第108話
パーティーの次の日。
サイさんに時間を作ってもらい話をすることに。
「一旦村に帰るのかい?」
「はい、入学前に一度両親に挨拶しようと思います。」
「それは大事だね。学園では寮生活になるから村に帰れる機会なんてなかなか無いし。確か1年生は学園から出れないんだよね。」
えっ。それは知らなかった。
「ちょうど明日ナルタへと仕入れに向かわせる所だったからそれに一緒に乗れるように手配しておくよ。」
「ありがとうございます。」
エチゴヤの商隊と共にナルタへ。ナルタから馬車を出してもらい村へと帰ることになった。
そして10日後、アオバ村へと到着した。
「リビオさん、ここまでありがとうございました。」
「これも仕事だからな。気にすんなって言いたいところだけど俺もこの村に用事があるからな。」
王都からナルタまではリビオさん含む商隊の方と共に移動。ナルタからはリビオさんと2人で村まで旅をした。
「お帰り。」
村の入り口にはハルヒィさんが居た。
今日の警備はハルヒィさんが担当だったらしい。
「ただいま!この方はエチゴヤ商会のリビオさん。俺を村まで送ってくれた人だから。」
「おぉ、ラグナが世話になったな。馬車は村に入ってすぐ曲がった所に置き場があるからそこに止めてくれ。」
「わかりました。」
馬車を止めて馬達の世話を村の人に頼むと2人で村長の家に向かう。
コンコン。
「村長さん居ますかー!!」
扉が開くと中から出て来たのは父さんだった。
「おぉ?ラグナ!帰ってきたのか!」
「ただいま!でも何で父さんが?」
「あぁ、ちょっと話し合いでな。そっちの人は?」
「初めまして。エチゴヤ商会所属のリビオと申します。」
「村までリビオさんが送ってくれたんだよ。」
「そうか、息子が世話になったな。何もない村だけどゆっくり休んでくれ。」
「ありがとうございます。今は話し合い中との事なので一旦失礼します。村長さんのお時間が空きましたら再び伺います。」
リビオさんの目的が叶うかどうかは村長さん次第だからね。
「うん?じいさんに用事があんのか。別にいいぞ。入ってこい。」
父さんに連れられて家の中に入る。
村長さんの家には狩人の皆が集まっていたみたいだ。
「村長さん、ただいま!」
「おぉ、お帰り。試験はどうじゃったかな?」
みんなにピースする。
「無事に合格したよ!」
皆がお祝いの言葉をかけてくれる。
「うちの村から初めて魔法学園の合格者がでたのぅ。目出たいことじゃ。」
「ありがとう。それよりもこの方はリビオさん、僕を村まで送ってくれた人なんだ。村長さんに話があるんだって。」
皆の視線がリビオさんの方に向く。
「ラグナ君が次に村を出発するまで約2週間、俺を鍛えてくれては頂けないでしょうか?」
リビオさんはみんなに対して土下座をする。
流石にいきなりのことでみんな驚いていた。
俺もこの話を聞いた時は驚いたしね。
「リビオさんと言ったかね、頭を上げて下され。」
リビオさんは恐る恐る頭を上げる。
そして村長さんがリビオさんに問う。
「強さを求める理由はなんじゃね?」
強くなりたい理由か。
リビオさんはなんでそこまで強くなりたいんだろ?
今でも強いと思うけど。
「理由ですか……恩を返したい方々、護りたい人達が居るからです。私が恩を返したい方々はエチゴヤの一族になります。先日、そのエチゴヤの方々が住む屋敷が何者かの手により襲撃されました。その時に仲間の1人が暗殺され、もう1人は意識不明の重体。私達が犯人を探している間に暗殺者を倒したのがラグナ君です。」
みんなが一斉に俺を見てくる。
「たまたまだよ。本当に。」
しかしラグナのその反応をリビオは否定する。
「暗殺された者も怪我を負った者も私より遥かに技量が上の人間でした。この際だから言うけどラグナ君、君と手合わせしている時の私は君が思っているよりも余裕が無かったんだよ。君と手合わせをした後は剣を握れないくらい痺れるんだ。」
ラグナはリビオのその告白に驚いていた。
毎回余裕に捌かれていたのでその様なことになっているとは思っても居なかった。
「そして神殿騎士より伺ったことがあるのです。アオバ村の方々の力量を。プライドをいとも簡単にへし折られたと。私はもっと強くなりたい。出来ることならどんな脅威からも守れる力が欲しいのです。」
「大事な主を護る力をのぅ。どうじゃ?」
村長さんが狩人の皆を見渡すと構わないと返事をしている。
「我が村では実践あるのみじゃ。魔物に襲われて死ぬかも知れん。それでもよいのか?」
村長さんのその答えにリビオさんは大きな声ではい!と返事をする。
「ありがとうございます。そしてエチゴヤ商会の若様より村長様へとお手紙を預かっております。
リビオさんは手紙を村長さんに手渡すとさっそく読み始める。
「ふむ、なるほどのぅ。ほれ。」
手紙は父さんの元へ。
「まぁ、仕方ねぇか……息子は幸い無事だったからな。ラグナ、襲撃された件はミーナに内緒で頼むわ。」
「わかったよ。どんなことが書いてあったの?」
「別に大したことじゃない。それよりもラグナ、母さんには挨拶したのか?」
「いや、まだだよ。村に到着してそのままここに来たから。」
「それじゃあラグナは家に帰って母さんを安心させてやれ。毎日毎日ラグナが大丈夫か心配してたんだからな。」
「わかったよ。先に家に帰る。リビオさん、ここまでありがとう!」
村長さんの家を後にして家に帰る。
「ただいま!」
「お帰りなさい、ラグナ。」
母さんにぎゅっと抱きしめられる。
そして家の奥からはハイハイで母さんを追いかけてきた妹のメイガが現れた。
「メイガもただいま!」
母さんの後ろに隠れてしまった……
「ほらお兄ちゃんが帰って来たよー。」
ちらっと顔が出たけどすぐに隠れてしまった。
「父さんは今村長さんの所に居るわよ。」
「うん、先に会ったよ。それでね、母さん。合格したよ、僕!」
ぱぁっと笑顔になるととても喜んでくれた。
「本当に?流石、ラグナね!もう、本当に自慢の息子なんだから!」
そういえば学園長が言ってたことを聞こうと思ってたんだ。
「ただいま~。」
「お帰りなさい。」
ちょうどいいタイミングで父さんも帰ってきたな。
「父さんと母さんに聞きたいことがあるんだけど。」
「どうした?」
「2人ともこの村に来るまでは冒険者をやってたんだよね?」
「そうよ~。いろんな所に行ったわね。」
「本当にいろいろ行ったな。」
「じゃあ疾風とクラッシャーレディって2人のこと?」
その名前を出した瞬間にピシャリと動きが止まった2人。
今にもギギギと音がしそうな雰囲気で首を動かす2人。
「え、何かな?よ、よく聞こえなかったんだけど。」
「だから2人が疾風とクラッシャーレディなの?」
父さんと母さんの目が挙動不審になる。
そして少しの間を置いて白状してくれた。
「誰から聞いたのかはわからないけど昔はそんな名前で呼ばれていたこともあったな……」
「ねぇ、ラグナ。誰からその名前を聞いたのかしら?」
母さんの目つきがちょっと怖い。
「学園長に聞かれたんだよ。君の両親はグイドとミーナって名前じゃないか?って。」
「……なんで俺達の名前が出てくるんだ。」
「魔法剣を発動させたら驚かれてさ。この国で魔法剣を使える人間はあの2人しかいないはず。疾風とクラッシャーレディの冒険者カップルだって。お前はあの2人の子供かって言われたんだよ。」
父さんと母さんが考え込む。
「そいつの名前はわかるか?」
学園長の名前か。
「確か名前はイアン。イアン・ロビンソンだった気がする。」
その名前を出した時に2人は驚いた顔をする。
「そいつは空を飛んだりしなかったか?」
空?
確か最初に現れた時は空を飛んでたよな。
「うん。確かに空を飛んでたよ。」
母さんがため息を吐く。
「……まさかあの人が学園長をやっているなんて。」
「あのおっさん、まだ引退って歳じゃ無かったろ。何かあったのか?」
学園長をおっさん呼ばわりってことはやっぱり2人は知り合いだったのかな?
「やっぱり2人の知り合いだったの?」
「向こうは軍人、私達は冒険者だったからそこまでたくさん話をしたって訳じゃないけど……」
「イアンは当時ヒノハバラ第2魔法師団の団長だったんだよ。それでよく昔は冒険者ギルドと共同で魔物の討伐任務を行っていたんだが、その時にちょくちょく顔を合わせていたんだ。」
そう言えば学園長もそんなこと言ってたっけな。
「そうだったんだ。でも父さんが疾風って呼ばれてるのはわかるけど、母さんがクラッシャーレディなのはどうして?」
聞いた瞬間、父さんの顔がひきつる。
「ラグナ、忘れなさい。」
「えっ?」
母さんの顔が真顔だ。
「いい?そんな二つ名なんて存在しないの。忘れなさい。」
母さんからの圧が凄い……
殺気とは違う。
ただ母さんからの圧力が凄い。
「わ、忘れます。何もありません。」
すると直ぐに圧から解放された。
「そう?なら良かったわ。」
ニッコリと笑う母さん。
一体何だったんだ……
よくわからないけどクラッシャーレディって名前が禁句ってことだけは理解できたよ。
きっと父さんに聞いても何も教えて貰えないんだろうな……
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