暴かれたスケパン

 やはり、というのが、生徒会室で待ち構えていた“ネイキッド”に会った僕の感想だ。

「お前が“ネイキッド”か。――生徒会長、本多マクシム」

 ウマミミの男は、僕の指摘に口元を吊り上げた。その様は、やはりキザったらしい。

「その通り。ようやくお目通りかなったな、エージェントA1」

 ようやくも何も、転校初日から会っていたじゃないか。“ネイキッド”としての顔という意味では初対面かもしれないが。

 ああ、馬鹿馬鹿しい。本多マクシムにまつわるアレコレは、今になって思えばすべて馬鹿馬鹿しい。

「お前が隠している名前は“ネイキッド”だけじゃない」

 僕としては、認めがたい事実ではあるが。

「スケパン仮面。学園を中心に出没する露出狂へんしつしゃ。それがお前の本性だろうが」

「……くっ、くくく。そこまで見破っていたとはな」

 マクシム――いや、ネイキッドは、生徒会長の指定席から立ち上がった。タヌキミミの武将が、ヒトミミの侍を叩きのめす屏風を背に。

 机に隠されていた彼の下半身が露になる。

 学生服の下には、何も着用していなかった。正しくウマ並な股間のT-REXが二十世紀少年だった。

 そのT-REXと、僕が雪から取った型を比較する。ピッタリだ。

「なるほど、あの夜か。私自身が君に手配した特殊硬化剤が鍵になるとは、皮肉なものだね」

 変態の本性を看破されたマクシムは、なぜか愉快気である。変態の思考にはどうやっても共感できそうにない。

「男子トイレの小便器に隠しカメラを仕掛けて、こいつと一致するオ○○○○の男を探したよ」

 二度とやりたくない作業だった。だが、その甲斐あってスケパン仮面の正体を見破ることができたというわけだ。

「事あるごとにあの破廉恥な格好で出没したのは、どういう意図があったんだ? 僕にはそれだけが分からない」

 変態行為を働くにしろ、もっと他の人間がいたのではないか? 敵国のスパイという危うい立場の僕じゃ無しに。

「何を言うかA1。私は“ネイキッド”として、君と直接コンタクトを取りたかっただけだよ」

 それならば、

「なんでスケパン仮面としての服装で僕と接触しようと?」

「趣味と実益を兼ねて……」

「本当にろくでもない理由だな!?」

 こんな人材へんたいを協力員として寄越したMI3は、やはり裏切って正解だったのではと思わないでもない。

 僕は正しい行いをしたんだ。周りが全部間違っていても、変態でも、僕とケモミミ美少女だけは無謬であれ。

 とにかく、だ。こいつの趣味嗜好はどうでもいいし、今すぐズボンを穿けとも言わない。

「お前の立場を明示してもらうぞ。――本多マクシム、あんたは誰に付いている?」

 僕は拳銃をマクシムに向け、彼の意志を問うた。

 いくつもの勢力が壁の東西で踊り、僕はおよそそいつら全てと渡り合う必要がある。“ネイキッド”が僕にとっての敵ならば、容赦はできない。

 マクシムは股間を露出させたまま、

「なんの因果か西側の手先などやってはいるが、私は私の下にしか付いていない。最初からな。私は私の下にしか付いていない」

 大事なことを二度主張した。

「……もう少しはっきりと言え。所属を確認できないと、こいつを撃つしかなくなるぞ」

 狙いは急所。いや、下じゃなく上の方。引き金を引けば、ウマミミ人の脚力でどう動こうが即死させる。

 そんな状況でも、マクシムの態度は変わらない。冷や汗一つかいていなかった。

「強いて言うならば、共和国内の民主派とでもいったところかな。コソコソと活動はしてきたが、西側の諜報機関は我々のような自由主義者に敏感でね。利害も一致していたし、政府転覆を前提にお付き合いさせてもらっていたというわけだ」

 危険な思想を、さらっと垂れ流しやがるものだ。

「で、今は?」

 重要なのは今、この状況における立場。民主派の彼が、強権を握ったミッコ大統領に付くはずもないが、こいつはさらっとテープを彼女に渡している。

 どうにも、掴みづらい男だ。

 僕の逡巡もよそに、マクシムはきっぱりとした口調で言う。

「私は君の味方だ。最初からそう言っている。エージェントA1……いや、小早川エーチ。君のことは、友として見ているつもりだよ」

「友?」

 マクシムの目に偽りはない。だが、友とは一体? まさか、スケパンを一度被ったからといって同類として見られているのか!?

「君の言葉は身に染みたよ。私は確かに、世間から自分の『好き』を否定されることをビビッていた」

 それは、スケパン仮面との追いかけっこで僕が言った台詞。

 あんなの、こいつは覚えていやがったのか。

「君は私が友と呼ぶに足る人間だ、エーチ。女装趣味というのも実にいい。その衣装も似合っているよ」

「うるせえ! これは僕の趣味じゃねえ!」

 とりあえず、本当に不愉快ですらあるが、スケパン仮面こと本多マクシムは僕の味方らしい。

「ところで“跳び越えた少女”は――徳川エーコはどうしたね? ……と、問うまでも無いか」

 マクシムはエーコが拉致される前に現場から離脱したと思われる。しかし、僕の様子を見れば一目瞭然ということだ。

「拉致された。今頃は壁を越えて西側だろうね」

「そうか……」

 と、同じ生徒会として、そこそこ長く彼女と過ごしてきたであろうマクシムは、一瞬だけ残念そうな顔を見せた。

 僕は銃を下ろした。一応、信頼はして大丈夫らしい。まだズボンを穿く気配を見せないのは気がかりだが。

「聞かせろ“ネイキッド”。『ワンダーウォール』とはなんなんだ? どうしてMI3までもがそいつに協力する?」

 ここからが、本当に重要な話。

 おそらくは『ワンダーウォール』こそ、一連のミサイル墜落事件の核心に存在している。

 マクシムは厳かに口を開く。

「そもそも私は“跳び越えた少女”を発見しても、MI3に報告する気は無かったのだ。この件に、民主活動家としての私が尻尾を掴んでしまった秘密組織が関わっていると勘づいたのでね。――いいかねエーチ、ワンダーウォールとは」

 ワンダーウォールとは……!

「東西両陣営の中枢が参加している秘密組織。この日本を影で操っているといっても過言ではないだろう。その目的は、私が知る限り『関ケ原合戦の永続的にして完全なる決着』『冷戦構造の破壊』すなわち――」

 無理だ。関ケ原合戦は終わらない。東側と西側は永遠に睨み合いを続けるに違いない。

 戦争を終わらせるなど無理だ。たった一つの手段を除いて。

「ケモミミかヒトミミ、どちらかが死に絶えるまで続ける絶滅戦争。それが『ワンダーウォール』の結成目的だ。彼らはそのために、『超高高度経由ミサイルシステム』の研究内容を密かにやり取りしていた」

 だから、全面核戦争を積極的に起こす。新型兵器により両国の均衡を崩してでも。互いを憎むがために互いに手を結んだ、矛盾の塊。

 まるで狂気だ。僕は二の句が継げなかった。

 マクシムはさらに、衝撃の言葉を口にする。

「MI3など走狗に過ぎない。『ワンダーウォール』の盟主はたったの二人」

 両国の中枢にいる二人。それは……

「東側大統領、江戸の将軍様こと徳川ミッコ。そして、西側唯一の立憲君主――京の帝だ」

 僕がこれからエーコを取り戻すため戦うのは、日本の全て……ということだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る