第9話
「おお、オルス! 帰ってきたのか」
父親の仕事仲間が、酔っぱらいながら近寄ってくる。
「今よ、引っ越しが終わったんだ。そいで、新築祝いで親父の家で、飲み会をやっているんだ」
自分の家はすぐ近くにあった。自分の家は煌々と明かりがついている。ドアの前に立つと、賑やかな声がきこえていた。
「おーい。自慢の息子さんが帰ってきたぞ!」
父親の仲間がドアを開けながら、そう言った。中に入ると、一斉に視線がこちらに向いたのがわかった。
「オルス帰ってきたのか」
「伝説の勇者のお帰りだ!」
みんな赤ら顔で迎えてくれた。オルスは作り笑顔で応えた。
「旅はどうだった?」
「行く都市で強者と闘ったんだろ?」
質問攻めになりそうになった時、父親が止めてくれた。
「みんな、息子は長旅で疲れている。聞きたい事は今度にしてくれ。ほら、自分の部屋に行きな」
促す父親。
「ありがとう。皆さん、すみません。また今度という事で。では」
頭を下げながら、オルスは自分の部屋へと向かう。部屋の中に入り、ようやくため息が出た。
「寝よう、とりあえず寝よう」
オルスは自分に言い聞かせ、ベッドに体を預けた。
翌朝。オルスは目を覚ますと、一階へと降りていく。テーブルの上はある程度綺麗にはされているが、皿やグラスは大量に置かれたまま。両親はまだ寝ているらしい。井戸の所へと向かい、水を飲んだ。その後、布の服を着ると、兵舎へと向かう。
兵舎は静かだった。自分専用の革の鎧を装備する。鞘にはロングソードを入れ、兵舎を出る。向かった先は、西門近くの一軒家。煙突から、煙が出ている。
「おはようございます」
ドア越しに挨拶をした。
「入れ」
「失礼します」
ドアを開けた。そこには、右足を失い、代わりに杖をつきながら、朝食の準備をしている勇者がいた。
「都市回りは終わったのか?」
「はい。あの、これから朝食ですよね。また出直します」
「いや、いい。スープぐらい飲んでいけ。話でも聞かせてもらおう」
「ありがとうございます」
オルスは食器を並べていく。鍋の中に入っているスープがグツグツ煮立ってきた。オルスが手袋をして、テーブルへと持っていく。
「ありがとうな」
「いえ。いつも、一人でやっているのですか?」
「昔は賢者が来てくれたよ。今はお前ぐらいだ」
オルスはひしゃくで、スープを底の深い皿に入れていく。
「大地の恵みに感謝し、食べよう」
「はい」
二人は静かにすすりながら、食事を始めた。
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