第372話
ズサァァァーー!!
「うぉっ!?」
シーカリオンへ入国待ちの列に並んでいた人々の近くに、上空から少年が降ってきた。
その少年は、そのままの勢いのまま地面を滑るように着地し、ズサァァァーー!! と土埃を上げながら止まる。
突然の出来事に周囲は驚き静まり返る。
そんな静寂の中、一人の商人が口を開く。
「だ、大丈夫か、少年!?」
空から降ってくるなんて普通なら有り得ない上に、かなりの大怪我を負っていてもおかしくない。
一拍を置いて周囲の人々もその事実に気がつき、少年のもとへと駆け寄ろうとした所で
「お騒がせしましたーー!!」
と言いながら物凄い速度で走り去って行った。
一瞬の出来事にこちらに向かって駆け付けていた兵士達はおろか周囲の人々も事態が飲み込めず、走り去る少年を止める事が出来なかった。
一方ラグナは何とか外に出れた事に安堵していた。
そして、そのままの勢いで街道を走り出すのだった。
街道を走り出したのはいいものの、シーカリオンへと入国待ちの列がずっと続いている。
ラグナが身体強化を発動したままこの先も突っ走った場合、衝突事故が起きてしまうんじゃないかというほど列が広がっている。
仕方なくジョギング程度の速度で走り続けていたが……
「完全な平地って訳じゃないのか」
しばらく走っていると、緩やかな上り坂が続いていた。
坂を登り切ると今度は下り坂。
ちょっとした丘のような地形のせいでヒノハバラ方面の街道がどうなっているのか見えなくなっていたが、ようやく最後尾の列が見えた。
「おーい、そこの兄ちゃん!」
そのまま素通りしようとしたラグナだったが、最後尾に並んでいたおじさんに呼び止められた。
「兄ちゃん、シーカリオンから来たんか?」
「そうですけど……」
「これからヒノハバラへ行くつもりか?」
「一応その予定ですけど……」
「あちゃー。残念だな。知らんかもしれないけど、ヒノハバラの国境門が閉められちまったんだよ。俺はギリギリ出れたんだけどもなぁ。俺の後ろに並んでいた奴は兵士に止められて、足止めを食らってるよ」
「えっ!?」
ラグナは知らないフリをして話を続ける。
「やっぱり知らなかったかぁ。ここだけの話だけどよ……ヨハム公爵領で争いごとがあったみたいなんだ。詳しくはわかんねぇけど、それで慌てて国境門を封鎖したみたいだぞ。俺はその噂を耳にしてすぐに国境門に向かったからギリギリ脱出出来たんだろうな。あと少し判断が遅れていたら、今頃途方に暮れていただろうよ」
「そうだったんですか……」
「それよりもシーカリオンから来たって事は、この列が全然進まない理由を知っているか?前を見ても先がどうなっているのか見えなくてなぁ……」
ラグナが後ろを振り向くと、ちょうど先ほど下ってきた丘が見える。
「物凄い言いにくい事なんですけど……シーカリオン側の国境門も閉じられてしまいました」
「……まじで?」
「残念ながら……」
「おいおいおい!そりゃ無いぜ!何でシーカリオンまで国境門を閉じるんだよ!」
あまりにも大声でおじさんが叫んだので、前に並んでいた商人達は詳しく話を聞かせてくれと集まってきてしまった。
「何でシーカリオンまで国境門を閉じたんだ?」
「そりゃお前、ヒノハバラが閉じたんだから警戒するだろう。」
「そもそも何でヒノハバラの国境門が閉じる事になったんだ?」
「……さぁ?」
「俺もわからん……」
「俺は誰かが国境門近くの街で揉めてるって話を聞いたが……」
「揉めるって……たかが揉めたくらいで国境門を閉めるか?」
「「確かに」」
商人達は自分達が持つ情報を出し合い、これからどう動くべきか必死に考える。
そんな中、一人の商人がポツリと爆弾をぶち込んできた。
「お、俺……その揉めてる現場を見たんだ……」
全員の視線がその商人へ。
その商人は、背嚢片手にちまちまと小金を稼いでいる駆け出しの商人だった。
「信じなくてもいい。俺だって信じられなかったんだ……ヨハム公爵の領軍と争っていたのは……エチゴヤだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます