第24話 親子ではありません

 マダム・リュゼの店は町の中心部、メインストリート沿いの2階建ての大きな洋品店だった。



「まぁ、いらっしゃいませ!」


マダム・リュゼの店に入って早々に、女性店員が出迎えて来た。


「ドレスをみたいのだが」


「かしこまりました」


トビーの言葉に女性店員は頷くと私を見て笑みを浮かべた。


「まぁ…これはまるでお人形さんのように愛らしいお嬢様ですね」


そして次に店員が放った言葉で私とトビーは声を荒げることになる。


「では本日はこちらのお子様のドレスをお買い上げにお越し頂いたという事ですね?」


「誰がお子様だっ!」

「誰がお子様よっ!」


私とトビーの言葉がハモる。


「え?親子では無かったのですか?!」


女性店員が私とトビーを交互に見る。


「当たり前だっ!俺はまだ20歳だ!結婚もまだだし、こんな大きい娘を持った覚えも無い!」


「子供扱いしないで下さいっ!こうみえても私は19歳、大人の女性ですっ!」


「ええっ?!そ、それは大変失礼致しました!私としたことが…本当に大変申し訳ございません!」


女性店員は平謝りしてくる。けれども19歳の私をよりにもよってトビーの子供と勘違いするとは…。

余程気に障ったのだろう。トビーはかなり憤慨している。


「トビーさん…他のお店に行きましょうか?」


「ああ、そうだな。そうするか。ついでにこの店の店員は客を見る目が全く養われていないと世間に公表してもいいかもしれないな」


そして2人で背を向けて出入り口に向かおうとしたところで…。

女性店員が慌てて私達の前にたちはだかる。 


「あっ!そ、そんな事おっしゃらないで下さい!そうだわ、ならお値引き致しましょう。お買い上げ頂くドレスは全て定価の1割引をさせて頂きます。それでいかがでしょうか?」


「うむ…まぁそれなら良いか。どうする?エイミー」


トビーが私を見る。


「ええ、私は構いませんよ?お金を出して下さるのはトビーさんですから」


「…チッ。覚えていたか」


ボソリとトビーが言う。


「あ!何ですか、それっ!まさか私が忘れていると思ったのではないですか?!冗談じゃありません!男なら約束を守って下さいよっ!」


「おわぁっ!な、何だ?今の聞こえていたのか?地獄耳だな」


「誰が地獄耳ですか!」


「あの~…それでいかがなさいますか…?」


揉める私たちを見かねて女性店員が声を掛けて来る。


「ああ、仕方ない。こちらの店でドレスを選ぶ事にしよう。この背が低く、極端に童顔でまるきり子供にしか見えない彼女でも似合いそうな大人の女性をイメージしたドレスを選んでもらえないか?」


何気にトビーは酷いことを言ってくる。


「ちょっとトビーさん…今の言葉は聞き捨てなりませんね…」


恨みを込めた目で見る。


「何だ?別に俺は間違えたことは言っていない。それに俺がスポンサーなんだ。文句言うな」


「…」


言いたい事は山ほどあったが、この店のドレスは正直に言うと、結構高い。それを買ってくれると言うのだからここは引下がった方が良さそうだ。そこで女性店員さんに半ば自棄気味に言った。


「お願いします。私のようにチビで童顔な女性でも似合いそうなドレスを選んでいただけますか?」


「ええ。お任せ下さいっ!どうぞこちらへ」


店員さんが店の奥へと私を連れて行こうとしたので、トビーを振り返った。


「あの?トビーさんはついてこないのですか?」


「ああ。俺は遠慮しておく。店の椅子に座って待っているから俺の事は気にせず、じっくり選んでもらえ」


「おおっ!何とも度量のある台詞ですね」


「いや、単に眠くてついて行くのが面倒なだけだ。だから俺はここで寝て待ってる」


それだけ言うとトビーは壁際に置かれたソファにドカリと座ると腕組みして、早速眠りについてしまった。


「…」


私は呆れてものが言えない。


「あの…お客様?試着されに行かないのですか?」


女性店員が声を掛けてきた。


「いえ、行きます!行きましょう、試着室へ!」


「ではどうぞこちらへ」


店員に促され、私は店の奥へと連れられて行く。


こうなったら数時間かけてでも、トビーがアッと驚く私にぴったりのドレスを見つけてみせるのだから―!



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