第356話
「ここは……」
いつの間にか寝てしまっていたらしい。
「まるで子供じゃないか……」
泣き疲れてそのまま寝てしまうなんて。
思い出しただけでも恥ずかしくなってくる。
ゆっくりと身体を起こそうと手をつくと、
ふにっ
「ん……?」
なんか柔らかい感触が……
恐る恐るシーツをめくると、
「ど、どこ触ってるのさ」
と顔を真っ赤にした……
「リオさん!!なんで一緒に寝てるの!?」
慌てて手をどけて、ベッドから離れる。
「いや、だって……私のベッドだし?」
「あっ、ごめんなさい……」
ラグナは反省しながらも、
『なんか俺、このパターン多くないか!?』
と頭を抱えてしまうのだった。
「まぁ冗談はこれくらいにしてっと」
リオはベッドからいそいそと出ると執務室の椅子に座る。
「まぁ話したい事はいろいろあるんだけどね~。とりあえずラグナ君が知りたいであろう情報を一つ。あの家に住んでいた彼ね。行方不明なんだ」
「えっ!?本当に……?」
「うん。っていうのもさ。彼の家からいきなり魔物が出てきたんだ。正直な所本当にどうなっているのか何もわからないんだよ。だから彼が無事なのかどうかもね」
「そうですか……わかりました……」
家の中があんな事になっているので、何となくそんな気はしていたが……
改めて言葉として言われるとつらい物がある。
「彼のことは時間がある時に調べてみるよ。それよりも……ガッデスとアルテリオンは無事かい?」
ラグナはガッデスの様子を思い出すと苦笑いしながらリオに説明する。
「ドワーフの皆さんは……本当に逞しく生き生きとしていました」
「どういうこと?」
ラグナのその答えには、さすがのリオもハテナが浮かんでいた。
「ガッデスの周辺にはその……ゴーレムの魔物が現れてですね……」
「にゃはははは!本当に変わらないね!」
ラグナがそう言うとリオはお腹を押さえて笑う動作をしていた。
「本当に変わらないよ、ドワーフって種族はさ!いくら世代が変化しようとも、根っこは本当に変わらない!」
本当に心から嬉しそうに笑っていた。
「それじゃあアルテリオンはどうなの~?」
「それは……」
ラグナの表情が急変する。
「……何があったの?」
ラグナはアルテリオンに起きた悲劇をわかっている範囲で説明する。
「マジかぁ……ルテリオが表立って動くのも仕方ないか……ん~、厳しいなぁ」
リオは頭を抱えて呻く。
「まさか冗談で言っていた約束が本当に必要な日が来るなんてね……」
「ルテリオ様も同じ様な事を言ってたんですけど……」
「そっかぁ~……うーんと、ラグナ君や。遥か昔のことだけどさ。ドワーフとエルフは仲が悪かったって知ってる?」
「一応、話には聞いたことがありますけど……」
「それじゃあ、何回か武力衝突が起きていた事は?」
「えっ!?武力衝突……!?ドワーフとエルフが!?」
「やっぱ知らないか~。そうだよ~。まだ魔王が猛威を振るう前だけどねぇ。お互いにバチバチだったんだよ~」
「なんでそんな事になっていたんですか?」
ドワーフとエルフが武力衝突をするほど仲が悪いとは思わなかった。
「エルフはねぇ……まず見た目でドワーフを下に見ていたし、採掘や鍛冶やお酒が好きなドワーフは野蛮な存在だって貶していたんだ。対するドワーフも、対した力も持たないナヨナヨした奴らだ!何を気取ってやがるって言っていたんだ」
「まるで子供の喧嘩じゃ……」
「きっかけはそんなもんらしいよ。そこからお互いにアイツらは気に入らない存在だ!って幼い頃からそう言われて来たから成長するにつれて気に入らないって感情だけが刷り込まれていったんじゃないかな。本当に今思えば子供だよね~」
些細な切っ掛けでも種族間では大事になるのか……
「まぁ、魔王や魔族が猛威を振るう頃にはそんな事も言ってられなくなってね。それでお互いに思うところはあっても一旦それは飲み込んで協力していったんだ。じゃないと生き残れなかったからね。そして終戦後、盛大に祭りが行われたんだ。その際にガッデスが珍しく酒に酔った勢いで、『ドワーフとエルフはお互いに種族間での危機を迎えた時は助け合おうじゃないか』ってルテリオに提案していてさ。ルテリオも酔っていたからか『仕方ないですねぇ。せっかく打ち解けたのも何かの縁ですから』って承諾していたんだ。」
それが今回の助けになるとは、当時は思ってもいなかったのだろうな。
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