第26話 ついに飛び出た婚約破棄宣言

「い、いらっしゃいませ。アルト様…」


私は恐る恐るアルトに挨拶をした。アルトが私の家にやってくるなんて過去にあっただろうか…?


「エイミー…今日は一体どうしたっていうんだい?ひょっとして昨日婚約式で君が体調を崩して帰ってしまったのに僕がお見舞いに行かなかったことを拗ねてそんな態度を取っていたのかな?実はお見舞いに行こうと思ったんだけど…あの後は来賓客たちのお相手があって…忙しくて君の所にお見舞いに行くことが出来なかったんだよ。もしかてそれが原因だったの?ずっと僕を避けていたのは…」


アルトは私に言葉を発する余裕も与えない勢いで一気にまくし立ててきた。その迫力に思わず押されそうになってしまった。


「…」


どうしよう、何て返事をすればいいのだろう…?


思わず答えにつまってしまうと、引き続きアルトが言った。


「ところでエイミー。話は変わるけど…。君に婚約破棄を申し出るよ」


つ、ついに…ついにアルトの口から『婚約破棄』の言葉が出てしまった。ゴクリと息を飲み込み、次の言葉を待つ。


「元々君と僕の婚約は両親が一方的に決めてしまったものだからね。やっぱり…結婚ていうのはお互いの気持ちも大事だと思わないかい?僕は到底君には愛情を感じることが出来ないんだ。君だって自分を大切にしてくれる相手と結婚したほうが幸せになれると思わないかい?」


笑みを浮かべながら残酷な事を言ってくるアルトに私は少しだけ鳥肌を感じた。

アルトは明白な理由を語ってはくれなかった。てっきりビクトリアさんの事を話してくれると思っていたのに…他に好きな女性が出来たからだと理由を説明してくれると思っていたのに…アルトは自分にとって不利になりそうな事は隠している。


やっぱりアルトは私の事など何とも思っていないのだ。私が傷ついても平気なのだ。

だから…婚約式の日に婚約破棄宣言をしようとしていたのだ…。


思わず鼻の奥がツンとなって目頭が熱くなったけれども、私は必死で涙が出そうになるのを堪えた。ここでもし泣こうものなら、それこそトビーの台詞ではないけれども面倒な女だと思われて、ますますアルトに嫌われてしまうかもしれない…。


そうだ。これ以上アルトに幻滅されない為に…少しでも彼の好感度を上げる為に私が出来る事は…。


「わ、分かりました…」


声を振り絞るように返事をした。


「え?エイミー?今…何て言ったの?」


アルトが何故か驚いた様子で私を見た。


「婚約破棄の件…分かりました…。アルトの言う通りに婚約破棄…お受けします。ですが…3ヶ月…待って頂けますか?」


「え?3ヶ月…?」


アルトが眉をしかめた。


「はい。婚約破棄…承りましたけど3ヶ月だけお待ち下さい」


私はアルトに頭を下げた―。




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