第61話

 俺はファルナに続いてうさぎ亭に入ろうとする。

 だがファルナは途中で止まった。


「後ろが詰まっている。早く入ってくれ」

「え、いや、わ、わたくし、その」


 大部屋の中に入るとカインとアオイが同じベッドに居た。

 

「ん、失礼しました」


 俺は出て行こうとする。


「ま、待ちなさいよ!た、助け!助けなさい!」

「あ、アオイ、は、恥ずかしがって嘘をつくのは、よ、良くないよ。君が僕にどうしてもとお願いしたんじゃないか」


「ち、違うわよ、カインが」


 アオイが途中まで答えた瞬間、カインがアオイの肌を撫でる。


「ん!!」


「早く入ってください!後ろが詰まってますよ!」

「早く休みたいんだ。中に入りたいよ」


 トレイン娘・エリス・ヒメが入ろうとしてくる。


「その通りだ。レディーファーストだ!俺はすぐ出て行く」


 危機回避だ。

 ただでさえやばいアオイとカインが同じベッドに居る。

 危険しかない!


 男女の関係という事にして気を使う体で俺は脱出する。

 アオイとカインだけでも厄介だ。

 しかもそれ以上のやばい何かを感じる。

 

 俺のセンサーは一瞬で反応する。

 ここから逃げろと俺の直感がささやく、いや、大声で叫んでいる。

 ここから立ち去れと。

 

 直感は大事だ。

 戦いにおいてもそうだ。

 理性を使いすぎず、直感に身を任せる直感力の大事さは分かっている。


 トレイン娘・エリス・ヒメが入ってきて、驚愕の表情を浮かべた。


「ヒメ、エリス、これは違うの!!違うのよ!!」


 アオイが叫んだ今がチャンスだ!

 俺は颯爽と部屋を出る!


 俺はトレイン娘・エリス・ヒメに服を掴まれた。

 脱出しようとする俺の服が伸びる。


「な、何とかしてください!ハヤトさん!」

「ハヤト君、どうにかして!」

「ハヤト、逃げちゃだめだよ」


 俺の敏捷特化を上回る反応速度で服を掴まれただと!


 トレイン娘とエリスは俺の腕に絡みつき、逃げられないようにロックした。

 更にヒメは後ろから俺の服を両手で掴む。


 何だよ!

 その連携なんだよ!

 お前ら仲よしすぎるだろ!


「だ、男女のあれこれに首を突っ込む気はない。幸せになってくれ」

「ぼ、僕は、あ、アオイの事はそこまで好みじゃないよ。あ、アオイがどうしても、して欲しいって言うからだよ。ぼ、僕の魅力値の、た、高さとぼ、僕のテクニックでアオイは僕に夢中なんだ」


「それは良かった。そういう関係もあるのかもな」


 俺は後ろに下がろうとして3人に完全にロックをかけられ足を止められた。

 解決するまで、動けないだと!

 俺に密着するのは、問題が無い時にしてくれ!


 俺は頭を高速で回転させ、答えを探す。


「所で、スティンガーは倒せたのか?カインなら行けるかもと期待していた」

「ま、まだだよ。でも、敵の数は大分減らしたよ。もう、に、20人も、い、居ないんじゃないかな?」


 俺は深刻そうな顔をして言った。


「そうか、いや、カインがスティンガーを倒してくれていれば助かったんだが、このままじゃファルナの苦労が絶えないな。最強のカインでもスティンガーを倒せないなら、まずい!今は兵も疲弊している!すぐ数名で会議を開きたい」


 会議を開いてこの場を無かったことにする!


「ぼ、僕なら倒せるよ。ぼ、僕は最強だからね」

「そうか、すぐに兵を中に入れてくれ。休める者は休ませよう!いつスティンガーが来るか分からない!休める時に休んでもらわねば!」

「そうですわね。見張り以外は休ませますわ」


 入って来る兵士のお姉さんを増やして大人数にする。

 この場を無かったことにする。

 触れてはいけない領域がある。

 アオイ、カイン、そのまま幸せになってくれ。


「このままではまずいですわね。スティンガーが居るなら、ここに攻めて来ますわよ」

「このままじゃファルナの負担も大きくなる。ずっと仕事漬けだろ?これからも続けばファルナが倒れるぞ。少し座ってくれ」


 こうして自然に大きなテーブルに座らせる。

 ファルナの横にカインが座る。


 アオイは気絶、いや寝ている。

 そう、寝ているだけだ。

 熱い時間を過ごしたら寝るのは普通。

 そう、普通だ。


 俺の仕事は終わった。

 スティンガー対策の会議が始まった瞬間に気配を消して抜け出す。


「お、お待ちなさい!!」


 俺はファルナに退路を断たれ、最後まで会議に参加した。





【スティンガー視点】


「たぎる!」

「申し訳ありません!しかし、うさぎ亭にファルナの部隊が帰還し、豚とアオイの姿も確認されました!それと、うさぎ亭に放った斥候が3名戻ってきません!」


「やっと動きを掴めたか。斥候が戻らぬのは豚が居た証拠だ!団員全員を集めろ!女と豚を狩る!」

「今、度重なる戦闘と豚の影響で団員が減っています!ここを空け、総力で臨む考えでよろしいでしょうか!?」


「構わぬ!たぎる!堂々と出陣し、ファルナとアオイを捕まえる!」

 

 ファルナは王位継承で残る3王女の邪魔者だ。

 アオイは異端者で堂々と狩れる。

 隠れて動く必要は無い!


 我は舐められるのが我慢ならん!

 そして逃げられるのも我慢ならん!


 だが、うさぎ亭にはどちらもある。

 舐めてくる豚を殺し、アオイを手に入れる!

 ファルナも他の女も貰う!


「ツヨシ!出番だ!成長したお前の力を発揮しろ!うまくいけば、ファルナとアオイ以外の女を1人だけ、初物としてくれてやる!」


「旦那、その言葉を待ってたぜ!」


 スティンガーと剣聖ツヨシはお互いに口角を釣り上げて邪悪な笑みを浮かべた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る