る画面を睨みつけて、結局は進めてみないとわからないかと考え触れてみる。
『ステータス』
『インベントリ』
『ログ』
『掲示板』
「掲示板っ!?」
本日二度目の驚きである。掲示板とは何なのか、そう思いつつも先ずはステータスからと考えその文字をタップしてみる。
『ステータス』
ルネ=アンブロワーズ
五歳 男性
種族:
状態:超優良
魂の階位:3
適性
闇 風 水 (光 土 火 +α)
加護
ラナエルの寵愛+ フェアリエルの寵愛 アジェットの慈愛
特殊能力
称号
神々の御子 世界の愛子 悪魔の子
「…………」
もはや言葉も出ない。
とりあえず状態のことだが、超優良というのは間違いないと思う。湖の水で体の怪我や(設定上では)どんな病も癒やすという万能薬。そして神水晶の果実は美味な上に栄養満点だ。それによりここに移住当時、重度の栄養失調を持っていたというのにそれも無くなり、体には肉が付き、身長もすくすくと伸びている。
魂の階位は小説にも出てきたな。要するにレベルと考えてもいい。経験値が入れば上がる、そういうもので、生まれた時は皆魂の階位は1だが、生きていくだけでも少しずつ上がっていくのだ。だから5歳になった今、魔物も倒したことのないルネも3という数字になっていたりする。しかし、より濃い経験をしたほうが上がりやすい。
そしてやはり、レベル的な要素を入れたかったのか相手を殺したりするとその経験値の一部が流れてくるのだ。
で、適性なのだがこの世界では紋章の色が自分に
赤は火、青は水、茶は土、緑は風、白は光、黒は闇といった風に。
前の四つがほとんどで白と黒は滅多に現れない希少な属性だ。
だけど紋章の色は自分に一番に適した魔法属性と言うだけあって他にも適性は存在したりする。百人に一人ぐらいの確率で。それも二つの時点でだ。
「三つ?……このカッコのはなんだ?」
三つの場合確率は突然馬鹿みたいに低くなる。0.00000001だったはず……というかよくここまで設定したな作者と思う。それでカッコはわからない。+αってもしかしてあれか?……いや、今はそこを考えてもどうしようもない。
しかし、何個も適性があったとしてもそれは紋章の属性には敵うことはない。しかも、持っていたとしてもギリギリ初級の魔法が使えるかどうかという人がほとんどだ。
さて、問題は加護だ。
ラナエルの寵愛+ フェアリエルの寵愛 アジェットの慈愛
これは強大な力を持つ存在が与えるものという認識だ。一番有名なのが神、その次に始祖竜、神獣……といった存在だな。この画面では普通に三つも書かれているが、画面を持っていない世界の者達は加護なんてわからない。唯一わかるのは教会で大司祭以上の者に祈祷をしてもらい、確認してもらうだけ。それも莫大な金を払わなければならないので庶民は一生わからないものである。
「ラナエル、フェアリエル、アジェット……どれも知ってる名前だ。まじかぁ……」
その名前はこの世界の住人なら誰でも知っているものだ。幼い時によく親から言い伝えで言われていたりする。
ラナエルは闇の女神、フェアリエルは風の女神、アジェットは水の男神だ。
見事に適性と被っている。加護って適性に影響出たりしたっけと思いつつ目を背けていた
「寵愛+寵愛慈愛……なんかすごいことになってる……」
どれだけ愛されてるんだこの体の持ち主は……って、『俺』に
それぞれの加護をタップして見てみる。
『ラナエルの寵愛+』
闇系統の能力の300%up、夜目が利くようになる、運が上がる、精神の強度が上がる、第六感が鋭くなる。
『フェアリエルの寵愛』
風系統の能力の300%up、風が味方をする、速さが上がる、魂の階位が上がりやすくなる。
『アジェットの慈愛』
水系統の能力が200%up、魔力の再生速度が上がる、技能の習得が早くなる。
チートだな。これはチートと言うしかない。
とりあえず夜目と魔力の再生速度は分かる。だが風が味方をするってなんだ、文からして意味がわからない。
で、上二つの最後のやつはゲートとかで言う
しかし、ゲームのようにステータスの画面に
そして、特殊能力とか書いてあるがこれはもうお手上げである。■で塗りつぶされているため何があるのか分からない。
最後に称号。これも加護と同じようなにおいがプンプンする。
『神々の御子』
神々の御子。世界に授けられた。全魔法の適性。魂の階位が上がりやすい。
『世界の愛子』
世界に愛された者。貴方の願うままに。運が大幅up。
『悪魔の子』
貴方はそう呼ばれてきた。悪魔族との親和性up。
…………もう何も言うまい。チートだった、以上。
「ステータスはもういいとして……次はインベントリか」
『インベントリ』
・転生者特典
「特典か……見てみるか」
転生者特典
・鉄の剣
・闇の魔導書(導入)
・マジックバック小
・パン[10枚]
・水[5L]
概要:転生先の世界に必要な物をプレゼント!
※魔導書は貴方の一番の適性魔法のものを入れております。
※貴方の転生した世界ではインベントリ等の魔法はない為、付属しているマジックバックで対応してください。
「めっちゃ気を使われてんじゃん……」
ありがたやと誰とも知らない者に手を合わせつつ、インベントリの画面を閉じる。
「それでログだ」
*明宮 浩司の魂が対象:ルネ=アンブロワーズに憑依しました。
*新たな肉体に受肉。それにより転生と
*ラナエルの寵愛、フェアリエルの寵愛、アジェットの慈愛を受け取りました。
*ラナエルの寵愛が重複、ラナエルの寵愛+に変化します。
*ラナエルの加護の効果の複合も開始します。
*変化完了しました。
*複合完了しました。
*第二の日により、レベルの発現を確認。
*ルネ=アンブロワーズがレベル1になりました。
*転生神からのメッセージを受け取りました。
*転生神からのメッセージを表示します。
『メッセージ:条件を達成いたしました』
『メッセージ:条件1・転生
条件2・レベル1』
『メッセージ:それにより、転生者特典をお付けいたします』
*転生者特典を付与されました。
『メッセージ:それでは、良い異世界ライフを』
「…………」
憑依していた事実が発覚した。そしてそれによって転生とされたのも。
あと、加護がほぼ『俺』に宛てられたのも。
ルネはそっとログを閉じ、掲示板の文字をタップする。
掲示板
*これは転生者・転移者専用の掲示板です。
・統合版
*数多くの世界の掲示板です。
・世界版
*貴方の居る世界の掲示板です。
「…………What???」
ルネは目を見開いて動きを止めた。
――――――――――
五月二十七日追記:ステータスに種族の欄を追加しました。
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