第2話 私を責める青年

 何?この男の人…自分だって覗き見しているのに私にだけ趣味が悪いと言うなんて…


「あ、あの…」


「うるさい、話しかけるな。気が散るだろう」


青年はイライラした口調で私を見ること無く、アルトとビクトリアさんのキスシーンを見つめている。


「あ、あいつ…俺のビクトリアにあんな真似しやがって…!」


「アルト…私にはキスなんか一度もしてくれた事無かったのに…」


「何だってっ?!おい…お前、あの男の知り合いなのか?」


青年は私の方を振り向くと尋ねてきた。あいかわらず湖のほとりでは2人が情熱的なキスを交わしている。


「知り合いも何も…あの男性は私の婚約者です…。今日はこれから私とアルトの婚約式が執り行われる予定だったのに…この日の為にドレスだって新調して…なのに婚約破棄を発表するつもりだったなんて…」


最悪だ…。


涙混じりに言うと、青年は突然私に近付いてくると強く右手を掴んできた。


「な、何するんですかっ?!」


「大声出すな。あいつらに聞かれたらどうする。いいからちょっと顔貸せ」


「だ、だけどあの2人が…」


「うるさい!静かにしろっ!俺だってあの2人が気になって仕方ないが…お前、この後婚約式であいつに婚約破棄されるんだろう?」


「は、はい…」


自分の方が大きな声を出しているくせに…。


けれどそんな事を言われるとまた悲しくて涙がこみ上げてきそうにうなる。


「このまま何も対策を練らなきゃ確実にお前、大衆の面前で婚約破棄されて恥をかかされるぞ?そうなってもいいのか?」


「うう…そ、それだけは…イヤです…」


ただでさえみじめな気分なのに、このうえ恥までかかされるのは屈辱以外の何物でもない。


「ああ、そうだろう?だったら俺が何とかしてやる。だが…ここじゃまずいな。あいつらから一旦離れるぞ」


「あ、あの…!」


しかし、私は否応なしに青年に腕を掴まれ、その場から連れ去られた。

熱烈なラブシーンを繰り広げるアルトとビクトリアさんをその場に残し…。



****


青年に大きな岩陰に連れて行かれると、ようやく彼は私の手を離してくれた。


「よし、この辺りでいいだろう?」


そして青年は腕組みし、岩に寄りかかると私をジロリと見た。


「まずは自己紹介をしておこう。俺の名前はトビー・ジェラルド。年齢は20歳。王立アカデミーの3年だ。あそこでお前の婚約者とキスをしていたビクトリアとは幼馴染だ。よし、次はお前の番だ」


簡単な自己紹介の後、トビーは私に命令してきた。


「は、はい。私の名前はエイミー・カイゼルです。同じく王立アカデミーの2年です。あそこにいたのは私の婚約者のアルト・クライスで…今日、私はアルトと婚約式をあげる事になっていたのに…こ、こんな事になるなんて…」


酷く惨めな気持ちになってしまった。何故私は見ず知らずの人にこんな事を話さなければならないのだろう?再び私の目に涙が浮かぶ。


「あ〜鬱陶しい!いちいち泣くなよっ!お前だけが不幸な目に遭っていると思うな!俺だってなぁ…子供の頃から好きだった女をお前の婚約者に盗られてしまったんだからな?大体元はと言えばお前がしっかりあの男の心を掴んで置かなかったのがそもそもの原因だろう?!」


目の前の青年…トビーは勝手な事を言い出した―。



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