第108話

「場所を、移そう」

「学園の寮はどうだろう?」


「分かった。男性寮で、話をしよう」


 クサナギカムイは、落ち着いた口調で笑顔のまま言った。

 動きはゆっくりだが、体の軸がぶれない。

 多分、俺よりプレイヤースキルは高い。


 そう思った。


 カムイはヒロイン2人と別れて俺と学園の寮に移動しつつ話す。


「分からない事がいくつかあるんだ」

「1つずつ、聞こう」


「カムイはゲームの世界の主人公だよな?でも、この世界がゲームとは思えない」

「俺は、ゲームを、やった事が無い。だが、ゲームはこの世界を、元にして作られた。順番が、逆だ」


「この世界を元にゲームが作られた?何でこの世界を元にゲームを作ったんだ?」

「この世界の、シミュレーションの、為だ」


「シミュレーション?」

「俺達の、居た世界は、パソコンのシミュレーション能力が高い。魔力ではなく、情報科学が、発達した世界は、珍しいらしい。この世界を再現した、ゲームを作って、異世界の人のゲームの情報を、収集する為らしい」


「何のためにこの国のシミュレーションをするんだ?」

「この世界を、救う為だ。この世界は、何度も魔物によって、滅びている」


「魔物に滅ぼされないように異世界でシミュレーションをして、世界を救う糸口を見つけたいってことでいいのか?」

「そうだ」


「解決策は見つかったのか?」

「見つかった。その為に、俺と、皆が召喚された」


「え?待ってくれ、もう1つの疑問になるけど、召喚したのは王様じゃないのか?」

「違う、王は、そう思っている、だけだ。召喚出来るのは、女神だけだ」


 思い当たる節がある。

 王はエクスファックに操られるか乗り移られている状態だった。

 エクスファックは複数いて思考が繋がっている。


 その状態で真実を話すのは都合が悪い。

 敵に嘘の情報を流すか誤解させると考えればしっくりくる。


「世界を救うために俺達が必要なのか?」

「そう、らしい」


「……女神の力で世界を救うことは出来ないのか?俺を転生させたりしてるだろ?女神は大きな力を持っている」

「女神が、力を使えば、魔物の力も、増す。そううまくは、行かない」


 光が増せば闇も増す的な感じなのか。


「話は戻るけど、俺達は世界を救うのに必要なんだよな?」

「そうだ」

「何をすればいいんだ?」


「分からない」

「ん?」


「俺達は、多様性を、持ち込むためにいるらしい。そして女神の予測を超える可能性を持っているとも言っていた。1度、皆を、この世界に転移させて、能力をリセットしたのも、その方が、世界を救える可能性が、上がるから、らしい。俺も詳しくは知らないんだ。俺も、皆と同じだ。転生の時に、女神と話した程度の、知識しかない」


 思い当たる節がある。

 もし俺が転生できなかったら、体をボロボロにして死んでいたと思う。

 前回の経験があって俺は休息の重要性を知った。


 それと、プレイヤースキルは前回の経験が生きている。


「そうか、でも、すっきりした。ありがとう」

「所で、こっちからも、いいか?」

「あ、どうぞどうぞ。悪かったな。俺だけ聞いてしまった」


「俺が主人公のゲームは、どんなゲームなんだ?」

「戦闘に力を入れた、エロゲだ」


「エロゲ、か」


 大人っぽい顔をしたカムイが急に子供のような顔になった。

 カムイは背が大きく、体格がいい。

 そんなカムイの意外な表情につい顔をじっと見てしまう。

 これは、女性にモテるよな。


「ヒロインはカムイの近くにいたアリスいたずら魔女シノン忍者娘、それにファルナとエリスだ」


「俺が、前の世界で、結ばれた4人だ」


 そういう事か。

 ヒロインはカムイと結ばれたからあの4人だったのか。

 なら、この世界の他の人間とヒロインの違いはない。


「エロシーンは、あるのか?」

「ある」


 カムイがしばらく固まった。


「……そうか」


「他に質問はあるか?」

「いや、無い」


「寮に着く前に話が終わってしまった」

「そうだな」


「定期的に話を聞かせて欲しい。今日は転生したばかりで質問したいことがまた出るかもしれない」

「分かった」


 俺はカムイと別れた。

 まともな男と久しぶりに話をした気がする。

 楽しかったな。


 俺は、カムイを頼もしく感じ、安心感を覚えていた。

 今まで俺は、ファルナの部隊やヒロインの命を守ろうとしつつ自分のレベルを上げてきた。

 でも、今の俺は弱い。

 弱くなって注目されなくなって嬉しいと思ってしまう。

 俺はおかしいんだろうか?


 いや、俺は自由が好きだ。

 注目されない事のデメリットもあるけど、メリットもある。

 俺は皆からの注目を失い、目立たない存在になっていく予感があった。


 シスターちゃんの言葉を思い出した。

 俺の試練は女神の祝福、か。


 目立たなくなったのも、アサヒにバトルモードでひどい目に合うのも、パーティーを組めないのも、一見悪い事に思えるかもしれない。

 でも、逆なんじゃないのか?

 短期的な不幸は、長い目で見た幸福につながっているように思えた。


 日本のお坊さんの話を思い出した。


『幸福を感じて生きていくには、苦しい思いをしなさい』


 世界で最も幸せな脳を持つ人は金持ちでも、容姿に優れた人でもない。

 お坊さんらしい。

 厳しい修行を行い、息をしているだけで幸せに感じられるらしい。


 ……もし次のバトルモードでアサヒに負けたとする。

 でも、負ける事で俺への注目は薄くなっていく。

 

 それが、心地よく感じる。

 ゲームにのめり込むように、魔物を倒したい。


 休まずに無理をすれば……ファルナ母さんが許さないか。

 絶対に怒るな。

 俺は一人で笑う。


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