第6話
「いらっしゃい。オルス、肩どうしたんだ?」
「やられたよ。魔物に」
オルスは、壊れた革の鎧を、亭主に渡した。
「派手にやってくれたね」
右肩に空いた穴を見た途端、眉を顰める。
「おい、これは虫系の魔物じゃないだろ。この穴の空き方は……ランスだ。お前、まさか魔王城の城下街まで行ったのか。そこまで攻めなくちゃいけないのか? それとも……」
オルスは口を開いて、何か言おうとしたが、笑顔で、首を横に振る。
「近くの森に出現したカマキルと戦った。油断したら、これだよ」
「本当か? それならいいが」
オルスは防具屋に革の鎧を預け、兵舎へと帰っていった。
兵舎に戻り、新しい布の服に着替えると、隊長に報告をした。
「ご苦労だった」
「隊長、お話が……」
「今日の事か?」
「はい」
「上には俺が報告しておく。お前は今すぐ図書館に行き、報告しなさい」
「わかりました」
オルスは反対側にある、国立図書館へと向かった。
夕日は山間に隠れていく。緑のスタンレーローブを着た魔法使い二人組が、こちらへ歩いてくる。
少年と少女だった。右手に持っているステッキで、小さく弧を描いた。
「ライト」
そう呪文を唱えると、玄関前に吊されている丸いガラス玉に、白い光が灯される。二人は、次々と光を灯していく。
橋を渡る。国立図書館には、すでに大きな明かりが灯されていた。
テッドがいる魔法研究所を横切り、一番奥の国立図書館へ向かう。
「失礼します」
中に入ると、本棚が所狭しと置かれている。カウンターには、一人の女性が座っていた。
「ご用件は、何でしょうか?」
「新しい魔物の出現地域と、攻撃手順の報告です」
「では、こちらに名前を書いてください。こちらの用紙には、戦った魔物と出現地域を書いてください」
オルスは言われた通り、用紙に書いていく。そこへ、男性がやってきた。
「では、どんな攻撃をしてきたのか、お聞かせください」
別室に行き、オルスは覚えている限りの事を、身振り手振りで話していった。司書はガイコツ騎士の記録本を見ながら、時に質問をしながら、用紙に書いていく。
「そうですか。あの十字路に、ガイコツ兵とガイコツ騎士が出現されたんですね。そして、手の平から青い玉を発したと」
「はい、魔法だと思われます」
「新しい発見です。ありがとうございました」
図書館を出る頃、月が真上になっていた。見習い達が灯したライトは、衰えず光っている。
橋を渡り、繁華街から少し離れた所へ。反対側に向かって歩いて行く。先ほどとは違い、静まり帰っていた。
職人街に着くと、自分の家が見えた。あくびが出る。一気に眠気に襲われた。
静かにドアを開けると、居間に両親はいなかった。灯も消えている。足音を忍ばせ、自分の部屋に。手探りで自分のベットを探し、見つけると体を預けた。そして一気に深い眠りに落ちた。
翌日、訓練を終えたオルス達は、その場にとどまる様に命令された。そこへ、重装兵、弓兵達もやってきた。違う部隊が集まるのがわかり、雑談が減っていく。逆に一気に緊張感が増した。
「こんな集まり、今まであったか?」
「いや、全くない」
檀上に、隊長が現れた。
「プラッカー王国、軍事最高指揮官、ウラシュ様から通達がある。みな正面を向くように」
気をつけの姿勢で正面を向いた。入れ替わり、ウラシュが兵士達の前に立つ。
ウラシュは、全員が集まっている事を確認する。
「マイクを」
その隣にはテッドがいた。右手に向かって、呪文を唱える。
緑色の光り輝く玉が現れた。テッドは、それをウラシュの口元に持っていった。
「一番後ろの者よ。聞こえるか」
一人の兵士が、手を挙げた。
ウラシュはうなずき、咳払いをする。
「昨日、この先の十字路で、ガイコツ兵とガイコツ騎士が現れた。先発隊と護衛隊の活躍によって、国王の命は守れた。だが、君たちが今まで戦った事がない相手が、すぐそこまで侵攻している可能性が高い」
ウラシュは、兵士の顔を眺めた。皆、視線を下に向けている。
「明日から、訓練を一段と厳しく行う事を決めた。最悪、死人が出るかもしれない。覚悟するように。以上」
それだけ言うと、ウラシュはその場から去っていった。
兵舎に戻ってきたオルスと仲間達は、大きなため息をついた。
「オルス、さっきの話、本当なのか? 沢山の死人が出たのは聞いてたけどよ」
「一日で、何十人も死ぬなんて、今までなかったもんな。おかしいと思ったよ」
仲間が続々と、オルスに聞いてくる。
「ガイコツ騎士、相当強かったのか。どんな攻撃方法なんだ?」
「勇者があの場にいなかったら、全滅していた」
「えっ」
仲間たちは絶句した。
「すぐに訓練して、勝てる相手じゃない。俺たちはガイコツ騎士、一体にも勝てない。ガイコツ兵よりも下だ」
オルスは苦い顔をした。
「でも、十字路に現れたんだろ?」
オルスは頷く。
「勇者は、一人で戦ったのか?」
「一人で、その場にいる魔物を全てを倒した。あんな剣さばき、見たことない」
「今、どこにいるんだ?」
仲間は悲しい顔をしながら、
「人里離れた所で暮らしているらしい。人間嫌いになったようだ。そりゃそうさ。魔王を倒すまでは、二人とも崇められていた。勇者は他の兵士より圧倒的に強かった。賢者は、誰よりも早く呪文を唱え、威力が強かった。だから、この二人なら倒せると、国王も国民も信じていた」
「だけど、倒せなかった。あと一歩だったんだよな」
仲間は頷いた。
「あの時代、クレチア王国と合同で、魔王城へ攻め込んだって教えられたよな。もう少しで、魔王を倒せそうだったけど、月が真上にきてしまった。月が真上にきたら、倒した魔物は復活してしまう。逃げる判断をしたんだ。仲間は多く殺された。被害は甚大。帰ってきたら、国民に手の平を返されたんだよな」
「伝説の臆病者、勇者。そう言われ続けた」
「俺たちは、死んで当たり前って思われているからな」
オルスと仲間達は、深いため息をついた。
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