アルト・クライス ③
2限目は文学史の講義だった。
この教授は厳しいことで有名だった。1分でも講義に遅れようものなら教室から締め出されてしまうのだ。
そして肝心のエイミーはまだ教室に顔を見せていない。
「…」
エイミー…一体どうしたと言うのだろう…?
心配になって教室のドアを見ていると、ジャスティンが声を掛けて来た。
「どうしたんだ?アルト」
「え…あ、いや…」
思わず口ごもるとジャスティンがニヤリと口元に笑みを浮かべた。
「エイミーの事が心配なのか?」
「そ、それは…」
視線をそらせるとジャスティンが意味深な目で僕を見た。
「アルト、お前はさ…一見優しそうに見えるけど、意外と冷酷なところがあるよな」
「え?」
「あまり人の気持ちを考えた事無いんじゃないか?」
「…」
ジャスティンに言われ、言葉を無くす。
冷酷?僕が…?
今まで他人からそんな風に言われたことは無かった。自分の事は親切な人間だとばかり思っていた。友達の一人もいないエイミーの為に、アカデミーでは放課後以外はいつも一緒にいてあげたし、学食では優柔不断な彼女の為にメニューも選んであげたし、運んでもあげた。
こんなに色々エイミーの為に親切にしてあげているのに?だっていつもエイミーは言ってたじゃないか。
『アルトはとても親切な人ね』
と…。
「何で今日に限ってエイミーはお前を避けているんだ?昨日はお前たちの婚約式だったんじゃないのか?」
「それが婚約式は…挙げる事が出来なかったんだ…」
「はぁ?何だよ、それ!エイミーはそんな事一言も言ってなかったぞ?!それに何で今まで俺に黙っていたんだよ?気になってたんだぞ?」
「…」
ジャスティンに報告できなかったのは当然だ。だって僕はあの場でエイミーに婚約破棄を告げようとしていたのだから。
「おい、何で黙ってるんだ?」
ジャスティンが顔を覗き込んできた、その時―。
ガラッ!!
背後扉が思い切り開かれる音が聞こえて振り向くと、そこには肩で息をしたエイミーの姿があった。
「良かった、真に合ったようじゃないか。何処かへ出かけていたのか?」
「うん、そうかもね…」
どうせ僕の隣に座って来るだろう。エイミーがここへ来たら昨日の婚約式の件についても色々聞けるだろうし。
そう思い、エイミーをじっと見つめると視線があった。すると何故か彼女は酷く狼狽した様子で僕から素早く視線をそらせ、またしても一番後ろの席に座ってしまった。
エイミー?何故…また僕から離れた席に座るんだ?
「あれ?またあんな一番後ろの席に座ってしまったぞ?呼んできたらどうだ?」
ジャスティンに促される。
「う、うん。そうだね…」
そして立ち上がろうとした時に授業始まりのチャイムが鳴り響き、教授が部屋に入って来た為、僕はエイミーの傍に行く機会を失ってしまった。
仕方ない…昼休みこそ、エイミーは僕の所へやって来るはずだ。。
僕は視線を教壇に移し、講義に集中する事にした―。
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