第150話

「ではまた来るよ。」


大臣の2人が退出していく。


「はぁぁぁ……」


深い、深い溜め息が出た。


流石に現職の大臣2人と言う天上人の様な人達と話をすると一般人の俺としては精神的にクッタクタになるわけで……


「何だ情けない。今後も話し合いは行われるのだぞ?」


「そう言われても……小市民としては出来れば勘弁してもらいたいのですが。」


今回の事件は一切市民には公表されないことになった。


まぁ分からないでもないけど……


王都のど真ん中にある騎士学園に魔族が潜入してましたなんて公表出来るわけがない。


ただ先生が放った爆炎魔法や他の魔法師が放っていた魔法の数々の衝撃音は市民達にも聞こえていた訳で……


それについては軍から生徒達に向けてのデモンストレーションが急遽行われた為と言う内容で発表。


急遽行われた為、市民のみなさんにはお騒がせしましたと謝罪文が掲載されているらしい。


ちなみに生徒達に関しては厳重な箝口令を実施しているとか。


破られた場合は厳罰や極刑もあり得ると。


事件が事件なだけに仕方ないか。


俺についても少しだけ話をした。


出身の村のこと。


両親のこと。


どこの女神の使徒なのか。


いつからか。


この件はどうせサリオラと言っても通じないからマリオン様より神託は受けているが今回の件とは一切関係が無い内容だと伝えた。


マリオン様からは食事や調理方法を広めて欲しいとしか言われてないから嘘ではない。


「そう言えばここは軍の機密病院との事ですが何故先生がここに……?」


「何故だと?見てわからんか?」


「あっ……」


遠回しに聞いてしまった。


「あっ。じゃないだろ。全く。何でこうなったのかは自分でもよくわからん。お前が魔族の攻撃を受け止めた時に髪の毛の色が変わっただろ?その時にお前自身が光り始めたんだが、何故かその光が私に流れてきたんだ。それで気がついたら徐々に身体の痛みを感じなくなったんだ。戦闘が終わって魔族が立ち去った後にお前が倒れただろ?その直後だよ。皆が駆け寄る前で私自身が光り始めたんだ。駆け寄ってきた全員の前で私の傷口が塞がっていき、折れ曲がっていた手足は正常な位置に戻り、それで終われば良かったんだがな……徐々に若返っていきこの姿で止まったって訳だ。あの時は焦ったな。どんどん服がブカブカになっていくんだぞ?このまま赤子にまで戻ったらどうしようかと思ったくらいだ。」


なんか色々知らない情報が……


「えっと……まずはなんかごめんなさい?」


「何で疑問系なんだよ。まぁ若返った事に関しては気にしなくていい。むしろ女としてはお前に感謝すべき変化だからな。」


喜んでるみたいだから良かった……


問題は次か。


「髪の毛の色が変わったり俺が光っていたと言うのは……?」


「ん?あれは知っていてやったんじゃ無いのか!?」


「いや、全く……必死だったので……そんな事になったことなんて一度も無いですよ。ちなみに髪の毛の色は何色でした……?」


「髪の毛の色か?金と銀の2色だったぞ。そして身体中に纏っていた色はうっすらと青色だった気がする。」


「金と銀か……そこまで変な髪色じゃなくて安心したと言うべきなのかどうか……って感じですね……」


身体に纏っていた色がうっすら青色って事は……


マリオン様の力か?


それに金髪はサリオラかな。


たしか初めて会った時にサリオラが金色のオーラを出していた気がするし。


じゃあ銀髪は誰の……?


「一応みんなの目の前で若返ったから私だとは認識されているんだが……何せ若返るなんて前例は今まで無いからな。検査やらなんやらで病院に軟禁されてるって訳だ。この件についても公表するべきかしないべきかで割れているらしい。まぁわからんでもない。一応私はこれでも貴族の当主だからな。領地を持っていないとは言え、貴族の端くれだ。知り合いのご婦人方など何人かいるんだ。もし若返ったなんて知れてみろ?内戦が起きるぞ。」


「内戦って大袈裟な……」


「いや、確実に起きる。絶対に秘密を明らかにして自分もと……はぁ面倒だな……」


「どうなるんでしょうかね……?」


公表しない場合はどうなるんだろう……


「まぁ私が若返ったことを知っているのはあの場にいた魔法師団の一部と大臣2人。後はうちのクラスの連中と学園長くらいか。」


「あれ?学園の教員達って転移されませんでしたよね?見ていないんですか?」


「あぁ、あいつらか。自分達の魔法が効かなかったあげく私が吹き飛ばされたのを見た時点で、ものの見事に全員闘技場から逃げ出したらしいぞ。この件には大臣もカンカンだったな。生徒を守るべき立場の人間が逃げ出したのだからな。騎士学園の教員達も同様に逃げたらしい。」


教員がそれじゃあ……


「しかも今になって外に転送された生徒を守る為だったって言っているらしいぞ?聞いてあきれるわ。」


それからもたわいのない話をしながら過ごしていた。


もしかしたら先生を治したのはマリオン様なのかな?


それともサリオラ?


直接聞きたくても、魔力が使えないし……


当分は我慢かな。


それからもたわいのない話をしながら時間が過ぎていく。


コンコン


「失礼します。お食事をお持ちしました。」


看護師さんがそう言うと『2人分』の食事を運んできてくれた。


「ではごゆっくり~。」


食事をテーブルに置くと看護師さんは笑顔で立ち去っていった。


……えっ?


「それじゃあ飯にするか。ほら口開けろ。」


先生はスープをスプーンで口元まで運んできたので素直に口を開く。


あーん。


パク。


『結構薄味だな……」


そう思っていると先生は自分のスープを口にする。


さっき俺が口に含んだスプーンのまま。


そして全く気にしない素振りでスープを再び俺の口元へ。


『これはなんだ!?先生は気にしないタイプか!?気がついてないだけか!?』


「ほら2口目。」


意を決して口を開ける。


パク。


何だろう、物凄いイケないことをしている気分だ。


その後も同じスプーンやフォークを使い2人で食事を進めていく。


「ほら、それで最後だ。」


最後の一口をパクッと口に入れてもぐもぐする。


先生も最後の一口を食べて食事を終えた。


「あぁ、そう言えば間接キスってやつを今していたな。」


「ごほっ!?ごふっ!」


気にしないように我慢していたのに……


食事が終わった直後に爆弾をぶっ込まれた。


先生を見るとニヤニヤとした表情だけど、耳は真っ赤に染まっていた。


『わざとだったのかよ!!』


自分も恥ずかしいくせにその後もめっちゃいじられた。

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