第37話

西の大陸の南東付近にある麓の村、ロンの村。

ここは、人間とエルフが共同生活を送っている、小さな村である。


「この辺りでこの子を見掛けなかったか?」

ピュリアーツの森で、絵師をしている、ハイエルフのレーシーに描いて貰った、お気に入りのクマのぬいぐるみを抱いている、フリックの絵をレイオスは取り出しながら、酒場で給仕をしている、エルフに聞いていた。

「うーん。見掛けなかったかなぁ」

「そうか…」

「大体、私のようなエルフやダークエルフはともかくだけど、ハイエルフやシルヴァンエルフが人間のいる村に来るのは、珍しいぐらいなのよ?」

ましてや、そんな小さな女の子が一人で、人間の村に来るのは、普通はあり得ないのだと返して来たのである。

「尤もな意見だな…」

ススッとワインを飲みながら、ネイサスは言った。

「となるとネイサス兄さん。フリックは…」

「…西の国か」

「…あの国は僕たちエルフが行くのは、危険過ぎる」

通称、霧の国と呼ばれるラグーン王国は、エルフの魔法を無効化すると呼ばれている国だということである。また、剣の使い手であるネイサスでさえ、剣の腕を半分以下まで押さえ付けるという、特殊な魔石を使用されているのである。

「…こうなったら、北のシェルファ殿に協力を仰ぐしかないか」

「…そうだね。彼女なら何か手を貸してくれるかも知れないね」

レイオスを差し置いて、ネイサスとエリオスは勝手に話を進めていったのだった。

「っておい。何を呑気に北に行こうって言うんだよ。それに霧が何だって言うんだよ…」

「お前は知らないから言うんだ。あの霧がどういった霧なのかをな…」


昔、レイオスのように、ネイサスもちょっとした好奇心から、西の大国である、ラグーン王国へと行った際、ちょうど霧に覆われている時期だったことから、強烈な何かに襲われ、剣の腕を半分以下まで押さえ付けられたという。同じく同行していたルシウスは、魔法が一切と使えず、何とか二人はピュリアーツの森まで、帰ることが出来たということであった。


「だけど、まだ…フリックがラグーン王国にいると決まった訳ではないだろう」

「…言われてみればそうだけど、とりあえずさ?明日はレズモンド王国に行ってみようか。ダメ元でも何か分かるかも知れないし」

そうエリオスは返すものの、先程の給仕がボロネーゼパスタとサラダを持って来るなり「あそこは行かない方がいいわ!」と言って来たのである。

「は?なんで?」

「あそこは、あたしみたいなエルフやダークエルフは問題ないけど、あなたたちみたいなエルフは、男でも狩りの対象になるわよ」

考えただけでも身震いすると、給仕は言ったのである。


そう、給仕のような一般的なエルフは、人間と同じ位の魔力しか持たないが故に価値はないものの、魔力豊富である、シルヴァンエルフがレズモンド王国に行くと、下手すれば、命がないということであった。






「オレ様、サイコーだぜい!」


シリウスが生成したばかりの人面樹は、そう叫びながら、ゴボウ生成していた。

「…何たってあんなのが出来たんだろ。俺の生成方法に何か間違ったかな。あー…ゴボウ畑にはしないでくれよ?他にも色々と野菜や果物となる人面樹を生成しなきゃいけないから」

「分かっているぜい!イエーッイ!」

「…まあいいか。変なのがいても…」

そうシリウスは溜め息を吐きながら、ミレイの様子を見に行ったのだった。


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