第106話

『ガストーチソードはスキルだし。ここはやっぱり魔法剣の方がいいのかな……』


「それじゃあ、始め!」


ラグナは目を閉じて深呼吸する。


ふぅ、いつも通り。


いつも通りに。


ラグナは剣を取り出すと火の魔力を纏わせていく。


「はぁぁぁぁ!」


激しく燃えさかる炎の音を響かせながらラグナは魔法剣を発動させる。


ボゥ!と音を立てて剣に炎が纏った。


そして剣を振り抜くと魔法剣に纏っていた炎が一筋の炎の塊となり飛んでいく。


そして一直線に5m先の的へ。


パン!


炎の塊は的に着弾すると小規模な爆発を起こした。


…………


一緒に試験を受けていたメンバーは驚いて固まる。


ミレーヌでさえも驚いていた。


ラグナが魔法剣を使えることなど知らなかったからだ。


そして驚きは威力に関しても。


同年代の魔法とは思えない規模だったからだ。


学園長やコレットも驚いていた。


「それは……魔法剣か?」


「はい、魔法剣です。」


魔法剣を使える人間と言えばエーミルダ国出身の人間のみ。


そしてエーミルダ国とヒノハバラ国は犬猿の仲だ。


国民同士もいがみ合っている。


あの国出身の人間がヒノハバラに住むなんて考えにくい。


わざわざヒノハバラに来なくても行く宛はたくさんあるのだから。


「お前は……」


「ちなみにこっちも使えます。」


そう言ってラグナは詠唱を開始する。


「光よ、我を暗闇から救いたまえ。ライト!」


学園長の前で魔法も発動させてみせた。


「なんだと!?魔法剣だけでなく魔法も使えると言うのか!」


今まで何人もの魔法使いがチャレンジしたが成功することが出来なかった魔法剣。


逆にエーミルダの人間も魔法を発動させようと何人もチャレンジしてきた。


しかし、出来たのは生活魔法である着火など本当に小規模な物のみ。


いつしかそう言うものなのだろうと思いこんでいた。


それが今までの常識だった。


しかしその常識も、目の前にいる少年によって打ち砕かれた。


この国に両方発動出来る人間が現れたからだ。


「しかし……いや、だからか。」


だからこそ神殿とエチゴヤが後ろ盾になっているのか。


確かにこの少年の能力ならば頷ける。


「以上で第二試験を終了する。他のグループは人数が多いからまだ第二試験の最中だが、この班は人数が少ないからな。このまま第三試験である面接会場へと移動するぞ。」


第三試験は面接らしい……


魔法剣と魔法を使ったことに驚いていたけどやり過ぎたかな。


とりあえず、何故両方使えるのかって聞かれたら加護のおかげって言えばなんとかなるでしょ。


学園長に連れられて建物の中へ。


「2階から上は一般試験の会場になっている。向こうも試験中だから、静かにな。」


学園長の後ろをついて行くと控え室と書かれた部屋へと案内された。


「これから隣の部屋で面接を始める。順番は第二試験と同じだ。呼ばれた者は部屋に入れ。終わった者から順次解散となる。試験の結果は4日後に魔法学園の入口に掲示される。何か質問は?」


すっと男の子が手を挙げた。


「なんだ?」


「合否の際にクラス分けなども発表されるのでしょうか?」


クラス分けか……


確かクラスによって待遇が変わるんだっけ。


寮の質、食事、授業内容、全てがクラスによって区別される。


少しでも上位のクラスへ入れるように。


子供達は必死に勉強するのだった。


貴族の、それも大貴族であればあるほど子供達も必死になる。


もしも最下層のクラスに振り分けられた場合……


親より縁が切られて学園を去るなど日常茶飯事だった。


「クラス分けについては入学式の後に発表される。4日後にわかるのは合否のみだ。他にあるか?」


みな首を振る。


「それでは準備が済み次第、面接を開始する。」


部屋から学園長とコレットさんが立ち去り部屋の中は子供達だけが取り残されていく。


シーンとする空気がとても重苦しい。


ミレーヌさんもチラチラと俺を見てくるがこの空気では話をしにくいみたいだ。


「それでは面接を始める!」


1人目の男の子が呼ばれて部屋へと向かう。


10分程して次の子が。


さらに10分後にはもう1人の女の子が。


ついにミレーヌさんと2人きりになる。


「ラグナ君、試験が終わったら馬車の待機所で待っていますわ。」


「う、うん。わかったよ。」


そしてミレーヌさんが呼ばれる。


この緊張感はあれだな。


何社も連続で落ちた就職の面接を思い出す。  


会社か……


彩華先輩元気にしてるかな……


あれから9年。


もう結婚しているんだろうか。


幸せにしているかな……


感傷に浸っていると扉が開いた。


「最後の方どうぞこちらへ。」


部屋に入ってきたのはコレットさんだった。


隣の部屋の扉をノックする。


「失礼します。」


部屋に入室すると3人の面接官の人が座っていた。


1人は学園長。あとは男性と女性。


コレットさんに椅子まで案内された。


「よろしくお願いします。」


「おぅ。とりあえず席に座ってくれ。」


「失礼します。」


「それじゃあ面接を始める。先ずはあれだな。君の両親の出身は?」


「詳しいことは聞いていませんがエーミルダ出身と聞いたことがあります。」


「やはりあの国の出身か……ちょっとまてよ、君はアオバ村出身だったよな?」


「そうですが、それが何か?」


学園長は何かに気がついたのか笑い出す。


「君の両親の名前はグイドとミーナだな?」


「そうですが……」


なんで学園長は名前を知っているんだ……?


「君はあの2人の息子か。髪の色も違うしあまり似てないから気がつかなかったわ。」


父さんと母さんの知り合いなのか……?


2人からは何も聞いてないけど……


「そんなに警戒しなくてもいい。冒険者時代の2人を知ってるだけだ。そうか、あの2人の子供か。」


「両親を知っているのですか?」


「あぁ、知っているさ。あまり言葉を交わす機会は無かったが、何度か魔物の討伐遠征の時に一緒に行動したことがある。お前たち2人も聞いたことがあるだろ?疾風とクラッシャーレディの2つ名と。」


疾風?


クラッシャーレディ?


「聞いたことがあります。エーミルダから我が国に流れ着いた変わり者の冒険者のカップル。鋭く素早い風の魔法剣を扱う剣士『疾風』と、全てを打ち砕く狂女『クラッシャーレディ』ですよね。」


うん?


疾風は父さんってわかるけど……


クラッシャーレディって……


まさか母さんのこと!?


「あの2人の子供なら魔法剣を扱えるのも納得だな。でも魔法を使えるのは何でだ?」


やっぱり聞かれるか。


「たぶん加護のおかげだと思います。魔法が使えるとわかったのは本当に最近です。エチゴヤの屋敷で魔法書を読んで書いてある通りに詠唱したら使えるようになっていました。」


「やはり加護か……では神殿の噂は本当のようだな。使徒は君だったか。」


「では番号札の色が金なのは?」


「あぁ、事実だろう。加護で強化されているんだろうな。」


番号札の色?


「番号札の色にどんな意味が……?」


「君たちは知らないのだったな。番号札には魔力の総量を表示する機能がある。」


順番は下から白→灰色→黒→青→黄→赤→赤銀の2色→銀→銀金2色→金→虹色らしい。


「魔力の総量で言えば恐ろしいことに9歳の君と俺が同じランクになるな。」


「えっ……」


「まぁ君は文句無しに合格だろう。」


「「学園長!!」」


「だってそうだろ?逆にお前たち2人はこの少年を不合格に出来るのか?」


「それは……」


「まぁそう言う訳だ。合格の件に関しては誰にも言うんじゃないぞ。もちろんエチゴヤにもだ。」


「はぁ……」


まさか面接の最中に合格って言われるとは思ってもいなかったよ。


「後は今回の試験の内容に関してだが、全ての受験者に対して一切の情報漏洩を禁止している。もし漏洩がバレた場合は奴隷落ちもあるから気をつけてくれ。」


「わかりました。」


だから事前にどんな試験があるのか、ある程度の情報しか無かったのか…… 


無事?に面接が終わりミレーヌの元へ向かうラグナだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る