第9話 父母の帰宅
午後2時―
昼食を食べ終えた私は1人、部屋で読書をしていた。読んでいるのは恋愛小説。薄幸の女性が紆余曲折を得て、愛する人と最後は結ばれるというよくある内容なのであったが…。
「な、何よ…これ…まるで今の私の状況に…しかもヒロインの恋路を邪魔する悪者役に立場がそっくりじゃないの…!」
小説のヒロインはある偶然でヒーローと出会って恋に落ちるも、彼には既に子供の頃から決められていた婚約者がいた。2人は婚約者の目を盗んで逢瀬を重ねていたが、徐々に婚約式が迫ってくる。ヒロインは罪の意識に苛まれ、別れを告げようとするも拒絶する彼。そしてとうとう婚約式の当日。これが最後の逢瀬だと覚悟を決めていたヒロインだったが、彼は言った。
『僕の愛する女性は君だけだ。婚約式で彼女との婚約破棄を発表するよ。世間から非難は浴びるかもしれないけれど大丈夫だ。僕がなんとしても君を守るから』
「な、何よっ!こ、この酷い小説はっ!」
私は思い切り本をバタンと閉じるとテーブルの上に突っ伏した。そして横目でチラリと閉じた本に視線を移す。
…本当に何て嫌な小説なのだろう?どう考えてもヒーローの婚約者が被害者なのに、この本はあくまでヒロイン目線。婚約者の女性は性格がきつく、ヒロインを虐め続ける嫌な女として描かれている。
だけど、婚約者がいる男性だと分かっていながら逢瀬を続ける事自体が罪なのではないだろうか?それなのにヒロインの行動を注意するだけで、徹底的に悪女として描かれている。そしてそんな性格だからヒーローに嫌われてもしようがない、とでも言わんばかりの内容である。
「だけど…ヒロインの目線から見れば、愛する人との恋路を邪魔する嫌な女と見られてしまうのかしら…」
それでは私もアルトとビクトリアさんから見れば、2人の恋路を邪魔する嫌な女として見られているのかもしれない…。
「ウッ…ウウ…アルトに嫌われる位なら…婚約破棄に応じて…身を引いてもいいのに…」
再び目に涙が浮かぶ。
アルトとの婚約は家同士が決めた政略的な物だったが、私は子供の頃からアルトの事が大好きだった。だから彼の幸せは私の幸せ。婚約破棄を拒んだら、ますます彼に嫌われてしまうだろう。
「うう…あのおっかないトビーさんとあそこで偶然会わなければ、アルトからの婚約破棄を受け入れてあげる事が出来るのに…」
するとその時、ノックの音と共にアネッサの声が聞こえてきた。
「エイミー様!ご主人様と奥様がお帰りになりましたよ!」
「え?!ほ、本当?!ありがとう、アネッサッ!」
扉越しにアネッサに声を掛けると慌ててベッドの中に入った。
そして5分ほど経過した頃…。
コンコン
扉がノックされ、父の声が聞こえてきた。
「エイミー、具合はどうだ?入るぞ」
そしてカチャリと扉が開かれ、父と母が部屋の中に入ってきた―。
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