第59話

「終わった……」


捜索隊メンバーがそう呟いたのをニコッと笑いながらサイは続きを話す。


「馬車の中を調べたこの方達は運んでいた遺品を発見しました。何故持っているのか聞かれたので丁寧に説明したのですが信じて貰うことが出来ませんでした。その後馬車は徴収され私達は捕縛されたのです。」


領主はサイの話を聞けば聞くほど血の気が下がるばかり。


捜索隊メンバーをジロリと睨むもののやってしまったのは事実。


もうどうにもならない。


「捕縛された後はこの街に到着するまで私達は水も食事も最低限の量しか与えて貰えませんでした。まるで犯罪者のような扱いでしたよ。私達は遺品を運んでいただけなのに。そして兵達は私の馬車の積み荷の食料や酒を好きなように消費し仕入れていた魔物の素材は勝手に他の商人に売却し自分達の懐に入れていましたね。その後街に到着し捕縛されたままここまで連行されました。市民の方々の前を見せしめのように歩かされましたよ。きっと何人かは私の顔を知っていたでしょう。これからどうやって商いをしていけばいいのか……」


サイの話を聞いていたブリットは我慢の限界を迎える。


「領主様。どうやらあなた方は私達エチゴヤ商会に対して戦争を仕掛けたようですね。商人としては許せませんよ。商人の命たる商材を勝手に消費され挙げ句売却までされて。さらに息子の面子まで潰してくれたのですから。いいでしょう。うちとしては我慢の限界です。お相手しますよ。」


領主は慌てふためく。


「ブリット殿、落ち着いて下され。これは手違いなのです。私達はそのようなことをする気は御座いませんでした。」


領主が謝るもののブリットは既に火がついていた。


「手違い?手違いで我が息子は商人としての道を潰されたのですか?捕縛され数多の人にその姿を見られた息子は今後とも商売を続けられるとお思いでしょうか?」


「街には捕縛は誤りだったと発表する。積み荷については賠償する。後は今回重大な過ちを犯した人間に対しては全て奴隷落ち。其方で全て如何様にして貰っても構わない。」


捜索隊メンバーは自分達がやってしまったことに後悔する。


「そう言えば偉そうにしていた兵が居ませんが?」


サイがそう呟くと領主はハッと気がつく。


そもそもこんな事態になったのは誰のせいなのか。


「アイツを呼んでこい!」


側で控えていた兵に怒鳴りつける。


「しかし治療中とのことですが……」


「いいから連れてこい!治療などいらん!」


兵士は急いで呼びにいく。


「本当に私はエチゴヤ商会と事を構えるつもりなど一切無いのだ。兵士達が勝手にやったことなのだ。」


領主がそう説明するも納得出来るはずも無い。


自分の手駒たる兵士のミスは上司のミス。


つまり上司とは領主。


関係ないなんて理由が通じる訳が無い。


ガチャリと扉が開き治療されていた兵士が連れてこられた。


「遅れて申し訳ありません。少々怪我をしてしまい治癒魔法による治療を行っておりました。」


まだ何も知らない兵士は片膝を付き領主の前に現れる。


「お前は……」


兵士が恐る恐る顔をあげると目の前には顔を真っ赤にしている領主。


「お前はなんて事ををしてくれたのだ!」


なんて事をした?


兵士は未だ理解していなかった。


「えっと私が何か……?」


「何かでは無いわ!お主が捕縛したのはエチゴヤ商会の御曹司なのだぞ!」


「それの何が問題で……?捜索しても見つけられなかったご子息様の品を運んでいた罪人ですが。」


兵士は何故領主が顔を真っ赤にしているのか理解できない。


自分はご子息の手掛かりを持つ人間を捕縛したのに。


「そこに居るお前!こいつに説明してやれ!」


先程、この兵士を呼びに向かった兵士にこれまでの話を説明する。


最初は普通に聞いていた兵士も段々と顔が青ざめる。


自分の過ちを知ってしまった。


直ぐに土下座の様な体勢になる。


「本当に申し訳ありません。」


兵士は領主に謝罪する。


「先ずは私にではないだろう!後ろに居られる方々に謝罪が先であろう!」


「この度は本当に申し訳ありませんでした。」


兵士は慌てて後ろを振り向き謝罪する。


この光景を大人しく見ていても納得出来ていない人間が1人だけいた。


「父様、何故謝る必要があるのでしょうか?所詮コイツ等は平民なのでしょう?高貴たる僕達貴族が謝罪する意味がわかりません。」


領主の息子は自分達の置かれている状況を全く理解していなかった。


「大人しくしておれと言ったであろう!部屋から出ていけ!」


領主は何も理解していない息子にかっとなり顔を平手打ちすると部屋から息子を追い出した。


「本当に申し訳ない。見苦しいものをお見せした。」


苦々しい顔をしながらも改めて領主は謝罪するのであった。

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