第348話

鍛冶神様から送られた神器であるバトニングナイフの使い心地を試してみたい気持ちを何とか我慢して、アルテリオンへと向かう。


「グァパァァァァァァァ!」


「イヤァァァァァァァ!」


ホバーシューズとダッシュメイルによる高速移動により、数多の魔物を振り切ってきたラグナだったが……


今現在ピンチを迎えていた。


それはアルテリオンへと向かうために草原を突っ切っている最中の事だった。


最初は遠くで何かが走っているなぁとしか思っていなく、距離も離れているしそこまで警戒していなかった。


「……ん?」


気のせいだろうか。


徐々にその何かが近寄ってきている気がする。


ラグナは一旦停止して先に行かせようと考えたのだが……


「……まじかよ」


徐々に近寄ってきていた何かはラグナが停止すると、同じ様にピタリと動きを止めた。


微速前進をする。


遠くにいた何かも微速前進しながらも徐々に近寄ってきている……


後ろに下がってみる。


……


同様にバックしているみたいだ。



しかも動けば動くほどこちらへと確実に近寄ってきている。


「それなら……」


ラグナは魔力を溜めて魔道具が壊れないギリギリの量を一気に解放する。


まるでミサイルの如く一気に打ち出されるラグナ。


「この速度なら!!」


そう思いながらも、横目でチラッと見ると……


「気持ちわるっ!?」


徐々に近寄ってきていたそれの正体がくっきりと見えてきた。


迫り来る正体はダチョウに似ている。


地上を走る鳥型の生き物。


見た感じ違うのはそれだけなのだが……


サイズが……


サイズが完全にバグっている。


前世の動物園で見たダチョウよりも遥かにデカい。


2~3倍はあるんじゃないだろうか?


そんなバケモノサイズのダチョウが全速力でこちらへと接近している。


しかも風圧によって頭がブルブルと激しく左右に振られ、更に口をパカァっと開け涎を撒き散らしながら爆走している。


「まじで、こっちにくんなよ!」


ダチョウから離れようと必死に逃げるラグナ。


あまりにも必死に追い掛けてくる感じが気持ち悪くて討伐する気にもならなかった。


「グァァァァパァァァァァァァ!」


とうとうラグナはダチョウのバケモノに並ばれてしまう。


横目でチラッと見ると目が合う。


「グァパァ♪」


涎を撒き散らしながらまるで追い付いたよとでも言っているような声をあげて、ニヤッと笑いかけてきた。


「グァァパァァッ♪」


更に近寄ってこようとするダチョウのバケモノ。


ラグナは身体強化魔法を発動し、ダッシュメイルの前側へと魔力を流すと一気に風が吹き出しエアーブレーキとなり一気に速度が落ちていく。


「ぐっ!!」


いきなりの急減速に身体へと激しい負荷が掛かるが、身体強化魔法のおかげで何とか嘔吐せずに済んだ。


「グァグァ!?」


ダチョウのバケモノは急に減速したラグナを追い掛ける為に、まるでバイクがコーナーを攻めるが如く身体を横へと反らせながらこちらへとカーブしてくる。


「グァァァァグァグァァァァ!!」


ダチョウのバケモノは体勢を戻すとラグナへと向かって全速力で走り出す。


そんなバケモノに対してラグナは……


「……今だ!!」


こちらへと向かってくるダチョウをギリギリで避けたラグナはダチョウのバケモノとすれ違うように一気に加速。


そのままラグナは後ろを振り向くことなく必死に逃げる。


「グァァァァ!!パパパァァァァ!!」


という悲しそうな雄叫びが聞こえた気がしたが……


ラグナは決して後ろは振り返らなかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る