第311話

「ひぃっ!?」


ドーン


……


頬をピンクに染め、笑顔で超高速接近するオネエサマの迫力にビビってしまい……


手を広げて迫り来るオネエサマを受け止める直前で避けてしまった……


その結果、オネエサマは俺が地上に出る為に移動してきていた精霊樹の根に激しく衝突したのだった。


「だ、大丈夫……ですか?」


受け止めなかった事に少し罪悪感が……


アリッサム王は驚きすぎたのか、目を見開いて停止している。


いや、アリッサム王だけではない。


その場にいたエルフ達も武器を構えたまま、驚き硬直している様子。


パラパラと砂埃が舞う中、ゆっくりと立ち上がるシルエットが。


そして


「むんっ!!」


その掛け声と共に、空気が振動し砂埃が一瞬で吹き飛んでいく。


……


砂埃が飛んだと同時に可憐なポージングを決めるオネエサマの姿が。


「も~、照れちゃってぇ。ラグナ様の恥ずかしがり屋さんなんだからぁ~。急に動くから転んじゃったじゃない☆」


あれは転んだと言えるのだろうか?


精霊樹の根にクッキリとオネエサマが衝突したような大の字の跡がある気がするけど。


俺は今、顔が引きつってないだろうか?


精霊樹の根もエイミーさんの衝突によりダメージを負ったのか、痛がる素振りをしたあと地中へと戻っていくのだった。


「……と、とりあえず詳しい話は王城で。エチゴヤの皆様もどうかこちらへ。」


このままここで話をするような空気では無かった為、アリッサム王は皆を王城へと招くのだった。


アリッサム王がチラッと後ろを見ると……


使徒であるラグナとエチゴヤの輸送部隊の隊長の2人が腕を組んで歩いていた。


『あの2人はどの様な関係なのだ……?顔見知りではあるみたいだが……』


アリッサム王はただただ困惑するだけだった。


王城の中の会議室へと案内された一同。


「とりあえずだ……一つ一つ聞いていくとしよう。その前に……誰か、ルテリオ様を呼んできてはくれないか?何時もならこの様な時には直ぐに駆け付けて下さるのだが……」


ルテリオの名前を聞いた瞬間、ラグナはビクッと反応してしまう。


「えっと……ルテリオ様は先ほどいろいろありまして……ちょっとお疲れだと思うので休ませてあげて下さい」



ルテリオ様を呼ばれると、さすがに気まずい。


ちょっと何かを見てしまったかもしれないから。


「うん?一緒にいたのか?……まぁ、よい。とりあえず話して貰えるかな?我が国の近くでいったい何があったのか……戦闘があったのは判っているのだが……」


「わかりました。判っている範囲で、全てお話します。」


そうしてラグナは何があったのか説明することになった。


「ミラージュの兵士がこの国の入り口を探っていることは?」


「あぁ、知っている。先日も我が国の近くまで接近してきていた事、君も同じ様なタイミングで我が国の近くまで来ていた事は判っているんだ。まぁ、途中で君の気配が全く察知出来なくなり兵士達が慌てていたんだけどな。」


それについては、あははと誤魔化すしか無い。


「まぁいい。それよりも……その後が問題だ。あれは何だ?あのバケモノはいったい何なのだ……?」


バケモノという言葉を聞いてエイミーは会話に参加する。


「まさか、またアレが攻めて来たの!?」


「ん?エチゴヤの方も知っているのか?」


「知っているも何も、最初にこの国に向かう際にバケモノに襲われたのよ。兵士達には伝えたはずよ?」


「何だと!?私の所にそんな話は来ていないぞ!!」


アリッサム王が幹部たちをギロッと睨み付けると、


「も、申し訳ありません。こちらにもその様な話が伝わっていなく……」


顔を真っ青にした幹部達の一部が急ぎ足で部屋を退出。


『まだ反人族派閥の人間がいたってことかな?』


実際に輸送部隊が壊滅しているはずなんだけどね……


「まぁそちらの対処は任せるわぁ。それよりもラグナ様?あのバケモノとの再戦はどうなりましたの?」


「それがですね……エイミーさん達が遭遇したバケモノと今回のバケモノは違う人物でした。」


「何ですって!?あんなのがまだいるの!?」


「エイミーさん達と戦闘になったのが兄で、今回この近くで戦闘になったのは弟でした……」


「そんな事が……」


「兄?弟?どういう事だ?」


アリッサム王はラグナが何を言っているのか理解出来なかった。


「アリッサム王はヒノハバラが魔族に襲撃された件をご存知ですか?」


「あぁ、話には聞いているが」


「その時に魔族によって貴族の子供が2人、連れ去られたのです」


「なんだと……まさかバケモノの正体というのは?」


「えぇ……その時に連れ去られた兄弟があのバケモノの正体だと思います。僕の事を見るなり怒鳴り散らしていたので……たぶん確定かと」


「知り合いだったのか?」


「知り合いというか……まぁ知り合ったその日に連れ去られたので何ともいえませんが……」


ほぼ一方的に恨まれたようなものだし。


「それよりも弟の能力が厄介です。意識を失ったミラージュの兵士の口を開けると、バケモノの手から何か液体のようなものを流し込んで自身と同じ様なバケモノへと改変していました。」


それを聞いて顔色を悪くするアリッサム王とエイミーなのだった。

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