第33話

 3階に着くと、兵士とクラスメートが血を流している。


 10メートルを超えるアサルトボア。


 その周りを100ほどの雑魚のアサルトボアが取り巻きのように囲む。

 間違いない。

 ボスは味方を呼ぶタイプだ。

 厄介なタイプだ。


 ゲームでは女性は殺されない。

 だが、この世界はゲームとは違う。

 当たり所が悪ければ普通に死ぬ。

 そして死ななくても魔物に連れ去られる。


 ボス1体なら何とかなったかもしれないが、雑魚が厄介だ。

 ボスを攻撃しても横や後ろから攻撃される。


 ボスのHPは雑魚の100倍だ。

 皆で囲んで攻撃出来ればすぐ倒せるが、周りの同族が居なくなるまで仲間を呼ばれたら厳しい。


 俺は前に出る。


「スケルトン!」


 俺の横に2体のスケルトンが現れる。

 こいつで魔物のターゲットを分散させる。


 すかさず魔力ポーションを飲む。

 闇魔法の魔力消費は大きいのだ。

 そしてポーションは少しづつしか魔力を回復しない。


 俺は前に出てダガーを投げる。


 近づいた魔物は斬り倒す。

 複数のアサルトボアが俺をターゲットにする。


 スケルトンがやられると同時に俺の横からスケルトンが出現する。

 スケルトンの魔法スキルの効果時間は1時間。

 継続戦闘に関していえば闇魔法スキル3種の中でトップの性能を誇る。


 俺はアサルトボアに囲まれた瞬間に叫んだ。


「シャドーバインド!」


 突撃してくるアサルトボアを数秒拘束する。

 俺に迫っていたアサルトボアが衝撃を受けるように拘束され、動きが止まる。

 その数秒が俺の危機を遠ざける。

 その瞬間にアサルトボアを攻撃して数を減らす。




 30体は減らしたか。

 魔力ポーションの効果が切れたタイミングで魔力ポーションを飲む。



クラスメートと兵士が驚愕の表情を浮かべた。


「な、何なの!」

「彼こそが勇者です!」

「皆、今の内に回復して!立て直して!」


 もっと減らす!

 仲間は無限に呼べない。

 この周辺のアサルトボアが居なくなれば魔物を呼んでも意味は無いのだ。


 スケルトンとダガーで出来るだけアサルトボアを倒す。


 アサルトボアが半分以下になったタイミングでボスが俺に目を向けた。


 グオオオオオオオオオ!


 仲間を呼びつつ突撃してくる。

 魔力が回復した!


「シャドーバインド!カースウォー!」


 シャドーバインドで雑魚の動きを止める。

 ボスの動きは一切変わらないがそれで十分だ。


 カースウォーで俺の攻撃力・防御力・速度を1分間40%引き上げる。

 攻撃力40%アップ=ダメージ40%アップとはならない。

 攻撃力-防御力がダメージになるからだ。

 体感で8割増しのダメージを与える。


 更に速度もアップし攻撃速度は上がる。

 その上防御も上がり強引に切り込めるようになる。

 総合で考えれば火力は通常の倍を超える。

 


 ボスの攻撃を高速で避け、ボスが通り過ぎた瞬間に一気に雑魚を減らす。


 持続力のスケルトン。


 緊急回避のシャドーバインド。


 そして必殺のカースウォー。


 この3つのシナジー効果が闇魔導士の強みだ。


 殴り魔セットの本質は攻撃特化!



 ただし代償もある。

 もう魔力が無い。

 MPの消費が大きいのだ。


 そして、


「く、呪いLV1を受けたか」


 俺は隙を見てすぐに左手で異常解除のポーションを取り出して飲む。

 闇魔導士の力を真に発揮するには呪いの解呪が不可欠だ。

 ポーションはすぐに呪いを解除できない。

 徐々に効いてくる。


 右手ではダガーを投げる。

 カースウォーは呪いの蓄積が早い。

 呪い耐性LV10を取得してなお呪いが蓄積される。


 3つの闇魔法を一気に使えば呪いの蓄積が更に早まっていく。

 呪いLV1で1割の能力値が下がる。

 LV10になれば、死ぬ。

 いや、その前に弱った状態で簡単に魔物に殺されるだろう。


 一気に雑魚を倒す!

 カースウォーでブーストした今の内に俺の周りの雑魚を倒す。


 呪い耐性と状態異常回復のLVを限界まで上げても呪いを解除スピードを超えて呪いが貯まっていく。

 異常解除のポーションを飲んでも止められない。


『呪いの状態異常LVが1から2に悪化しました』



 雑魚が減った瞬間にボスに切り込む。

 投げではなく飛び込んで斬りつける。

 投てきより斬りつけの方が攻撃力が高い。


 何度も斬りつけ、ダメージを蓄積させる。


 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 HPが半分になった事でボスから闇の触手が出てくる。

 ボスはHPが半分になると闇魔法の触手が出て強化される。


「うおおおお!」


 ザン!ザン!ザンザンザン!



『呪いの状態異常LVが2から3に悪化しました』


『カースウォーの効果が切れました』


 魔力が足りない。

 カースウォーを使えない。

 

 呪いのLVが上がって体が重い。


 俺の体に黒い斑点が広まっていく。

 呪い状態だとすぐにわかる。


 俺はボスの突撃で吹き飛ばされた。


 周りの雑魚が俺を睨み、突撃体勢に入る。


「まずい!やられる!」


 俺は死を覚悟した。


 その瞬間。


「ウォークライ!」


 クラスメートの女子がボスを挑発する。

 ボスが大楯を持った女子にターゲットを移す。


「今の内に呪いを治して!」


「リカバリー!」


 状態異常解除の魔法スキルで呪いが解除される。

 だがリカバリーのレベルがどんなに高くても1回の魔法で1LVしか解呪出来ない。

 呪いは解除しにくいのだ。


「魔力ポーションを飲んで!」

「リカバリー!」

「ヒール!」

「リカバリー!」



 更にパーティーのみんなは雑魚の数を減らす為戦う。

 最後の魔力を振り絞って俺を回復させてくれている。

 すぐに魔力ポーションを飲む。

 MPが後10ポイント回復すればカースウォーを使える!


 あと少しだ!


 時間の流れを遅く感じる。


 短い時間が生死を分ける。


 

 トレイン娘がアサルトボアを倒した瞬間変化が起きた。





『固有スキル:訓練のLVが3から4にアップしました』


『固有スキル:訓練が【きゅう】に進化します』


『きゅうの能力で能力値に100ポイントの振り分けが可能です』


「スキルが進化した!少しだけ時間を稼いでくれ!後MPが7回復すればカースウォーを使える!」


 俺が欲しかった能力値は決まっている。


 体が重い。


 動きが遅い。


 俺の感覚に動きがついてこない。


 俺は敏捷に100ポイントすべてを振り分けた。

 






 ハヤト 男

 レベル:1

 固有スキル きゅう:LV4

 ジョブ:闇魔導士

 体力:1+100  

 魔力:1+100  

 敏捷:7+200 【UP!】 

 技量:1+100  

 魅力:0+100 

 名声:0+100  

 スキル・闇魔法:LV10・全能力アップ:LV10・スタミナ自動回復:LV10・短剣:LV10・投てき:LV10・罠感知:LV10・敵感知:LV10・偽装:LV10・呪い耐性:LV10・状態異常自動回復LV10 

 武器 白のダガー:50 ・防具 初心者卒業防具:30



 

 俺は立ち上がってボスに突っ込む。

 何度も斬りこむ。

 カースウォーまであと3ポイント!


「速い!」

「今までと動きが違うわ!」


 敏捷が107から207にアップした。

 速いのは当然だ。


 MPが後1ポイント!

 ボスを連撃で斬りつける。


 魔力が貯まった!


「カースウォー!」


 カースウォーの発動と共に異常解除のポーションを飲んだ。



「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 俺は斬りつけた。


 時間の流れを遅く感じる。


 何度も何度も斬りつけた。

 何度も何度も突き刺した。


 時間の流れが分からなくなる。

 無視して攻撃を続ける。

 戦いに集中する。




 ボスがゆっくりと倒れ、消えていく。



 そして雑魚を倒し、地面に座り込んだ。

 傷を負い、体は疲れ果てていた。

 だが、生き残り、危機を打破した快感に震える。

 高揚感が心を満たした。


 遅れて、歓声が聞こえた。


 ハヤトは勝利し、クラスメートの危機は去った。

 一方でボスを押し付けたアサヒのパーティーに更なる不幸が訪れる。




 




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る